第47話 利用されようとしたらしい?

 ベッドに腰掛け訥々とつとつ隼人はやととの会話を和花のどかに話していく。

御子柴みこしばの言い分は正しいと思うよ————」

 和花のどかに説明したあと返ってきた言葉がそれだった。

和花のどかまでそんな————」

 伸ばされた和花のどかの指が僕の唇をふさぐ。

「————話は最後まで聞く事。施した恩が巡り巡って自分に帰ってくるって信じるのはいいの。でもそれは同じ世界にいるからだと思うのよ。私たちが先生やマリアちゃんに恩を受けそれを返す事は出来るかもだけど、身請けした子たちは元の世界に帰って二度とこの世界には来ないわ。今回降って湧いたように私たちが手にしたお金は庶民なら稼ぐのに20年はかかるというわ。庶民の御子柴みこしばからすれば大金をドブに捨てているようなものよ」


「あ————」

 そうだ、なんで失念していた。やはり良いことをする自分という状況にラリっていたのか…………。


「そうだ、いつきくん。今日は22人身請けしていくら使ったの?」

「6万ガルドだったよ」

「結構安い。私とすめらぎは初等部の子10人ずつで5万だったなー」

 一人頭金貨五枚かー。

 それでも本来の価格からは遙かに安いわけだけど。売れなった理由は意思疎通が難しいだけなんだろうか?

「今日は仕方ないけどあと5万ガルドだけ使おう。それでも非常時のお金は残るしね」

 そう和花のどかが提案してきた。確かに残りの金額を考えるとそのあたりが限界だろう。それで救えない人たちには申し訳ないけども…………。


「そうだ、聞いてよ。すめらぎったら獣耳ラトゥル族の少女をペット枠で買いたいとか言い出したのよ」

 僕の思案は和花のどかのこの一言で断ち切られた。

「ペット枠って…………。どんな子? 僕も獣耳ラトゥル族は見たけど真っ先に除外しちゃったから…………」

 観察する間もなく除外しちゃったんだけど、やっぱラリってて周りが見えてなかったんだなー。


「————ん。犬耳&犬しっぽの10歳くらいの可愛い女の子だったよ」

 人差し指を顎に当て少し考えこむような仕草の後にそう口にした。


 それはアリかもしれないな。

 あれ? もしかして一緒に行動してたの?


 そんな僕の思いが顔に出たのか、和花のどかがグッと顔を近づけてくる。

「なに? すめらぎと一緒に行動してたのとか思っちゃった? たまたま同じ店で遭遇しただけだよ。そもそもあの男は『Dカップ以下は女にあらず』とか真顔で言う巨乳教信者だよ?」


 ニヤニヤした表情かおで囁いてくる。何気に鬱陶うっとうしい。

「痛っ」

 和花のどかの額にデコピンを喰らわす。


「なんにしてもありがとう。冷静になれたと思うし、もう大丈夫」

 そう言って立ち上がると————。


「ただいま」

 玄関が開きそこには瑞穂みずほと師匠がいた。


いつき、話がある」

 僕が口を開くより先に師匠が話を切り出してきた。やっぱ昨夜の件だろうか?

 例のお守りの件もあるし丁度いい。

「僕も話があります」



 ▲△▲△▲△▲△▲△▲



 板状型集合住宅マンションを出て人気のない迷宮アトラクション区画エリアの富裕層向け区画エリアを歩く師匠に無言でついていく。

「————ここらでいいか」

 そう言って立ち止まったところは噴水のある広場だった。流石富裕層向けというべきかライトアップまでされている。

 日本やまと帝国ならリア獣たちがここでボルテージを上げて深夜の野獣と化すのだろうが、いまは誰もいない。


「受け取れ」

 師匠はそう言うと魔法の鞄ホールディングバッグである腰袋ベルトポーチに手を突っ込み何かを僕に投げ寄越した。


 慌ててそれを受け取ると————。

打刀かたな?」

 それは白鞘の打刀かたなだった。冒険者向けの装備ではないと一蹴した師匠がどうしてこれを僕に…………。

「抜いて見ろ」

 そう言われ鯉口を切る。

「…………」

 その刃は美しかった。自分の語彙力のなさを悲観したくなるくらいに美しい刃紋と光の反射の融和が感じ取れる。以前拝んだ国宝に勝るとも劣らないだろう。

「バルドの作だ。駅舎街でよい金属が手に入ったから試し打ちしたそうだ。売り物ではないので刀装とうそうはしていない。何かの役に立つときもあるだろう。だが迷宮アトラクション区画エリアの浅いところで使うには高級品だ」


 高級品どころじゃない。これ最低でも[大業物]以上だ。


「さて、本題に入ろう」

 僕が白鞘の打刀かたなを自分の魔法の鞄ホールディングバッグにしまったのを確認して師匠がそう切り出した。


 ついに説教かーとか思って身構えていると————。

「昨日貰ったものを出すんだ」

 昨日貰ったもの? もしかしてあの半透明の青年が置いていった御守りの事だろうか?

 まーどのみちコレの事を聞きたかったので丁度いいや。


 ポケットに入れてあったソレを取り出し師匠に渡す。それを受け取った師匠はしばらく様々な角度から眺めると突然それを空中へと放る。

「えっ」

 無数の光閃が走り御守りを切り刻んでいく。そしてボロリと落ちたその御守りだったものから黒い粒子のようなものが立ち上り消えていった。


「師匠…………。あれはなんです?」

 黒イコール悪いってイメージが染みついてるせいか不安に駆られてしまう。

「どういう経緯で目を付けられたか分からないが[黒の賢者]に目を付けられたな」

 なんか厨二っぽい名前が出たぞ。

「なんですか、その[黒の賢者]って?」

「南方地域の端にあるアサディアス王国という国がある。そこの神の英知を授けられたと謳う宮廷魔術師エートリウム・メイジだよ。不死だとも言われている。そうだな————」

 一度師匠は言葉を切り少し考えこむ。

いつきに分かりやすい表現を用いるなら王を裏で操る悪辣な宰相って感じだな」

 師匠が真顔でそんなことを言う。

「これからこの大陸は荒れ始める。いろいろな連中が悪さを始める。いつきも覚悟を決めるか脱出する準備をしておいた方がいい」

 脱出と言ってもなーとか考えていたのだが、肝心なことを聞き忘れていたので質問してみた。


「この御守りと称する魔法の工芸品アーティファクトには身につけた者の内なる欲求を肥大化させ徐々に誘導し洗脳する効果がある。いつきは[黒の賢者]の実験に選ばれたんだよ」

 そんな恐ろしい回答が返ってきた。これからは人からモノを貰うときは気を付けよう。


 兎に角身辺に気を付けるようにと注意を受けた。


 最後に御守りと称して護符アミュレットと称した何やら文字やら記号が描かれた紙を預けられた。片手半剣バスタードソードの鞘か硬革鎧ハードレザーアーマーの裏にでも貼っておくようにと言われた。効果のほどは教えてもらえなかった。あくまでもなんだそうだ。



「明日も頑張れよ」

 師匠はそう言うと去っていった。

 とりあえず明日は和花のどか健司けんじと一緒に行動しよう。



 だが、黒の賢者とやらはどういった経緯で僕という存在に目をつけたのだろう?


 そこが謎だ。

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