5.炉と腐を同時に満足させる小説を書いた



 ヒロが砂場で遊んでいると、なかよしのミキちゃんが木の棒を持ってやってきた。


「みてみて、変なかたちの木があったんだよ」


 よく見るとそれは一本の木の枝が途中から捻れて奇妙な輪のような形になっていた。

 ヒロが近くにあった枝を拾って「とう!」と言って身構えると、ミキちゃんはそれを見てなぜか「よし、合体だ」と答えた。


 どうやらヒーロー物戦隊のお約束を知らないミキちゃんにとって、戦いとは合体して敵の巨大ロボットをやっつけるものであるらしかった。


 ヒロの持つ木の棒を、ミキちゃんの枝の割れ目に挿しこもうとしてみるが、割れ目は堅く閉じて開かない。


 「だめだめ……そんな、無理やりやっても入らないよ」


 困ったようにミキちゃんが言うので、反省したヒロは割れ目の周囲から優しく棒をあてがい、焦らすようにこじってみた。

 次第に割れ目は、わずかにゆるんでヒロの棒を受け入れようとするかに見えたが、やはりまだまだ入り口はきつくヒロの進入を許さない。

 ヒロは焦ってしまって


 「つばをつけてみたらどうかな」


 と提案すると、ミキちゃんは無言のまま頷いた。

 ヒロが自分の指につばをつけて、ミキちゃんの割れ目に優しく塗りつけると、ヌルヌルした感触が割れ目に沿って広がるにつれ、ミキちゃんの興奮もまた高まっているように感じられた。


 もうお互いの棒と割れ目は充分に濡れそぼって妖しく光りをはなっている。ヒロの棒をミキちゃんの割れ目に当てがって、ふと


「僕たちこんなことしてるのが見つかったら叱られるんじゃない?」


 とミキちゃんに聞いてみた。


「でも、もう止められないよ……」


 とミキちゃんが答えるのを聞いて、ヒロは耐えていた堤防が決壊するかのごとく、ミキちゃんの割れ目にぐっと力を入れて一気に刺し貫いた。ぬるっとした感触とともに一気に根元まで入ってしまった結合部を見て


「あッ! 全部入っちゃった!」


 と、ミキちゃんが驚いた表情でヒロに言った。


「入っちゃったね」


 見つめあったままヒロも満足そうに答えた。





「おい、お前ら遊んでないで早く手伝え」


 大きな野太い声に呼ばれて、二人が声の主を振り返ると、タオルを鉢巻きにした作業服の源さんが睨んでいた。


「ヘイ! さーせん。すぐ行きます」


 ヒロシ幹夫ミキオは、持っていた木の枝をその場に捨て、大型トラックの荷台へと駆け寄った。

 既に倉庫には出荷待ちとなった荷物が山積みとなっている。


「ミキちゃん、これ終わったらいつもの行っちゃう?」

「いいね、久しぶりに源さんも誘おうか」


 倉庫に、若い男達の逞ましい肉体から熱い汗がほとばしる。


 幹夫は、荷物を渡す源さんの手が触れ合うたびに意識せざるを得なかった。博には悪いが幹夫は源さんの肉体を忘れることが出来ないでいたのだ。


「幹夫、これ動かすから反対側を持ってくれ」


 源さんに言われて、幹夫は源さんの脇を通り過ぎる。その時、上気した源さんのうなじから立ち昇るむせ返るような男の匂いを感じて、幹夫は一瞬目眩めまいがした。


 荷物を持つ反対側から、源さんの盛り上がった胸筋がシャツの隙間から垣間見える。

——こいつを俺の物にしたい。

 幹夫の中で激しい欲望が吹き上がっていた。


「じゃ、せーのでいきますよ!」

「おう」


「おっと」


 思わず体勢を崩しかけて、幹夫は踏ん張り直した。


「おいおい、しっかりしろ」


 幹夫は源さんに怒鳴られ、はっと我に返って前を向き直す。

 怒張した筋肉により、はち切れんばかりに膨れ上がった源さんの二の腕のシャツが、幹夫の視線を捉えて離さなかったのである。



「よし、今日はこの辺で上がろうか」

 積み込みが終わった大型トラックが走り出し、それを見送って源さんが言った。


 すかさず博が

「俺たちこれからジムへ行くんですけど、源さんも行きませんか?」

 と聞くと、源さんも

「ああ、いいな」

 と答えた。


 源さんは幹夫たちボディビルダーにとって憧れの存在だ。

 何度もチャンピオンになったこともあり、パンプアップした上腕二頭筋から三角筋、僧帽筋、大胸筋に至るまでポージングを決めた源さんの筋肉美には思わず「こんな悪路じゃジープも通れないよ!」と掛け声を入れたくなるほどだ。


 三人は揃っていつものトレーニングジムに到着し、受付を済ませるとウェイトのエリアへと向かった。


「いやー、それにしても源さんのワキガきついっすよ。今日立ちくらみがしましたもん」

「そうか? まあ、夏場は仕方ないだろう」

「俺もいつか、源さんみたいな胸筋を手に入れたいっす」


 その途中、源さんはジムに併設された乗馬クラブから帰ってくる女に気がついて目を奪われた。

 出るべき所が出て、細くなるべき部分が細く、その女の体型にピッチリとして無駄のない、真っ白な乗馬服に身を包んでいる。黒光りするブーツと、同じく黒くしなやかなムチを持った女を見て、源さんはかつてない激しい胸の高鳴りを感じていた。

 あのムチで叩かれる馬を想像すると、居ても立っても居られなくなるのである。

「あの……良かったら」

 源さんは、半ば無意識のうちに乗馬服の女に懇願していた。


TO BE CONTINUED.

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