3.怒れる家政婦
中年の家政婦マーサが話し始めてから、すでに10分が経過していた。
鼻息荒くまくし立てる内容のほとんどは、今の勤め先である金持ちへの不満である。
「もう気が狂いそうになるわよ、あなた! 先祖代々が軍人の家か何か知らないけどさ」
「へー、それは大変そうね。しきたりとかそう言うのが?」
占い師のエミリーが、彼女をなだめつつ要点を整理したところ、どうやらマーサは転職するかどうかで悩んでいるようだ。
「何をするにも厳格なルールがあって気の休まる暇がないわ! おまけに屋敷中どの部屋にも監視カメラがあって全部監視されてるのよ! あれじゃ、坊ちゃんも可愛そう」
興奮する彼女には悪いが、エミリーには思い当たる節があった。昨今ではベビーシッターが雇い主に見えないところで子供を虐待する事件も聞く。名家であれば、自衛することもある程度はやむを得ないことだろう。
エミリーは、大きな水晶玉を覗き込んだ。
「残念だけど。今のお屋敷は早く辞めて別の家に行った方が良さそうね」
とマーサにアドバイスした。
「そう……、坊ちゃんに会えなくなるのだけが心残りだけど仕方ないわ」
マーサはそれを受け肩を落としてそう答えた。
マーサが帰ったあとでエミリーが水晶玉を覗くと、そこには包丁で刺されてうつ伏せに倒れるマーサの未来の姿が映っていた。
犯人はマーサが坊ちゃんと呼ぶ少年のようだった。
雇い主の両親は、家政婦のマーサではなく危険な子供の方を見張っていたのだ。
「英雄と殺人鬼は紙一重と言うから……」
エミリーは、名家には名家の歴史があるのだろうと納得することにした。
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