20.途中から本当にあった怖い話

 これは、わたしがまだ実家にいた頃の話です——

 ある夜、なんだか寒気を覚えたので風邪かなぁなんて思いまして、こんな日はお風呂にでも入ってさっさと寝てしまおうと脱衣所に向かったんですね。

 こんなことは滅多にないことなんですが、その夜は、たまたま家族に用事が重なって夕方には家に誰もいなかったんです。それで、誰にことわるでもなく服を脱いでいたら、なぜだか分からないけど脱衣所がひんやりと薄ら寒いんです。

 体調が悪化してるのかな、これはまずいな、と思いながら、残り湯を浴びて髪を洗いはじめました。すると、なんだか様子がおかしいんです。こう、やや前屈みになって、頭はシャンプーの泡だらけ。目はつむった状態なんです。それなのに確かに何かが居るような気配がする。ふりかえってうす目をあけて確認してみるのですが当然ながら何もいない。気のせいかと思ってまた髪を洗っていると、はぁー、はぁー、と背中のすぐ後ろから息を吹きかけられているような不気味な感触があるんです。わたしは背筋がゾッとしました。さっきも言いましたが、今日は家に誰もいませんし、もちろん風呂場に入るときにはわたし一人でした。なんだろう、変だなあ、怖いなあ、と思いながら急いでシャンプーを洗い流そうとしていて、ふと鏡が視界に入った瞬間。ギャッと思わず悲鳴をあげてしまいました。なんとシャワーから冷水が出てきたんです。わたしは給湯器のスイッチを入れ忘れていたことを思い出して、慌てて追い焚きのボタンを押しました。そのあとのことは、ぬるめのお湯に長時間つかってしっかり温まってから出ました。危うくもう少しで本当に風邪をひいてしまうところでした。これはずいぶんと経ってから分かったことなんですが、その日わたしが夕飯で食べた焼売は傷んでいたようなんです。

 あの夜の体験は忘れようとしても二度と忘れることができません。

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