第30話:家族とは
「うた…?」
気がついたら私は一目散に駆け出していた。足の痛みも重さも全て忘れて駆け出していた。
「うた…。」声は震えていた。
「ごめんね。遅かったよね。」
「うた…。ぼく…。ぼくね…。」
目から大きな涙を零して言葉さえ上手く紡げない幼い弟をしっかり抱きしめる。
本当のお姉ちゃんならこういう時どうしていたのだろう。心配したと怒ったのかな?見つけて安心したと泣いたのかな。ただ笑って受け入れてあげたのかな。
私は家族ごっこをしていただけだった。自己満足だった。ただ情けをかけては自分の穴を埋めようとしていただけだった。なのに今こうはそんな汚い私を小さい手でしっかり掴んでくる。
「こう。戻ろう。」
「いやだ。ぼくは…ぼくは、うたといたいよ。」
「こう…。」
「ぼくは…ぼくは…ずっとうたに会いたかった。」
「うん…。」
「まってたよ。ぼく。」
「うん…。ごめんね。」
「ぼくは、いつまでまてばいいの?うたはむかえにきてくれるの?」
大学3年だ。あと1年以上ある。
「こう…。ごめんね。」
「うたはぼくのこときらいになったの?」
「それは違う!」
「ぼくはわるいこだった?」
「それも違う!」
「ならなんでいっしょにいられないの?」
こうは駄々こねるように泣きながら一緒にいたいと言い続けた。初めて年相応のわがままを聞いた気がする。
泣き疲れたこうを背負う響を見る。
「響ありがとう。そばに居てくれて。」
「いいよ。逆にありがとう。俺さ家族って作りたくなかったんだ。怖かったんだよ、両親みたいに子供に想いを押し付けて自分達が歩めなかった人生を歩ませる親になりそうで。だけど今日2人が話しているのを見て思った。こうが可愛くて、こうを大切にする詩が愛おしかった。」
夕陽の中、ゆっくりと一言一言を大切に吐き出す響をただ見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます