第42話 目の前で誘拐現場を目撃したら?

 主犯格リーダーマルコーが使っていた魔法の広刃の剣ブロードソードを前に思案する。

 上級品レア級がどの程度の価値なのか? 売るといくらくらいなのか? 使ってみた場合の威力とかは? 確認したい事案がいくつか頭に浮かぶ。


 ふと視線を感じてそちらに目を向けると隼人はやとと目が合った。

 口にはしないが隼人はやとの主張はわかるので僕は方針を決めた。


「師匠、売る場合は幾らくらいになるのでしょうか?」

 隼人はやとは理由ははっきりしないがとにかく資金かねを欲している。それも目先の資金かねをだ。僕らも同胞を買い戻すためのお金が欲しい。今回はそれに従おうと思う。


魔術師メイジ組合ギルドの派遣窓口で規定額で買い取ってもらうか、好事家を探して交渉するか、この等級クラスの武器なら攻略組なら喉から手が出るほど欲しがるので奴らに売るか…………それによって金額が変わるな」


「一番高く売れるところは何処になりますか?」

 やや強い口調で隼人はやとが師匠に質問を繰り出した。なんというか焦っている?

 師匠の説明によると即金なら魔術師メイジ組合ギルドの派遣窓口になる。師匠の見立てでは十五万ガルド=大金貨三枚くらいだろうとの事だ。

 後で両替して隼人はやとに三万七千五百ガルド渡して残りで同胞の買取を行うとなると15~25人ほどを救えることになる。気休めのような気もするがこの場合はやらない善よりやる偽善かな?


 好事家に売るなら師匠が紹介してくれるそうだが、規定額よりは高く売れるが面会予約アポイントメントがいつとれるか分からないのが痛い。


「師匠に代理をお願いしてもいいですか?」

 図々しいお願いだなとは思ったけど取り敢ず言ってみたらアッサリと了解された。

一週間一〇日以内には現金化しておいてやる。それまでこれを預けておく」

 そういって師匠は小袋を僕に預けた。

 結構ずっしりとした重みで中を確認してみると大金貨が四枚と金貨が六〇枚=二六万ガルドが入っていた。この準備の良さは想定していたって事か。

 それぞれ大金貨一枚と金貨十五枚ずつ渡していく。

「仮定の話ですが、もし金貨二六〇枚で売れなければこのお金は————」

 どーなるんですかとはちょっと言葉にできなかった。

「高く売れれば差額は後日渡す。運悪く捌けなければ一旦俺が買い取ると言うことで問題ないだろ?」

 なんでもマルコーの広刃の剣ブロードソードは量産型魔法の武器マージナルではなく銘入りの一品物なんだそうで買い手は必ずいるとの事だ。



 ▲△▲△▲△▲△▲△▲




「広ーーい」

 一番に降りた和花のどかの第一声がそれだった。

 降りてみて思ったのがとにかく広い。どれくらい広い敷地なのかは分からないけど広い。

「敷地面積だけなら90万8千スクーナ約45万3750坪あるな。ただここはちょっと特別なんだ」

 外苑から濠も含めた皇居なみの敷地かよとか思ったが、師匠の集団クラン出資者スポンサーの一人がこの地の太守であるレンネンブルグ侯爵マークィスだそうで、極秘裏の依頼なども受けている恩恵でこの広大な土地を所有しているのである。


 広大な敷地には蔵書量5千万冊を誇る大図書館、真語魔術ハイ・エンシェント研究所、魔導機器マギテック研究設備、魔導騎士マギ・キャバリエ工房と訓練場、巨大な庭園、ボート遊びできる池や人工の滝まであるだけでなく他にも大小様々な施設がある。敷地内に小さいながらも山があり薬草園として利用しているとか色々とおかしい。

「買い取ってきた同胞たちは倉庫を貸してやるんでそっちに預けるといい。使用人ディペンデントたちには言っておく」


 ゆっくり見学したかったのだが、そろそろ家具などの配送業者が来る時間なので帰らなければならなかった。

 健司けんじたちとは住む場所が違うのでいったん別れて一刻二時間後に冒険者組合エーベンターリアギルドの入り口で待ち合わせる約束をする。

 夕飯がてら明日以降の行動の方針を話し合うためだ。




 ▲△▲△▲△▲△▲△▲



「いやー、食った食ったー」

 健司けんじの意見に同意せざるを得ない。

 日本やまと帝国で食事したらおひとり様1万円くらいのコース料理を食べたのだが、たまの贅沢くらいは許されるだろう。僕や和花のどかは上位の武家の家柄だが食事はあまり贅を尽くしたものは出ない。少なくとも一万円のコース料理なら学生の僕らには十分贅沢と言えるだろう。


 夕飯を終え明日以降の打ち合わせも済んだのでそれぞれの棲家へと続く帰路での事だ。

 明日は朝から個別で処分奴隷アービトリオ・スクラブ墜ちしてる同胞の買い付けを行う。ここは奴隷スクラブの最終処分場だけあって安いが、大量に買い付ける者がいると広まれば値を釣り上げてくるはずだ。初日にどれだけ買いとれるかが勝負だろう。


「それじゃ、俺らはこっちだから」

「また明日なー」

 健司けんじ隼人はやとの声に思案を打ち切る。


 あれ? そっちは歓楽街スケムタナーフバーフィーだと思うのだが…………。


「そっちは————」

 そこまで言いかけた時左脇腹を思いっきり抓られた。

「ちょっと! なに!?」

「野暮なこと聞かないの」


 和花のどかにそう指摘されてようやく野暮なこと聞こうとしていた事に気が付いた。

 そー言えば駅舎街でも朝帰りしてたな。


 べっ、別に羨ましくないぞ。


 うん。


 羨ましくない。



 板状型集合住宅マンションまであと五分くらいのところで路地から黒ずくめの人物が二人飛び出してきた。一瞬襲われるのかと身構えたのだが、彼らはそのまま表通りを走っていく。人が入りそうな大きな袋を担いだまま。


「————怪しいわね」

 そう囁きかけてきた和花のどかに僕も黙って頷く。


 だが続く言葉は追跡しちゃおうだった。


「え? まずいって。僕ら防具もないし危ないよ」

 個人的には妙に気になっていたのだけど、トラブルは避けたかった。

「危なそうなら通報すればいいんだし大丈夫だって!」

 まさかとは思うけど夕飯時にたしなんだ食前酒の葡萄酒ワインラリってる?

 そーいや仄かに頬が紅色に染まってる気がする。


 追うなら急がないと見失ってしまう。


瑞穂みずほは先に板状型集合住宅マンションに戻ってて。もし一刻二時間して戻らなければ師匠に報告するんだ。いいね」

 思案したのちに瑞穂みずほにそう指示する。

「うん」

 瑞穂みずほは特に反論なく首肯した。




 和花のどかの手を引いて黒ずくめの人物を追跡する。

 体格から男だろうと推測。黒ずくめと言うが実際には黒く染めた硬革鎧ハードレザーアーマー一式だ。腰には小剣ショートソードを吊るしている。顔などは頭巾フード付きの短外套ケープを纏っていて判別できない。


 素人同然の僕らの追跡に気が付かないあたり余程急いでいるのか専門家ではないように思える。


 いま現在いるのは迷宮アトラクション区画エリアでもお金のある冒険者エーベンターリア達が好んで住む庭付き一軒家の区画だ。

 黒ずくめは表通りからそのまま入っていたが、僕らはと言えば現在は裏路地に回り込んでいる。人通りは殆どない。街灯も少なく屋敷から漏れる明かりと月明かりだけだが、野外特訓で暗いところでの活動は慣れていたので何とか目的の館の前まで移動できたと思いたい。

 手信号ハンドサイン和花のどかに待機と指示をだし、裏門の施錠を確認する。まさかトラップが仕掛けられているなどないだろうが、師匠の話だと警報アラームを仕掛けている可能性はあるから注意するようにと言われてたのを思い出したのだ。


 ノブを僅かに動かすが何かに引っ掛かるような感触もなく施錠すらされていないようだ。手練師トレーナーじゃないからこれ以上の判断は出来ないし運を天に任せ扉を開く。

 すこし錆びついていたのか音を立てるが街中である。僕ら以外にその音を聞いたものはいなさそうだ。

 手信号ハンドサイン和花のどかに進む事を伝えて壁沿いを進んで勝手口でも探そうと進んでいると一室から明かりが漏れているが見えた。

「あの部屋の前を通らないと先に進めないけど、どうするの?」

 後ろを着いてくる和花のどかがそう聞いてきたが、反対側に廻る以外の方法は思いつかなかった。選択肢が少なすぎる。せめて中の様子だけでも見てみようと思い明かりが漏れる窓まで近づく。


 間取りから居間リビングだと予想していたが、やはり居間リビングだった。

 夏という季節だからだろうか床まである大窓は開け放たれている。飛び込みやすくて実に助かる。

 中を覗くと居間リビングの中央に縄で縛られた少女が床に転がされている。それとソファーに座る人物が一人。背をこちらに向けているので顔は窺い知れないが長衣ローブを着ている事もあり印象的には魔術師メイジではないかと推測する。


和花のどか。潜入は僕一人で行う。魔術師メイジと戦闘になったら、格下のこちらが手を抜く事は出来ない。殺す気で攻めないと僕らの方が確実に殺されてしまうと思う。僕がられたら、全力で逃げて師匠に状況を伝えて」

 小声でそう伝えた。

「何言ってるの? 的は多いほうが良いに決まってるじゃないの」

 馬鹿なこと言うのねと微笑む。和花のどかさん。そいつはフラグなんで止めていただけますかね?

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