第8話 勉強会
「さて、これからこの世界で生活するにあたっての注意事項だが、まずは
そう言って言った言葉を切り僕らを見回す。言いたいことは判るので頷く。
「ここで言う力とは腕っぷしだけの話ではなく、財力、権力、
そう言ってヴァルザスさんはある異なる世界から来た自称会社員の身に降りかかった話をする。彼は「労働基準法は~」とか「基本的人権は~」などを
「要するに郷に入れば郷に従えって事ですね」
僕らの住んでいた
そして僕らは三ヶ月の猶予をもらった。それまでに
装備や当面の生活費となる支度金はヴァルザスさんからお金を借りることとなる。予算内であれば武具を選ぶ相談には乗ってくれるとの事だ。
基本的に僕らは自らの意志で残ると決めているのでお客さん待遇では無い事を意識しておこう。
ざっくりと説明が終わったところでこちらの世界についての講義が始まる。
一年は三六〇日と古王朝時代から定められていて現在もそれに従っている。ほぼ三六〇日らしく
一年は一二ヶ月あり地域によって誤差はあるが春期、夏期、秋期、冬期と四つに分けられる。春の前月、春の中月、春の後月、夏の前月となって最後が冬の後月で一年が終わる。
一か月は三週間で三〇日となる。内訳が前週、中週、後週となる。
一週間の内訳は、
次は
空気の屈折率なんかは大体同じらしい。平地なら一七二センチの僕の身長だと地平線は五キロ前後になるらしい。
いつのころからか
陸と海の比率は三五対六五で僕らの住む
大陸は四つ存在し、いま僕らがいる大陸をアルム大陸と呼び、大きさは約
「すみません。数値だけ聞いても大きさがわかりません」
思わず突っ込んでしまった。
ヴァルザスさんは少し思案した後にこう答えた。
「形は結構違うけどユーラシア大陸とアフリカ大陸を足した面積よりちょい大きいな」
自分の頭の中にある世界地図を思い出しその大きさに絶句したが旅のし甲斐がりそうだと思った。
季節に関しては過去に魔術師たちが魔改造してくれたおかげで
白く光るアルテナと赤く光るルードという
次は現在いる大陸について大雑把に解説が始まった。
アルム大陸の西方地域は魔境と呼ばれているらしく、未盗掘の古代遺跡も多く残されており冒険者達が一獲千金を求めて次々と旅立っては消息不明となるらしい。中原と西方の境目あたりに
五〇〇年ほど前に皇族を含む二千人近い集団が突如転移してきたらしい。ただしヴァルザスさんの次の話で期待は裏切られた。
「期待しているところ悪いが、お前さんたちの世界の住人じゃない。明治維新の辺りで枝分かれした並行世界から来た存在だ。ただし
文化と言葉が通じそうな場所があるのは良いことだ。いずれ行ってみたい。
北部域は光の帝国とも呼び称される
大陸東部は小国が乱立していて群雄割拠状態であり、傭兵業として食っていく分には仕事には困らないし運が向けば隙をついて建国とかもできるかもしれないらしい。現在僕らがいるのもこの東部域だ。
大陸南部域は
「
だが違った。
「
ただ現在の
しかし基礎体力が高い反面、耳の位置が頭頂部にある事で脳の容積が少なくなりかなり…………いや残念くらい頭が悪いそうだ。
そして最後が大陸の中原地方だが、十字路都市とも言われる物流の集まる人口百万を超える超巨大都市が存在する。その周辺だけは文明レベルが格段に高く、そこでの生活に慣れると他所での暮らしが不便に感じるとまで言われている。
そんでもってヴァルザスさんたちはその十字路都市に拠点を持ち市民権も持つ凄腕の冒険者なんだそうだ。
次の話はこっちの世界の住人の教養レベルの話だ。
人口五万人以上の中規模都市なら識字率はほぼ十割で自転と公転は普通に理解しているそうだ。また四則演算あたりまでは10歳までに終了する初等教育で習得が当たり前となっている。
その後は成人までの
時間の考え方に関しては六〇年ほど前に異世界から時計職人が迷い込んできてから時間厳守という考え方が富裕層などに浸透し始めた。一日を二四時間と定めたそうだ。都市などには大時計が設置され富裕層などは懐中時計を持つのが流行となっているそうだが、都市部を離れてしまうとまだまだ時間の感覚は
貨幣に関しては単位はガルドと称し、銅貨、小銀貨、大銀貨、
造幣は商人
貨幣の発行量にも限度がある為か一定金額以上の通り引きの場合は物々交換か口座取引になる事もあるそうだ。例えば僕らが今乗っているこの
店舗や露天商などはあまり釣銭を用意していないので銅貨一枚の商品を金貨で購入とかしようとしても追い出されるだけだそうだ。常に小銭は持ち歩くようにと説明された。
ちなみに
その後もヴァルザスさんの講義は続き気が付けば夕飯時になっていた。
夕飯後は
仕事も底辺層だと、下水掃除、運搬業務、巡回警護、定置警備、雑用が殆どで[なんでも]屋という表現を用いたのも頷ける。
ただ
「薬草採取とか魔物退治とか迷宮踏破とかないんすか?」
それに対してヴァルザスさんの回答はこうだった。
まず冒険者に依頼すれば薬草の価格は人件費によって高くなる。しかも専門知識も必要なために素人に金を積んで頼むことはほぼない。更に人に害成す生物自体の絶対数が少ない。これは縄張り争いで淘汰されるためだ。またそういった生物は人口の密集地には寄り付かない。妖魔とか魔獣あたりは運が悪いと開拓村などに出現する事もあるが魔獣は絶対数が少なくほぼ人里には出てこない。それに定期的に町道や農村などに巡回警備の依頼が出ていてるから、開拓村の奥へでも行かない限りは滅多に遭遇しないとの事だ。
ただ魔境と呼ばれる西方地域は人の住めるエリアがまだ狭く討伐系の依頼は豊富であるとの事だ。
迷宮に関しては古代帝国時代に
「アトラクション?」
僕のその疑問にヴァルザスさんはこう回答した。
「創成魔術によって魔術的に作り出された紛い物の魔物ばかりで、本物に比べると遙かに弱い。
そうだ。最初にこの世界で戦った
そうこう思案している間にヴァルザスさんの説明は終わってて、次の話になっている。
ただ盗掘済みの
もっとも
「後は実地を兼ねながら追々と説明する」
ヴァルザスさんはそう言って締めくくった。
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