第14話 人は見かけによらず

~未確認艦隊討伐の翌日~


「たしか~ここらへんなんだけどな~。あったあったこの屋敷だ。」


トントン


「すみませーん」


ガチャ


「はいー」


「こんにちは~ あの、ラインさんいますか~」


「ただいまご主人様は外出中でございますが、何か御用でしょうか?」


「あ~いないんですか~ ちなみに今日はどちらに行かれましたか?」


「すみません、それはお答えできないんです。」


「そうですか、わかりました。また出直します。」


「あの、お名前をうかがってもいいですか?」


「フェイル・パーシャです。 では、失礼します。」


~来客の4時間前~


「うっあ~ 体バキバキだ~ 昨日は大変だったな~」


ベッドの上で目覚めたチャルは、腕と足を目いっぱい伸ばす。


昨日の艦隊は結局四隻とも沈めてしまった。都市への被害を抑えることが最優先なのだ。近年稀にみる大型艦隊の襲来は町の中でも話のネタとなり、新聞やラジオはその記事でいっぱいだった。


下の階に降りると、チャルは朝食の準備をしていた。


「おはようございますチャルさん、昨日はおつかれさまでした。」


「おはようございます。昨日はなかなか大きなミッションだったみたいですね。新聞でも大きく取り上げられてましたよ。ただ、街への被害がなかったのでよかったですよね。」


チャルはトイレを済ませて自室に戻った。


あれから本に変化はない。相変わらず汚い。


窓の外を見ると、広場に人だかりができていた。


気になったので行くことにした。


ガヤガヤ ザワザワ


広場に着くと、前にも演説をしていた集団が注目を集めていた。


「つまり、我々は昨日現れた船に乗って空へ旅立つべきだったのだ。そのチャンスを王国軍によってなき者とされてしまったのだ。どううだ、諸君、我々とともにこの広い空の世界を目指さないか。この大きな宙船にのって一生を終えずに、神の言葉を信じて突き進もうじゃないか。我らと同じ意志を持つものは歓迎する。」


演説が終わると、一気に広場から人がいなくなった。


「あいつら、本当に何を考えてるんだか。」


「勝手に船を作って街を離れるなんて何を考えているんだか、神様はそんなこと進めたりするわけないだろ。」


人々が去った後には、演説者とその仲間たち以外は残っていなかった。


彼らは寂しそうに木箱や旗を片付けてその場を後にした。


本当に何を考えているのだろうか。そんなことをすれば私たちが取り締まるだけなあのに。


家の方に戻ると、前からラインが慌てた様子で走ってきた。


「おーい、チャル君」


「おはようございます。」


「おはよう、そんなことより、君の知り合いのジャンジャっていうやつどこにいるかわかるかい?」


「すみません、今はどこにいるのかわからないです。あの人、いろんな街を放浪してるみたいですから。」


「そうか、ありがとう。」


そういうと、ラインはすぐに走って行ってしまった。


いったいなんなんだろう。とりあえず、家に戻ろう。


家に着くと、リビングからティナが出てきた。


「ラインさん見ましたか?なんかあったんですかね。」


「私の知人を探してましたけど。」


「そうなんですか、私にはさっぱりわかんないんですけどね。」


ティナはすこし不安そうだった。


「朝ご飯にしてもいいですか?」


「あっ、そうでしたね。今準備しますね。」


そういうと、ティナはキッチンへ向かった。


忘れかけていた朝ご飯を食べると、いつものように局員事務所へ向かう。


「おはようございます。」


中に入ると、皆忙しそうにしていた。


「いいところに来てくれた!ちょっと今緊急の極秘任務が上から来てね、丁度無線で呼びかけようとしていたところなんだ。」


バチアは大量の書類を運びながらチャルに話しかけた。


「なにがあったんですか?」


バチアは紙を差し出した。


「本日よりジャンジャ・ホブリッジをスパイ容疑等でA級指名手配として扱うことになった。」


見た瞬意味が分からなかった。


よりによってスパイだなんて。


罪状としては、「物資横領」「窃盗」「器物損壊」「違法入都及び違法滞在」「武器の違法所持」「情報漏洩」などだ。この刑の多さから察するに超重罪人であり、死刑や拷問刑も免れられないだろう。


「バチアさん、これ、どういうことですか?」


「見てもらっての通りなんだが、君が以前あのぼろい本を譲り受けたあいつが重罪人だったってわけだ。」


本当にジャンジャなのだろうか、残っている印象としては子供らに男のロマンというか少年時代のきらめきを教えるようなガラクタコレクターという感じだったのに。


この現実を受け止められないでいる。


ということは、私が受け取った本は盗品なのではないだろうか。


「あの、ということは、その本を持っている私は罪に問われるんでしょうか?」


「いや、チャルの場合は自分で盗んだわけではなくて知らずに受け取ってしまっているから大きな罪には問われないだろう。もしかしたらその本を証拠品として回収するかもしれないし、軽度の罰をける可能性はなきにしもあらずだ。」


どうやら、日常生活に支障をきたさないようなのでほっとしている。


しかし、何一つとして有力な手掛かりをつかまないまま手放してしまうのはもったいない。


「ま、おそらく今回は我らの小隊の活躍もあったことだし大目に見てくれるだろうね。」


数分して、無線を受けた仲間たちは全員そろった。


バチアは他の局員たちに資料を配り知らせる。


「急な招集ですまない。本日、時刻6時30分もって、内通者対処命令が発動された。操作対象となっているのは、ジャンジャ・ホブリッジという男だ。容姿は中年の男で白髪交じり、体格は太り気味で汚い服を着ていることが多い。」


「これから二班に分かれて町中を調査する予定だ。昨日と班編成は同じで、22:00に調査終了だ。これより20分後出動。今回のターゲットのコードは『Jump』だ。」


「バチア、その男はなんで内通者だってわかったんだ?」


「先日、市場で届け出のない店が出ていたんだ。その出店者を調べたところ、チャルが本を受け取った男の特徴と似ていたんだ。その後市場の管理者が調査を進めたところやはりジャンジャだったってわけだ。」


「なるほどな、つまりそいつは密輸が軸ってことか。」


「そのようだ、しかしそいつが簡単に姿を現すとは思えないのはみんなも予想できるだろう。そして、この中で一番遭遇する確率が高いのはチャルだということも。」


「そうですね、私はこの街に来てすぐ会いましたから。」


「やつはかなりのベテランだ。操作しているとばれた日には二度と犯人を追うことはできないだろう。そこで、我々はあえて捜索をしない。偶然遭遇するのを待とうと思う。」


「大丈夫なの?そんな行き当たりばったりな方法で。」


「そのことなんだが、この小さな都市にいるということは自分から檻のない牢屋に入りに来てることと同じなんだ。都市から出さなければいくら取引をされようとも俺らの掌の中に過ぎない。この都市の大きさなら手分けをすれば全範囲を網羅できなくもない。さらに、jumpは人通りの多い雑貨市やフリーマーケットに姿を現している。つまり、捜査がばれなければ遭遇のチャンスは多いということだ。」


「なるほど、じゃあ見つけ次第連絡すればいいということね。」


「ああ、そういうことだ。」


「他に質問のあるやつはいるか?」


「はい。」


「はい、ルシャ。」


「この感じだと、市街戦になる可能性があるということですよね?ということは、戦い方はどうなるんですか?」


「やつは密輸品を扱っているためわれわれが知らない武器にも詳しいはずだ。どんな武器を使ってくるかわからない。そのため、遭遇した場合は戦いつつ人の少ない場所へ誘導してくれ。」


「了解です。」


「ほかに質問があるやつは?」


「....」


「よし、任務開始だ。とりあえずの期限一週間とする。各自持ち場所は後程知らせる。解散!」


「了解!」


しかし私の心の中はとても『了解』という気分ではなかった。まだ信じきれてない。どうすればいいのか。


そんな気持ちを残して私は解散した。


人は見かけじゃないということはこういうことだったのか。













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