第18話:こうの親
あーあ、こんな日が来ることはわかってたんだけどなぁ…とため息が止まらない。外はこうと出会った日のように空は澄み渡って、あざ笑っているのかい?と皮肉さえ口から出てきそうだ。
こうの親が見つかった。そう連絡が来た。あーあ、見つかったか…。心は曇り今にも泣きそうになりながら過ごしていたら夜になっていた。寝ているこうを撫でながらずっとこのことを考えている。2月、春休みが始まった。とはいっても3月までしか帰省できなくて3日後ぐらいに帰省しようとしたらこれだ。明日こうには出掛けるとは言っている。もしかして親に会うのかな?と思ったら寝れない。こうやって一緒に寝るのももうないのか…。きっとこうのお母さんはこうと似ていたらかなりの美人だろうな。すごく美人だろう。だってこうはかなりの美形だと思うし。こうを撫でていたらくすぐったそうにこうの目が開く。
「うたっ…?」
「起きたの?」
「うん。」
「こう一緒に寝ていい?」
「なんで?いつもそうしているよ。」
「秘密。」
「いいよ。」こうの布団に潜り込む。こうの寝息を聞きながらこんな日が終わらないでくれたらいいのに。永遠があれば永遠を信じたい。
朝、重い足取りのまま行くと、最初は私とだけ話すことになり別室に連れていかれた。
「彼のお母さんが見つかりました。」
「こうの…こうのお母さんはどこにいるんですか?」
「亡くなってた。」亡くなってた…?予想外すぎて一瞬思考が止まった。それに気づいてか、はたまた気づかずか
「自殺だと思う。」と冷静に告げる。自殺?こうをおいて?なんで?そんなことをいう相手は、こうの親はもうこの世にいない。その事実が詩に重くのしかかる。
こうのお母さんはこうを無戸籍で育てていた。新宿のキャバクラの社員寮で働きながらだったらしい。こうを捨てた日、車にのって、このど田舎まで来たらしい。こうを捨てた後、山奥に行って車ごと転落したらしい。遺品や部屋には子供ものの物があった。なんで死んだの?・・・こうをおいて。大和田さんは丁寧にやさしく状況を教えてくれる。大和田さん曰く、無戸籍の子供は、父親の名前を戸籍に載せたくないという母親の希望とかから発生することもあるらしい。そして、こうのお母さんが働いていたキャバクラのお店が、独身を売りにしているところらしく、お店にもばらすわけにいかなくて…ってところかなと。
こうのお母さんは、昔はそのお店で一番だったらしいけど、今はランキング転落していたみたいとも聞いた。もう、その界隈で稼ぐのは厳しいと、自覚してたんじゃないかな?子供は戸籍がないから学校にもいけない、自分は無職になる…絶望の中で自殺を決めた。まぁ、これは予想なんだけどね。でもこうと死ぬことはできなかった。生きていてほしかったんじゃないかな。だから大学生や大学関係者ばっかり住んでるこの街に、いくつかある大学の近くのこの地域に捨てたのかな?誰かに拾ってもらえたらって。でも、こうは本当にひとりなのは、紛れもない事実なんだ。父親もわからない、分かってもきっと父親とは認めてくれないだろうし、認めたとしても今までこうやこうのお母さんを放置していたようなやつには、父親だと名乗らせたくない。母親は死んだ。そうなったら、こうは、どうなるの? 思考が止まらず吐き気さえ催している。
「こ、こうはこれからどうなるんでしょうか。」思った以上に声が低くて自分自身も驚く。
「里親探しをすることになりますね。養護施設に入ることになります。」と大和田さんといた児童養護施設の人は慣れているかのように淡々と事実だけを伝えてくる。
「里親ってそんなにすぐ見つかるものですか?」
「正直里親はそう簡単には見つからないと思います」…だよね。…ってことはずっと施設で育つの?
「彼の引き渡しの日程を決めていきたいと思うのですが…横山さん…?」
「わたしが…私が、本当の家族になります!!こうの本当の家族になります!」
「横山さん。あなたはまだ学生で、あなたはまだ自立しているとはいえません。なのでこう君を引き取ることはできないのですよ。」
「どうしてもだめですか?こうはもう家族なんです。」
「横山さん、あなたはこれから自分の人生を拓いていく。就職結婚とかです。その時にこう君が荷物となるとなってしまうことだって考えられるんですよ。」
「もう決めたんです。こうは私の弟です。」
「感情だけで進められることではないんですよ。」なんにも言えない。でも、こうはもう家族だ。血のつながりなんて関係ない。私はこうと一緒に生きたいんだ。思いは募るが、その場をひっくり返せるような言葉は、出てこない。
「とにかく、こう君の受け渡しは早めにしましょう。来週の水曜日でいいですか?」
「…はい。」
こうに家で来週の水曜日、離れなきゃいけないって伝える。こうはただ泣くこともなく、ただただ一言
「そっか、わかった。」と言うだけだった。
ただこうの目は真っ黒で何を思っているかなんて誰にも読めなかった。
「お父さん…。」
「詩どうした?」詩はお父さんに何となく電話する。お父さんの声が耳に響いた瞬間に抑えてきたいろんなものがあふれてきた。
「詩?」
「こうと…こうと離れたくない。こうとこれからも住みたい。だって私の…私の大切な家族だもん。弟だもん。」
「親が…見つかったのか?」
「うん。お父さんどうしよ。こうと離れなきゃいけない。こうの親もう死んでるから児童養護施設に行くんだって。」
「なるほどな…。」そう短く息を吐く音が聞こえた。
「保護者が詩だから離れないといけないってことだもんな。学生だからな。なら…もしかして俺が保護者ならいいのか?」
「お父さん?」
「掛け合う価値はあるだろ?」
「うん…。」
「そっちに週末行くから、その時話そう。」そう短く切られた電話をかかえ、詩はただ泣いた。その声は寝ているこうの耳まで届いていたのかもしれない。
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