第23話:進路

「うーたん!おひさ!あれ、こう君は?」


「こうは…。」どこを歩いていてもこうのことを聞かれる。そして色んな人から、気を落とすなとか、ご飯でも行こうとか言って貰える。それでも埋まらない穴を何度も意識させられるようで、酷く寒い。




 結局3年生になって進路も決まらず、授業に行っても寝ていた。就活のこと意識しないといけないのに、私は結局将来何がしたいとか分からない。この大学に進んだのは実家から出るため。受けた大学の中で一番偏差値が高い所だったから。教育学部だから周囲は教採に向けて勉強をしている。向かう方向が決まっている人は羨ましい。私はどれだけ自分史を振り返っても、自己分析してもやりたい事など見つからなかった。その焦りや不安を埋める方法も分からず、とにかく時間だけを彼の家で貪っていた。




「響は進路どうするの?」


「やりたい事はないし、地元には戻りたくないから…東京の給料高い所にするよ。お金がある分には困らないし、志望理由だって企業受け良さそうに書けばいいかなって。詩は?」


「決まってない。何も。」


「そうだよね。」


 ただ溜息だけが溶けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る