14.爆弾処理班


「隊長、もう時間がありません! 残るコードの色は赤と青です!」

 俺は捕らえた爆弾魔をしこたま殴りつけた。

「どっちのコードだ!」

 奴は薄ら笑いを浮かべたまま「青だ」と答えた。

 その瞬間、俺は部下に無線で指示する。

「赤だ! 赤を切れ!」

 一瞬の静寂の後で「爆弾のカウントが止まりました……」無線機から流れる部下の声に安堵した。

「隊長、犯人がよく口を割りましたね」部下からの無線の問いかけに

「俺は青と白どっちのコードを切れば助かるのか聞いたんだ」と応えた。




  * * *




「これどうかしら? 分かり難いかな。小説サイトのショートショートコンテストに出そうと思って書いたんだけど」


 私はソファでくつろぐ彼にスマホを見せて聞いた。


「どれどれ……うーん、なんでコードが二本しか無いのに白が出てくるの?」

「え? そこ? 普通ドラマとかだとさ、爆弾処理班みたいのがコードをプチプチ切っていって最後にどっちのコードが正解なんだってなるでしょ」

「なんだ、最初からコードが二本しか出てないのかと思った。俺が犯人だったら、そんなコード無いけど? って思うとこだったよ」


「そっか……じゃ付け足すよ」




  * * *




「こちら爆弾処理班です! 隊長、もう時間がありません! 最初は白とか黒とか緑とか色々とあったコードを切断していって残るコードの色は赤と青なんです! 間違った方を切れば爆発して我々は死んでしまうかも知れません!」

 俺は捕らえた爆弾魔をしこたま殴りつけた。

「どっちのコードだ!」

 奴は薄気味の悪い笑みを浮かべたまま「青だ」と答えた。

 その瞬間、俺は部下に無線で指示する。

「赤だ! 赤を切れ!」

 無限に感じる一瞬の静寂の後で「爆弾のカウントが止まりました……」無線機から流れる部下の声に安堵した。

「隊長、犯人がよく口を割りましたね」部下からの無線の問いかけに

「俺は青と白どっちのコードを切れば助かるのか聞いたんだ」と応えた。




  * * *




「こういうこと?」


 先ほどの小説に文章を付け足して、スマホを彼に手渡す。

 しかし、彼は画面を見ながらまだ不満そうだった。


「爆弾作った方からしたら、最終的に残るのは赤か青が残るはずって思ってる訳じゃん。そういうトラップを仕掛けてるんだから。

 青か白のどっち? って聞かれたら、は? なんで白が残るの? ってなるんじゃない?」


「いや、だからそれは別に白じゃなくても良くって、犯人には既に赤は切られてるんだと思わせればいい訳だから……」


「君の脳内設定ではそうなってるのかも知れないけどさ、犯人は納得しないでしょ」


「いやいやいや、物分かりが悪いな。これは嘘つき村みたいな論理学の話なのよ。普通二択だとどっちだ? って聞いても犯人が本当のこと言ってるか嘘ついてるか分からないじゃない。


犯人が本当のことを言ってる場合、

もし青が当たりなら『白は切っても大丈夫』と言うから青が当たりだなって分かるし

もし、赤が当たりなら『両方とも大丈夫』以外に答えは無いでしょ。


嘘をついて爆発させようとしてる場合なら、

もし青が当たりだと『青は切っても大丈夫』と言うから赤は切っていいことになるじゃない?


その場合でも、もし赤が当たりなら『答えられない』になるからこの話では犯人が青って答えた時点で赤は切っていいことになるのよ」


「それだと、確実に分かるのは当たりが選択肢に入ってる場合のみだから、確率半分だ。一回の質問では分からなくない?」

「だって一回しか質問出来ないなんて縛りはないもの」

「そうなの?! それはちょっと読者にフェアじゃない気がするなぁ」

「えー? 分かったよ」




  * * *




「こちら爆弾処理班です! 隊長、もう時間がありません! 最初は白とか黒とか緑とか色々とあったコードを切断していって残るコードの色は赤と青なんです! 間違った方を切れば爆発して我々は死んでしまうかも知れません!」


 俺は捕らえた爆弾魔を見た。爆弾魔はとても頭が悪そうだ。少なくとも俺のトリックを見破られる心配はない。そして、威嚇のためにしこたま殴りつけた。


「部下との会話はお前には聴こえてなかったと思うが、俺がさっきこっそりとお前に聞いた二つの色のうちどっちのコードを切ればカウントダウンが止まるんだ! 言っとくが、質問は一回とは限らない。何回か聞くかも知れないし、お前の答え方次第では一回だけで分かる。なんなら最高でも二回で分かるぞ!」


 奴は薄気味の悪い笑みを浮かべたまま

「絶対に青だ! 間違いない! いいか、青だぞ、絶対に青を切れよ!」

 と、はっきり答えた。


 その瞬間、俺は部下に無線で指示する。

「運良く二分の一の確率で判明した! 赤だ! 赤を切れ!」

 すぐに部下から返事があった。

「爆弾のカウントが止まりました」


「隊長、本当は青が当たりだったのに犯人が嘘を言っているってよく分かりましたね!」

 部下からの無線の問いかけに

「俺は青と白どっちのコードを切れば助かるのか聞いたんだ。なぜこれで分かるかと言うと、いわゆる嘘つき村の住人ていうゲームみたいに、二択の場合だと嘘を見破ることができないが、無関係な別の要素を足してやることで論理的にわかるのだ」

「なるほど! 隊長、万歳、万歳!」





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※エブ◯スタのショートショート・コンテスト「赤」と「あなたが嫌いな理由」の両方に一作でエントリーした為こんな風になっちゃってます。

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