#5-5

 月曜日の部活で、瀬里先輩は道着に着替える前に、私のところにやってきた。私は安心して泣いてしまったことを先輩が知らないのもわかっているのに、なぜか恥ずかしくてちょっと目を逸らしてしまう。「なあ、空田」

「……なんですか」

「俺が剣道部に残ったの、空田に免じてだから」

 瀬里先輩の言葉の意味が分からず、私はとっさに瀬里先輩を見る。間抜けな声がでた。「へ?」

「空田がまともそうだから」

 「ま、まとも」とおうむ返しをする私に、瀬里先輩は目を細めて笑う。

「そう、まとも。唯一な、ユイイツ」

「本気で言ってます?」

「どうだろうな」

 「どうだろうなって、なに!」と私が声を荒げると、瀬里先輩は面白そうに含み笑いをする。この人、本当に、笑うときでさえなぜか怖さがあるのだ。迫力、というのか、この「こわい」は裏になにかありそうだからであって、きれいだからはまったく関係ないのでは、と私はやっとそれに気が付く。

「あ、そうだ。沖島に言っておいてよ、あのときいろいろ言ってた奴、あのあとマネージャーに絞られたんだって」

「え、そうなんですか?」

 瀬里先輩が付け足したはなしに、私は目を丸くして瀬里先輩を見た。先輩はなんだか清々したとでも言いたげな顔をしている。マネージャーって、もしかしてあのとき、私と一緒にいた子だろうか。……というか、どうして先輩はこんなにさっぱりした顔をしているのだろう。もしかして、あのとき瀬里先輩も、沖島くんのことを「へっぴり」だと言われて怒っていたのだろうか。

 そんなことを考えてる私を混乱させるように、瀬里先輩はまったく違うことを言う。「あんただけは、花先輩でもなんでも、俺のこと好きに呼べばいい」

「へっ?」

「俺もあんたのこと、こころって呼ぶから」

 そういってにんまり白い歯を見せる先輩に、私は真っ赤になって、「絶対呼びませんから!」と大声で返してしまった。

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