第43話 独断専行は怪我の元
「尊師。無事に
立ち上がった人物は声音から女性のようだ。聖女? 何の話だろうか?
「証はあったのだな?」
老人の問いにその女性は床に転がされている少女のスカート捲ったあと指を差し「ここに証が」と回答した。こちらからは残念だけどその証とやらは見えない。
「間違いない。貴重な実験用の生体サンプルだ。慎重に運べ」
尊師と呼ばれた老人が言うだけ言うと姿を消した。魔術とか使った形跡はないから単なる立体映像?
「やれやれこのサイズを運ぶのも一苦労なんだけどねぇ。バラす事もできないし命令するだけの人はこれだから困るのよね」
ソファーに腰掛けテーブルにあった琥珀色の液体の入ったグラスを持ち上げる。
「ねぇ。
暢気にグラスを掲げていた女性は駆け込んできた黒ずくめの男に指示をだしているがココからでは聞き取りにくい。迎撃を命じているっぽい。駆け込んできた男が慌てて部屋を出て行き、また女性一人となった。
「チャンスじゃない?」
相手の実力も判らず慢心しして自分ならいけると思い込んでいないだろうか?
意を決して
「誰!」
物音でこちらに気が付いた人物はすぐに
「
間違いなくあの
宙に二本の光輝く魔法の矢が出現する。
「まずい!」
そう呟いた瞬間に後ろから押されて
その横を魔法の矢が通り過ぎ僕の元居た場所の床に一本が突き刺さりもう一本は————。
どうやら
駆け出すと同時に
だが僅かに遅かったのか
そこに収束する
それは刹那の判断だった。
回避する間はない。先に突きが決まると信じて突っ込む
「根性ぉぉぉっ!!」
気合を入れるためにそう叫ぶ。師匠に魔術の
だが切っ先は本来の狙った位置を大幅にズレていた。【
ただ突進する僕の勢い自体は相殺できなかったようで、ほぼ体当たりに近く形でふたりして
一瞬意識が飛んだように思えて瞬時に現状を確認する。転倒時に
「このガキ……やってくれたね……」
脇腹からかなりの出血をしているようでフラフラしている。
立て続けにまるで速射砲のように連続して衝撃が僕を襲う。怒りに任せて【
怒りに任せて連打していた【
薄れいく意識で
「
なにやら魔術の準備に入っている。頭上に真っ赤に燃え盛る火球が現れる。
【
そして意識が途切れる直前に見た光景は、銀閃が走り、
▲△▲△▲△▲△▲△▲
後頭部の柔らかな感触に違和感を覚えて目を開くと涙ぐんだ
「よかった。
取り敢えずホッとした。
動かなかったから心配だったが無事のようだ…………ん? 無事?
あれ? そう言えば全身を襲う痛みがない。
首を動かし状態を確認する。どうやら
「僕は死んだんじゃないの?」
「マリアちゃんの
なんでここにマリアベルデさんが?
上体を起こして
「
そう言ってニコリと笑みを浮かべる。この笑顔だけで癒されそうだ。
「大まかな経緯は
ちょっと怒ったような表情でそう言う。怒った
「私も樹くんも治癒の奇跡があと少し遅かったら助からなかったって」
やはり僕らの行為は無謀だったのか。たしかに無策ではあった。慢心かねぇ?
あれ? そういえばあの
「ホント何度も助けて貰って…………なんとお礼をしていいのやら…………。ところで、そこの
それが気になる。
「あれ?
当然だが
気になって首なしの死体を確認しに行くと————。
「……切断面が綺麗すぎる。まるで鋭利な刃物で一瞬で断ち切ったような感じだ…………」
僕の安物の
「私が来た時には首だけ何処かに持ち去られた遺体があっただけなの」
僕が遺体を気にしているのを見取ってマリアベルデさんがそう告げてきた。実際のところ僕らはどれくらい気を失っていたんだろうか?
最初は師匠かと思ったけど、仮に師匠だとすると今頃は正座させられて説教コースだろうし…………。
【
「ん~、この痕跡だと【
真空の刃かー。
「でもなぜ首だけ?」
思わず疑問を口にしてしまう。
「死者の脳から情報を引き出す魔術がありますから多分その為かと?」
確かに頭部だけ運んだほうが楽ではあるな。でも誰だったんだろうなぁ? そして僕はあれこれと思案しだす。
「そういえばマリアちゃんは何でここに来たの?」
「ん~。依頼でここに踏み込む予定だった
偶然だったのか。
▲△▲△▲△▲△▲△▲
館を出ると5人のむさ苦しいおっさん達とその後ろに
「お嬢ちゃん。手伝いありがとうな。これはお礼だ」
そういうと
「いえ、おかげで知人を助けられましたし、そのお金で今日は呑んでください」
マリアベルデさんはそう言って手伝いの報酬の受け取り拒否する。
「そうかい? いや、悪いなぁ。それじゃ俺らは被害女性を送ってから
今日は宴会だと笑いながらおっさん達は去っていくのを僕らは見送った。
「それじゃ私たちも帰りましょうか」
薄暗い住宅街をマリアベルデさんはさっさと大通りへと歩き出す。
「あ、流石に暗くて歩きにくいね」
そう言うと左手を掲げて、
「
そう紡ぐと頭上に光の球が出現する。白く柔らかい光が周囲を照らす。
珍しいものを見た。
師匠の話では
「私はこっちですけど、
マリアベルデさんは右の街路を指しつつ聞いてきた。残念ここでお別れか。
「私たちは左なんです。暫くこの街に居るので今度食事でも行きましょうね」
改めてお礼を述べマリベルデさんが去っていくの見送る。
彼女の小さなから身体ははすぐに人ごみに紛れてしまった。
「あ! 何処に泊まってるか聞くの忘れたよー」
マリアベルデさんの小さな後姿が人込みで見えなくなってから二人して気がついた。
「あの人目立つしそのうち逢えるかな?」
「
僕は左の街路にいるボロを纏った三人組の男を指差す。
「あの二人は名前は知らないけど同じ学校の人だよね?」
ボロを纏った二人の男は名前は覚えていないけど一緒にこの世界に飛ばされたときに居たふたりだ。
二人の男がこちらに気が付き驚愕の表情をしている。
「お前ら生きてたのかよ!」
そう叫ぶとこちらに走ってきた。
「藤堂の奴がお前らが殺されたから、あの村は危険だってみんなで逃げ出したんだけど、途中で軍資金とか食料を全部持って何処に消えちまったんだよ。言葉も通じないし気が付いたら奴隷にされてこの様だよ」
「なぁ。お前らは奴隷じゃないっぽいしなんか良いもの着ているし金あるんだろう? それなら助けてくれよ」
もう一人がこちらの反応を窺うように頼み込んできているが僕らでどうにか出来るものでもない。その後もあれこれと愚痴が続く。いい加減去りたい。
「
そう言って僕の手を握りしめ先に行こうとする。
「見せ付けやがって!」
「人でなし!」
その後も罵詈雑言が続いたが二人して無視を続けた。正直なところ買い取ってあげたかったのだが、どうも今はそんな気分になれなかった。
ま、明日買い取ればいいよね。
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