第12話:松本


 自分の荷物とこうの荷物を全てスーツケースに入れて駅にいく。


「こう、これに乗るよ!」駅にあるパネルに写っている電車を指す。


「あずさ?」


「そう、あずさだよ!」お父さんが指定席二人分のお金を振り込んでくれてびっくりした。自由席でも大丈夫っていうことを伝えに電話をしたら


「こう君もいるんだから無理するな」と…ありがたい。こうはいつも通り大人しくしている。電車に乗り込んでケータイで提出できる簡単な課題を片付ける。


「ねぇ、詩?」


「ん?」


「あれ何?」


「あれは田んぼだよ。」


「お米生えてないよ。」


「冬だからねー。」まて。田んぼ見たことないってこいつどこの都会で今まで生活してたんだ?と長野県育ちで見渡す限り山しかない環境で18年住んでた私は信じられない。


「ねぇ、詩の地元は星がよく見えるんだよね?」


「そうだよ。」こうはキラキラ星を歌ってあげてから星と音楽に興味を示したみたい。図書館で最近ずっと星の本を読んでるみたいだし。あと音楽かぁ、楽器やってたけど弦と鍵盤の楽器は演奏できないんだよなぁ…。興味持ったんならピアノでもやらしてあげたいけどなぁ…。こうと他愛もない話をしてると久しぶりの故郷につく。


「こう、そろそろだから準備しようか!」さぁーて、東京とは違って長野はびっくりする寒さだぞと笑っていると


「さむっ。」ほらねと予想通りの反応に笑う。ホームの屋根は真っ白で冷たい新鮮な空気が肺に入ってくる。


「大丈夫?」一応かなりもこもこさせているけど…。


「詩はここに住んでたの?」なんだ?かなり疑ってると分かるぐらい信じられないという目を向けられる。そうだよ、極寒帝国長野県に住んでたんだよ。


「そうだよ。」と伝えると信じられない。ここ人間住んでるのみたいな顔する。長野県民を敵に回すぞ。


 お父さんには連絡してある。迎えに来てくれるらしい。


「詩!こう君!」


「お父さん!」駅にはお父さん。


「こんにちは。」


「偉いな、挨拶できて!」あれ?お父さん優しすぎないか?車にはお母さんがいて、お母さんも普通どころか優しすぎる。どうした?両親の変貌具合に若干引いている。


「ねぇ、詩!あれ何?」


「あ、あれは松本城だよ!」


「まつもとじょう?」


「そう、お城初めてみる?」


「うん。テレビでは見たことあるけど、こんなにかっこよくなかった。」こうにとっては初めてだらけの長野。沢山学べるものがあるといいなぁと曇った窓ガラスを袖で拭き外を眺める。白い雪が青い山に降り注いでいて、城の黒いところにもかぶっていてすごくきれいだと思う。


 実家に着きこうは雪の上を恐る恐る歩く。雪も慣れないかな?転ばないか心配だ。と思ってる端から転ぶ。


「こう、大丈夫!?」


「うん。」なんにもなかったかのような顔をし、また恐る恐る歩く。


「ねぇ、後で遊んでいい?」とキラキラした目で訴えられたらいいよとしか言えない。


「もちろん、一緒に遊ぼうか!」


「うん!」寒いって言ってたのに雪遊び付き合うとは。…しゃぎまくるこうの元気についていけない。たまにこうがあまりにも大人しくて忘れることがあるけどまだまだ子供なんだなぁ…と雪慣れしないこうに容赦なく雪玉をあてる。びっくりするほど平和に過ごせてる帰省。こうは思い切り警戒していたけど、なんだかんだうまくいってる。怖いぐらいに。

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