#6-5
「おはよ!」
熱がやっと下がったらしく、三日後に土田くんが登校してくると、昇降口で会った近山くんがそう大きな声であいさつした。私は先に土田くんと顔を合わせていて、私の隣には旭ちゃんもいた。
「なに、おはよ」
土田くんは、ちょっと緊張した様子の近山くんに違和感を感じたみたいだけど、普通に笑ってそう返した。近山くんはちょっと間を置いて、「あのさ」と真面目な声で言った後――にっと、白い歯をむき出して笑った。「頑張ってブランク取り戻さないとな、土田。三日はでかいから」
「当たり前。それ言うためにその顔したの? 変な奴」
「まあいいだろ、俺の超笑顔もさ」
「ほんとやめろそれ」
そう言い捨てて、土田くんは手を軽く振り、近山くんと私たちをすり抜けて中に入っていく。そんな土田くんを目だけで見送って、近山くんは今度は私と目を合わせた。「おはよ、近山くん」と私がいうと、近山くんも「おはよう」と、今度は照れたように笑う。
「俺、部長ずっとやるよ、とかさ、剣道部にいてくれよとか考えてたんだけどさ。結局これだよ。情けないな、俺」
「そんなことない。すごく良いと思うよ、そのチョウエガオ」
私が言うと、近山くんは、へへ、と本当に照れ臭そうに笑っていた。
◆
「治ったか! 土田」
剣道部に土田がいくと、開口一番そう言って背中を強く沖島が叩いた。自分にそんなことをするような人間じゃなかったはずだ、と土田は心底驚いて沖島を見る。その土田の表情に、沖島は鼻から息を吐いた。「なんだよ」
「いや、珍しいなと……」
「気が向いたんだよ」
沖島は、土田に背を向けてそう言う。土田が頭を掻きながら、まあいいかと視線を逸らしたのとおなじ瞬間に、沖島は土田をちらりと振り返った。
――絶対、お前のことは認めないけど。
沖島が土田に突然声をかける気持ちになったのは、姉の言葉や空田の言葉をきっかけに、自分がなにかに熱中してみたかっただけだったことが分かって、瀬里に吐き捨てられた「うらやましいんだな」という言葉をすこし認める気になったからだった。
――うらやましくはない。だけど、俺はきっと、なにかに熱中したかったんだ。
――それが剣道なら、まあいいかなって思うんだよな。
なんでかわかんないけどな、と呟いて、沖島は空を仰ぐ。その空向かって伸びをして、深呼吸を一度だけすると、やっと沖島は、自分を本当の意味で好きになれた気がした。
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