第8話 チームプラタナス、ここに集結す
いつからこんな世界になったのだろうか。少し前まで外交関係も国内政治も多少の不満はあったもののそこまで絶望するような感じではなかったのに、いつから人が住めなくなるほどこの地はめちゃくちゃになってしまったのか。
- ある調査員の日記より -
目が覚めてカーテンを開けると、外は霧が立ち込めていた。
確かに時間はまだ4時頃だ。
トイレを済ませると下に降りた。
「おはようございますチャル様。今日はお早いですね。」
「なんか、目が覚めちゃったんです。」
「そうなんですね、朝ご飯までもう少し時間があるのでゆっくりしていてください。」
「わかりました~」
昨日見えたビジョンは何だったのだろう。なにか、昔起きた大きな戦の記憶だろうかそれとも災害の記憶だろうか。いずれにしても何か嫌なものだった。
なんとなく例の本を開いた。
やっぱり書いてあることは何一つわからない。
パラパラめくってみた。すると、いくつかのページに挿し絵があった。
文字同様、挿し絵も何が書いてあるのかわからない。
1枚目は一面青や黒で塗られていて星のような白い点がいくつも描かれている。
2枚目は絵の上半分が黄色で塗られていて、もう半分には黒い線が数本描かれている。
3枚目はページ自体がボロボロで文字もかすれている。絵は一部しかわからないが、赤い部分がみえる。
その後も数枚の挿し絵を見つけてはパラパラと流し読みをした。
気づくと日は昇っていて朝ご飯の時間だった。
「もうこんな時間、おなかすいたな~」
着替えて下に降りるとティナとラインが朝ご飯を食べていた。
「遅かったね、まだ寝ていたのかい。」
「いえ、部屋で起きて準備してました。」
「そうかい、あとで一緒にオフィスに来てほしい。ご飯を食べて支度が済んだら僕の部屋に来てくれ。」
「わかりました。」
そういと、ラインは皿の残りをかきこみ自分の部屋に向かった。
「私はここに2年勤めてるんですけど、ラインさんって本当に毎日忙しそうなんですよね。」
「へ~そうなんですね。」
「この間なんて、昼頃に帰ってきたと思ったらパンを2個手に取ってすぐに家を出て行ったんですよ。次にラインさんを見たのは次の日の夜でしたからね。」
「え、倒れたりしないんですか?」
「半年に一回あるかな~ぐらいですかね。」
「ティナさんも大変ですね。」
「いえいえ、私はもう慣れてますから。」
ラインさんって本当はなんの仕事をしているんだろう。
「ごちそうさまでした。」
「お粗末様です。」
お皿をキッチンに下げると支度をした。
その後、ラインの部屋に向かった。
トントン 「失礼します。」
扉を開けると、部屋の中は書類の山でいっぱいだった。おそらく、もともとは書斎目的でこの部屋を作ったのだろうが、その多忙さのあまり片付ける余裕などないのだろう。
「お、来たかい。いきなりで悪いんだけど、お願いがあるんだけどいいかな?」
「え、なんですか?」
「チャルちゃん、いきなりなんだけど最近変な本をもらわなかったかい」
「え、もらいましたけど。なんで知ってるんですか?」
「メロクリスさんに聞いてね、それを貸してほしいんだ。」
「いいですけど....」
「ありがとう。それでさ、突然で悪いんだけどそれ持って一緒にオフィスに来てくれ。」
「すみません、今日はメロクリスさんのところに行きたかったんですけど。」
ラインさんの情報網といい、ミステリアスな雰囲気といい、ラインが少し怖くなった。
「あ~メロクリスさんなら既に話はつけてあるから気にしないで。」
「わかりましてけど、勝手に先のことを決められると困ります。」
「ごめんね。ちょっと急用なのもでね。」
ラインはそういうと、部屋を出て勝手口の方へ歩いて行った。
「さあ、乗ってくれ。」
見るとそこには、立派な車がある。
しかし、現在の乗用車というものはタイヤの部分にスイッチ式の磁石が内蔵されており、空中都市の地面に存在する磁力を利用して進むのが主流である。強風の場合は、飛ばされないように磁力を発動させて地面にくっついてその場をしのぐ。また、資源は貴重なため、車はかなり高価なものであり、一般大衆は交通機関を利用するか自分で歩くのが通常である。
「え、すごいですね。車なんて持ってるんですか?」
「あぁ、これは友人から譲り受けたんだよ。」
「そんなにすごいご友人がいるんですね。」
「すごいというか、変わってるというか。後で会うと思うよ。」
「あ、そうなんですか。」
「じゃあ、出発するとしようか。」
道に出ると、あまり車は走っておらず路面電車の線路ぐらいしか交通機関がない。ラインは坂を下り続け市場地区に着くと、支部とは反対方向に曲がった。どこまで行くのだろうか。
しばらく車を走らせると、再び丘の方に向けて上り始めた。
そして、小さな民家の駐車場に入った。
「よし着いた。」
周りは閑静な住宅街で、この民家は他のに比べて小さくボロい。
「本当にここであってるんですか?」
「僕が嘘ついてると思っているのかい?ははは、まぁ無理もないか。」
そういうと、ラインは駐車場の横の勝手口から入っていった。
中に入ると、外見から予想していたよりも広いリビングに数人がくつろいでいた。
その中にはメロクリスもいた。
「こんにちは、ルーガット」
「こんにちはラインさん、車使ってくれてるんですね。」
「あぁ、ありがたく使わせてもらってるよ」
ルーガットは次に私の方に顔を向けた。
「俺はルーガット・シャグドリアだ。よろしくね。」
「チャル・クランティックです。よろしくお願いします。」
「ルーガットが車をくれたんだ。彼は趣味が地上探索なんだ、やばい奴だろ。」
ラインは微笑みながらコソコソ話で教えてくれた。
「ゴホンゴホン、それではみんな揃ったようなので、始めさせてもらうぞ。」
そう切り出したのは窓側に座っていた大きな男の人だった。
「では改めて、俺の名前はリギーダ・バジガイアだ。司会をさせてもらおう。」
「まずはそこのお嬢ちゃん、自己紹介をしてくれ。」
「はい、初めまして。チャル・クランティックです。先日バンバルディアに着任しました。」
「もしかして、例の着任してすぐに昇格したあの子?」
え?私はまだ昇格なんてしてないんだけど....
「あぁ、言い忘れてた。チャル君今回の一件が評価されたから、下級二等階級へ昇格だ。」
そういうとラインはカバンから高そうな箱を取り出し、下級二等局員勲章をくれた。
「なんか嬉しくないんですけど。」
「ごめんごめん、忘れてたよ。それより昇格おめでとう。」
「なんだ、まだ渡してなかったのか。本題に戻るぞ。チャル、この間手に入れた汚い本を出してくれ。」
「はい。」
言われた通り机の上に本を出した。
「これか。」
「あまり雑に扱うでないぞ、リギーダ。」
声の先を見ると、メロクリスさんがいた。
「そんなことするわけねぇだろ。で、もらい受けてからなにか変化はあったか?」
「はい、この本が青く光ったのと不思議なビジョンが見えました。」
「それはどんなのだった。」
「誰かの記憶の中のような感じで、争いか災害の中にいるようでした。」
「そうか、わかった。では、何か調べたものの中で有力な情報を手に入れられた者はいるか?」
「....」
「では引き続き調べていただきたい。よろしく頼んだ。チャル、その本を書いてもらいたい。解析にかけてみたいんだ。」
「わかりました。」
「では、今回の会議を終了させてもらう。」
以外にも短い会議だった。
会議が終わると、話しかけてきた女性がいた。
「初めまして、あなたがチャルちゃんね。私はシャラザ・モレイネ。上級六等局員よ、よろしくね。」
「よろしくお願いします。」
「さっき司会やってたリギーダ上級五等局員とルーガット上級六等局員と私とあなたはチーム同じパーティーよ。まだ来てない4人も合わせてこの8人が、名付けてチームプラタナスよ。勝手にそう呼んでるだけなんだけどね。」
まさか自分よりもかなり上級の人たちが同じパーティーとは....なんだか緊張してきた。
「それにしても、なんでこんなに階級が離れているんですかね。」
「さぁね、上の人の考えなんて知ったもんじゃないわ。」
すると、バチア局長、ルシャ、ジャナ、クルバの四人が部屋に入ってきた。
「よお、会議は終わっちまったようだな。」
「おぉ、バチアか今日は任務があったみたいだな。」
リギーダは入ってきたバチアにあいさつ代わりの握手をする。
続けて部屋にいた者たちは四人と握手を交わした。
「さぁ、パーティー全員揃ったんだし、記念に写真でも撮りましょ。ほら、リギーダ、ル-ガット、こっち来て。」
「なんだ急に、写真なんて。」
二人は気恥ずかしそうに歩いてきた。
「四人も早く早く!」
「じゃあいくわよ、ハイチーズ!」
パシャ
この人たちが私の新しい仲間か。どんな派遣期間になるかのかな。
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