第31話:約束だ。

 目を覚ましたこうとベンチに座る。響が跪いてこうの手を握る


「こう君。僕や詩はあと1年ぐらい君と暮らせない。だけど暮らせるようになったら直ぐに暮らすための準備をして迎えにいく。1年は長いと思うけど待っていてほしい。」


 そして響は私の方を向く


「詩。学生で付き合いたてでこういうことを言うのは重いかもしれない…。だけど言わせてほしい。僕とこう君と3人で家族になろう。」


 声が喉に詰まって出てこない。3人で暮らしたいという気持ちと家族ごっこをしてまたこうを傷つけてしまうのではないかという恐怖、響がそこまでしてくれる理由も分かず戸惑った。だけど出た言葉は


「私で…いいの?」


 その一言だった。


「詩じゃなければだめだ。僕と詩とこう君の3人で家族になるんだよ。足りないものだらけの3人で生きていこう。」


「ぼくはまたうたといっしょにいられるの?」


「うん。待たせちゃうけどね。でもこれからは会いに行く。詩と2人で。だから俺らがこうとちゃんと暮らせるようになるまで待って欲しい。」


「ほんとうに、きてくれる?ねえ、うた。ちゃんときてくれる?」


「うん。絶対行く。約束しよう。」


 こうは私の手をぎゅっと握りしめた。私はその手を両手で包んだ。響はその上に手をそっと乗せた。


「これは約束だ。」


 そういう響の手には力が入ったのを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る