第14話:ひとり

「ねぇ、詩。」


「こう起きてたの?」疲れて寝てしまったからそのまま寝かせようと思ってた。


「うん。」


「あ、お父さん。お風呂空いてる?」


「空いてるぞ。」


「こうとお風呂先入ってくるわ。」




 お風呂で頭を洗ってあげてると


「ねぇ、お父さんって普通あんな感じなの?」


「うーん、どうなんだろ。そうなんじゃない?」お父さん一人しか知らないからわかんないな。


「お母さんは?」


「お母さんも…普通なんじゃない?ちょっと普通よりは口うるさいかもしれないけど。」


「僕のね、お母さんは夜家にいなかったんだ。」


「うん。」夜の仕事なのかな?


「それで朝帰ってくるの。」


「うん。こう、髪流すね。」真剣に聞いたらこうは話しにくくなりそうで、軽く聞いてる感じを醸し出す。シャンプーの泡が流されていく。こうのお母さんは夜の仕事なんだな。と思いながら手を動かす。手を動かしてないと動揺が全力で表に出そうになる。


「お母さんが帰ってきたらご飯作ってくれて一緒に食べて、お母さんは寝るの。お母さんがこれやっとくようにって言ってたものがあってね。それをやるの。」


「うん。」とりあえず湯船に浸かりながら続きを聞く視線は水面へ…。こうの目を見てどのような顔をすればいいかわからない。水面がすこしゆらゆらと揺れる。とりあえず漢字と算数が出来たのはそういうことか。


「お母さんが夕方に起きてきてね、テストするの。それでお母さんはご飯用意して食べてシャワー浴びて出てくの。」


「うん。こうはお風呂どうしてたの?」


「お母さんが休みだったら一緒だったけど一人だったよ」


「そうかぁ…。」


「ずっと一人だったよ。」


「うん。」なんて声かけたらいいかわからない。


「だから…詩とお風呂入れて楽しい。」


「ほんと?」


「うん。詩がキラキラ星歌うのも好き。」


「じゃあ今日も歌おっか!」キラキラ星を歌いながらこの子はどんだけ寂しさを抱えてたのだろうかと思いながら、もう二度とこの子に寂しい思いをしないようにしてあげたいと思った。そして星がみんなを見てるなら、ちゃんとこうにも光が当たってくれますように。そう願ってやまない。

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