第9話 黒雲の知らせ
世界が終わる少し前、特に外交問題は悪化していたように思う。経済の面では貧富の格差が数世紀前とは比べ物にならないほど顕著になった。社会主義よりも支持されていた資本主義が大きくくじけた結果だ。世界単位での失敗は世界を滅ぼした。金のあるやつらは当時の先端技術を抱えて安全な空へと逃げて行った。この世界をダメにした指導者たちや政治家たちは一般大衆を捨てた。わずかな地上の生存者たちは決意した。二度とこの失敗を繰り返さないように。彼らに責任を課して罪を償わせることを。
- ある調査員の日記より -
ピピピ ピピピ カチャッ
「ふぁ~あ」
目覚ましを止めて布団にへばりついた体を起こす。
「今日は雨ですか。」
着替えて下へ降りると、リビングで誰かが話す声がした。
部屋に入ると、ラインと男の人が話していた。
「おはよう、チャル。この人は考古学者のフェーティン・プライザ先生だ。」
「おはようございます、チャル様。」
ティナもキッチンから顔を出して言った。
「チャル・クランティックです。よろしくお願いします。」
「よろしく。私は王立バンバルディア大学で考古学の研究をしているんだ。主に地上について研究をしている。」
「で、ラインさん。今日はフェーティンさんに本を見てもらうんですか?」
「いいかな?」
「いいですけど、勝手に決められては困ります。」
「あはは、すまないね。」
「お二人が本を見てる間朝ご飯を食べてきます。」
二階に戻り本を持ってきた。
「なるほどなるほど....」
フェーティンは本を見るなり一人でぶつぶつ話しながら自分の世界に入ってしまった。
「ティナさん、朝ご飯もらっていいですか?」
「はい、ちょっと待ってくださいね。」
「今日は雨なので洗濯物を乾かしてきます。」
そういうと、風呂場の方へ向かっていった。
リビングに戻ると、フェーティンは悩んでいるようあった。
「チャルさん、バンバルディア一の大学で研究している身で申し訳ないのだが、この類の史料は見たことがなくてね、まったく思い当たる節がないんだ。すまない。」
「そうですか、ありがとうございます。」
「写真を撮ってもいいかな?持ち帰って研究したいんだ。」
「いいですよ。」
すると、フェーティンはカバンの中から大きなカメラを出した。
パシャ パシャ パシャ
「ありがとう。何かわかり次第報告させてもらうよ。」
そういうと、すたすたと帰っていった。
「では、私も準備してきます。」
二階へ行き、本と無線と局員バッジをもって支部へ向かった。
支部には、チャルのパーティーの3人がいた。
「みなさんおはようございます。」
「おう、チャル。」
「おはようチャルちゃん。」
「おはようございます。チャルさん。」
「あれ?バチアさんの小隊はいないんですね。」
「いま、別の任務で外出中よ。」
「そうなんですね。」
「チャルちゃんの机はそこね、机の上の資料作っておいてくれる?わかんないことがあれば聞いてちょうだい。」
「わかりました。」
言われた通り、資料作成を始めた。
すると、部屋の無線に一本の入電がはいった。
「バンバルディア支部所属リギーダ上級五等局員だ。 ....了解。」
ガチャン
「お前ら、出動だ準備しろ。」
「なにがあったんだ?」
「本部からS級指名手配中の大型船舶が現れたたらしい。おそらく、パジャランダの船だ。まずはバチアたちと合流する。」
「了解!」(リギーダ以外の三人)
部屋の空気はガラッと変わった。
リギーダとシャラザとルーガットは急いで準備を始める。
「チャルちゃん、ここに出したやつを外の偵察艇にもっていって。」
「わかりました。」
三人がそろえた装備を急いで外の船に積んだ。
「チャル、これを着ろ。」
リギーダは実践配備用超合金戦闘服を渡した。
※キラメティアは人間という存在を捨てて機械化しているため、腕をライフルに改造していることが多い。たとえ近接戦でも腕からの発砲が可能で、エネルギー弾を発射するため通常の金属では攻撃を防ぐことができない。この合金は人間が地上に住んでいたときの技術をそのまま運用しているが、完全に解析できていない。材料は地上の比較的汚染が軽い地域から調達してるとか....
「よし、出動するぞ。」
外の小型偵察艇に乗り現場へ向かう。
例の船はバンバルディアの空域約80km地点に出現していた。
どうやら、敵艦は巨大な黒い雲の中にいるらしい。
「なんてでかい雲なんだ。とりあえずバチアの船に合流する。」
リギーダは無線で呼びかける。
ザザー 「こちらリギーダ、バチア聞こえるか。」
ザザー「こちらバチア、現在ターゲットを監視中。呼びかけの反応はいまのところ無し。」
「了解。次の指示を求む。」
「現時刻より20分後11:36に隣の都市のサージャルタンから応援部隊が合流する予定だ。合流の後、雲を砲撃で吹き飛ばしターゲットに乗り込み鎮圧する。」
「了解。」ザザー
無線を切るとリギーダは指示を始めた。
「これより警戒態勢に入る。装備と備品の確認をしておけ。20分後戦闘態勢に移行の後、バチアの船との協力作戦に参加する。また、応援に来てくれるサージャルタンの小隊と臨機応変に協力をしてもらいたい。気を引き締めて行けよ。」
「了解。」
指示が終わるとすぐに装備と備品の確認に移る。
その間、リギーダはターゲットの動きに警戒している。
他の三人はライフルに弾を充填したり、近接武器と手榴弾の再装備を行う。
定刻11:36
「定刻だ。これよりチームプラタナス リギーダ小隊は11:36現在をもって戦闘態勢に移行する。移行した後バチア小隊と合流し、敵艦に乗り込み鎮圧する。....出撃開始!」
その時、偵察艇2時の方向からヒイラギの紋章が付いた艦船が現れた。
「あの船はサージャルタンの船だ。よし、いくぞ。」
サージャルタンの船と挟み撃ちにするように偵察艇は対角の位置になるよう地点に移動する。
するとターゲットは猛烈な威嚇射撃を開始した。
「くそ、揺れるが我慢してくれ、一時的に威嚇射撃圏外に出る。」
弾幕をから抜けると、リギーダがまた指示を出す。
「シャラザは拡散ロケットの用意を頼む。ルーガットは敵の動きを監視しつつこの船に障壁を張る準備を。チャルは上の機関砲で援護射撃を頼む。」
「了解です。」
二人がロケットを組み立てている間、機関砲で敵の機銃塔にむけて攻撃を開始した。
「ロケット5本できました。」
「発射開始。」
「了解です。」
「拡散ロケット、打ちます。」
ヒュン
ロケットは黒い雲の中に吸い込まれるように飛んで行った。
そしてまた無線が入る。
ザザー「こちらサージャルタン東方面艦隊司令長官のヴァヴァニエ・レジレートンだ。貴君の艦隊は別方面にて特殊任務についてるときいて、応援を出させてもらった。これより敵の攻撃力を削ぐために砲撃を行う。敵艦周辺の艦は注意してくれ。砲撃まで
1分待つ。」
「聞いたな、砲撃のあとおそらくサージャルタンの部隊が突入を開始するはずだ、そしたら俺らも向かうぞ。」
そういうと全速力で雲から距離をとる。
「定刻だ、くるぞ。」
「障壁を展開しろ。」
「了解。」
リギーダの指示を受けるとルーガットは偵察艇の障壁を展開した。
偵察艇ということもあってか、大きな船よりも障壁は薄い気がする。
しかしそれでもないよりはましで、窓ガラスは割れない程度には守ってくれる。
サージャルタンの船は一斉に砲撃を開始した。
ドカーン ドカーンドカーン
砲撃音は大空に響き渡った。
ターゲットの船はピンポイントで砲塔を破壊されたのか、威嚇射撃が軽減された。
それと同時に雲間に敵艦を観測した。
かなり大きな艦艇で、おそらく1000人単位のキラメティアが乗船可能なサイズだ。
「突撃開始!」
リギーダは勢いよく偵察艇のアクセルを踏み、急接近を図った。
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