第5話 不和の便り

人混みの中心の男「民よ、いまこそ空へ旅立つ時なのだ。時は満ちた。天空神シャララ様の御加護を信じ、囚われた我らを我ら自身の力で解放しようではないか!」

宗教家らしき演説である。

「最近この街にも囚民(しゅうみん)開放師団が来るようになってな、今のところ被害報告はないのじゃが、どうも気になってな。町の住人はあまり本気にしてないようじゃが、朝っぱらから大声で活動されると困るんじゃよ。今のところはまだ演説可能区域の制限で様子を見ている段階なんじゃよ。」


囚民開放師団とは、人間は空中都市に縛られるように生きるしかないという思想を天空神シャララの加護のもとに撤廃しようという信念のもと、空中神殿で旅をしながら布教活動をする集団である。


(てか、あんたらも巨大な船に住んでるじゃん...)

こんなことを言うと怒られそうなので喉の奥にそっとしまった。


「お前さん、この後どうするつもりなんじゃ?」

「私はこれからエムバスの支局に行ってきます。」

「そうか、わかった。こっちでも引き続き本について調べてみるわい。お前さんもいろいろ調べてみるといい。」

「そうですね、わかったことがあればその都度報告します。」

「そうじゃな、わしはこれから別の仕事があるのでの、ここいらで失礼するぞ。」

「はい、ありがとうございました。」

そういうと、メロクリスはギルドへ戻っていった。


エムバスの支局というのは秘密基地のように隠してあり、局員以外が見つけるのは不可能である。

「バンバルディアの支局って、ここから遠すぎるのよね。まあ、その方が追っ手をまきやすいからいいんだけど。」

まずはラインの屋敷から都市の最外地区まで行く必要がある。でもその前に、一度屋敷に帰って昼食にするとしよう。


屋敷に帰るとティナが迎えてくれた。「お帰りなさいませ、チャル様。午前中は何をされていたのですか?」

「ちょっと本屋に行ってました。」

「そうなんですね。私は日用品の買い出しに行ってまいりました!」

「さっそくなんだけど、お昼ごはんってある?」

「はい、今日はスパゲッティにしました。」

ご飯を食べ終わり、再び汚い本を持って出発した。


路面電車に乗ること15駅

(バンバルディア港~バンバルディア港~、終点でございます。)


昨日ぶりの風景。港の一区画内側が市場のある地区だ。

港には各地の都市からやってきた空輸船が集まっていた。

作業員は届いたコンテナを振り分けていた。

「えーと、この角を曲がってっと。」

関係者以外立ち入り禁止の市場の搬入スペースを通り抜け、追っ手の確認をした後、フェンスを開け階段を下った。

階段を下りきると、細い鉄の足場の下には空中都市を浮遊させている大量のプロペラや地上に垂れ流している汚水パイプ、動力源の熱を逃がす冷却水と蒸気を逃がすポンプなんかが見える。

足場の上を歩くと一枚のドアが見えてきた。

見えないところにあるカメラで確認され、ドアが開いた。

「久しぶりだな、チャル。」

「お久しぶりです。三等支部局長。」

「いや、いまは一等支部局長だ。」

「これは失礼いたしました。改めましてお久しぶりですバチア一等支部局長。」

「この間のディンガルダでの作戦、うまくいったらしいな。」

「いえ、私ではなくほぼキャプテンが一人でやったようなものです。」

「そうか、ホープがか、随分成長したようだな。それにしたって、お前は弱くないだろう?」

ディンガルダは前まで派遣されていた都市の名前である。

ディンガルダでの作戦では有名空賊パジャランダの下部組織を摘発したのだ。

「今回はまだやつらの影がない。それでも警戒はしておくように。囚民開放師団もいるみたいだし、他にも訳のわからん連中が紛れ込んできたとしてもおかしくない。」

「了解しました。」

「ところで、私の隊員はどにいるにですか?」

「今、君の隊員たちは都市の反対側にいる。」

「そうなんですね、では帰還するまで待機ですか。」

そのとき、勢いよくドアが開いた。

「大変です。バチア支局長!!」

隊員とともに入ってきた風は、何か嫌なものまで運んできてしまったようだ。


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