第50話 予想外の展開
「この間はきつい事を言って済まなかった」
朝一番に
扉を開けた途端に、
「この間は言いすぎた。すまん」
悔しい。
こっちから頭を下げるつもりだったのに先にやられてしまった。
「いや、僕の方こそ予期せぬ収入に浮かれてて自分を見失っていたよ。助かったよ。ありがとう」
実際あそこで
「それよりこんな時間にどうしたんだい?」
二人が訪ねてきた時間は
「あーそれな。ヴァルザスさんから
師匠が? なんだろ?
「それはそうとだな…………後ろの金髪巨乳美少女は誰だよ」
そう小声で
あえて
二人に昨日の出来事を説明すると、
「「なんて羨ましい…………」」
二人とも口を揃えてそんな感想を漏らした。
羨ましい? 結構気を遣うんだけどねぇ…………。
支度を済ませ師匠の屋敷までの道中でセシリーに
まずは軽く流しながらセシリーに
必要な話が終わるタイミングで師匠の屋敷に到着した。もっとも広大な敷地なのだが…………。
「なんか人のざわめきが聞こえない?」
最初に異変に気が付いたのは
顔パスで敷地に入りしばらく歩いていると確かにかなりの大人数の声が聞こえる。しかも
声のする方へと早足で向かうと————。
「おい、何人いるんだこれ?」
まさかとは思うけど、師匠がここらの奴隷を全部買い取ったのか? でもその意味は?
そう考えていると————。
「早かったな」
いつの間に近づかれていたのか声の主は師匠だった。
「先生…………まさかとは思いますが、この人数を身請けしたんですか?」
「地位も名誉も金もある人がスポンサーだ。俺は依頼されて実行しただけだよ。
なんでも既に適正額で買い取られた
ただすでに
あとは心身にダメージを負った者もいたそうだけど面倒だからそのまま送り返すらしい。
既に送還作業は始まっているらしく、ここに残っているのは順番待ちの者たちと、僕らが身請けした年少組くらいだ。
年少組が後回しになったのは、彼らが僕らに礼を言いたいと言い出した為だそうだ。
師匠の
口々にお礼を言われ、自分のしたことは無駄じゃなかったんだよね? と自問したりしていた。
中には元気が有り余っているのか一緒に冒険したいとか言い出す子たちもいたけどそこは
嵐のような勢いで年少組が去って行って師匠が僕らに小袋を渡してきた。
「これ、なんです?」
聞いてみたものの音と重さでお金だと分かった。だが意味が分からない。
頭にクエスチョンマークを浮かべていると、師匠が答えを述べた。
「それはお前たちが身請けした子たちの代金だ。依頼人が全額払うとの事なんで、それはお前らに返す」
なんと戻ってきてしまった。でもこんな太っ腹な依頼人とか誰なんだろう?
「依頼人を紹介する」
師匠がそう言うと立ち位置をずらす。
そして見えたのはこちらに歩いてくる和装の初老の男性だ。
「あっ」
目のいい
目を細めてみると…………。
「父上…………」
居るはずがない人物がここにいることで僕は混乱している。まさか僕を連れ戻すためにここへ来たのか?
近づくにつれてその人物が間違いなく
父は左右の手に木刀を一振りずつ持っており右の木刀を僕に投げ寄越した。
慌てて受け取る僕をよそに父は木刀を正眼に構えこう言った。
「構えろ」
そう父に言われ正眼に構えた瞬間には父は目の前にいた。【疾脚】による間合いつめからの突きが僕の首を掠める。かろうじて回避が間に合ったが攻撃はそれで終わったわけではない。攻撃を繰り出した父の上体が流れずピタリと一瞬だけ止まり切っ先が今度は袈裟斬りとなる。高屋流の【疾脚多段突き】の変形技だ。
バックステップで大きく躱し間合いをとる。着地した際の膝のバネを使って間合いを詰め刺突を繰り出す。だがこれは分かっていたとばかりに高屋流剣術の防御の技【
体勢を崩され回避も防御もほぼ無理という状況を打破すべく意図的に転んで地に転がり間合いを取る。ここで追撃されるとジリ貧になるのだが父は追撃してこなかった。十分に距離が開いたので起き上がると同時に木刀を正眼に構えなおしひと呼吸入れる。
正眼に構えた父に隙は見当たらない。その佇まいは師匠とはまた違った風格を感じる。
「…………」
長いのか短いのか時間の感覚が怪しくなってきたが、父は気を緩める気配はない。こちらから動いて隙を作らせるしかないと決めた!
正眼に構えていた木刀を振り上げる。左足を前に出す構え、左天の構えである。その構えを見て父の表情が変わった。ニヤリと笑ったのである。
その刹那、前足の膝の力を抜き一気に間合いを詰める。【
太刀筋を何度変えてもゆらゆらと躱され
【
同門の対決で相手は格上である。行動の大半は読まれてしまう。なにか手立てを考えないと…………。
唐突に師匠のマネをして下段蹴りを放つ。これには驚いたようで一瞬表情を変え大きくバックステップで間合いを取る。それに追撃するかの如く【
決まった!
そう思った瞬間には父はいなかった。
それは勘だった。反射的に左腕を出すと激痛が走った。
【
僕が決まったと思ったモノは【
高屋家の決まりで以後は左腕は使えないものとして対処しなければならない。片手持ちに変え中段に構える。いわゆる正眼の構えだ。
ここで弱気になって下段…………防御向きの地の構えなんて取ったら…………。
いや、当たって砕けろだ!
格上の父を相手に守勢で事態が好転するとは思えない。
ここで構えを変える。
右足を引き体を右斜めに向け木刀を右脇に取り、剣先を前に向ける。変形の横構えだ。だが意図が分かりやすすぎる。相手にこれから突きを繰り出すぞと教えているようなものだからだ。
これから試すことは【
左膝の力を抜き重力に引かれて前のめりになり始める瞬間。右足を蹴りだすと同時に左足を前に出す。ほぼ自己流で体得した高屋流上伝歩法【
やった! 決まったと思った。ただ単純に届いたと思ったことに歓喜した。
そう思った瞬間、父の姿はなく四方からほぼ同時に無数の打撃が襲ってきた。
「高屋流奥義【
痛みに意識が遠くなっていく僕はそのまま倒れこんだ。意識が飛ぶ寸前にそう呟く父の声を聞いたような気がした。
▲△▲△▲△▲△▲△▲
目が覚めると目の前に
「あ、起きた。どこか痛くない?」
「痛みは…………」
折れたと思った左腕も全身の痛みも…………ない。
「大丈夫みたいだ」
「良かった」
「みんな帰っちゃったのか…………」
「
「…………これは?」
「
父が…………なんだろう? 巾着を開けてみると、封筒と…………。
「
高屋家直系の男子が持つことが許される真鍮製の
予想していたが父の直筆の手紙であった。
三枚あり順に目を通していく。
先ほどの模擬戦の評価から始まって、最後にこちらの世界では成人扱いだという事で鍔を贈ると書いてあった。模擬戦が終わった後に急いで書いたのだろう。
最後の一枚は追伸だった。
孫が生まれたら見せに来い。それだけが書かれてあった。
父さん…………まだ早いです。
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