第7話 おダンゴちゃん

 あの人のことが気になりだしてから、どのくらいたつでしょう。

 中学生になってしばらく、彼は、ただ視界の片隅にいつもいるだけの存在でした。

 けれど、いつの間にか少し気になる存在になっていたのです。

 彼が私に振りむいてくれることは、決してないでしょう。

 だって、私は――。


「おダンゴちゃん、これ、職員室に持っていって」


 委員長の百木ももきさんが、プリントの束を私に押しつけてきます。


「え? でも私、これから図書委員の仕事あるから……」


「図書室なんて、開くのが遅れたって誰も困らないよ」


「でも……」


「いい? これは学級委員としての命令なの。今すぐ持ってって!」


 百木さんは私の手を取り、その上にプリントの束をズシリと載せました。


「……わ、分かりました」


 どうして、いつもこうなんだろう。

 みんな面倒な仕事を私に押しつけます。

 見た目が悪いからでしょうか?

 頭の上でまとめている髪が、お団子みたいということでついた私のあだ名、「おダンゴちゃん」

 そんな名前で呼ばれて、私が平気だと思っているのでしょうか?


 背が低く、太い黒縁の眼鏡を掛けてるのが悪いのでしょうか?

 みんなより、スカートが長いのがいけないのでしょうか?

 休憩時間も一人でいて、ほとんどしゃべらないからでしょうか?


 いつからか、気が安らぐのは、彼、切田苦無きれたくない君を見ているときだけになってしまいました。


 ◇


「苦無君、なんだか元気ないですね」 


 自分からは他人に話しかけないと決めている私が、思わずそう声をかけたのは、彼が浮かない顔をしていたからです。

 初めて見るその表情に、なんだか胸がキュンとなって、思わず声が出てしまいました。


「あ、堀田さん、なんでもないんだ。いや……それは嘘かな。ちょっと聞いてくれる?」


「あわわわ」


「?」


 人さまから相談など受けるのは、生まれて初めてなので、変な声が出てしまいました。 


「い、いいですよ! なんでも聞きますよ!」


「堀田さん、顔が近い」


「ご、ごめんなさいい! 私ったら……」


 彼の話というのは、小さなお友達が困っているという話でした。

 

「でね、来週テストがあるでしょ。その最終日に、タカシ君の幼稚園に行ってみようと思うんだ」


「私も行きます!」


「え?」


「苦無君がご迷惑でなければ、私も連れていってください」


「ええと、でも、堀田さんには関係ないし――」


「お願いです! どうしても行きたいんです!」


「そこまで言うなら、ぜひ一緒に行こう。ボクも、一人で行くのがなんだか不安だったんだ」


 ああ、これは夢でしょうか!

 苦無君と二人でお出かけなんて!

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