六十三話
歩いて行くといつか来た砦を背に兵が展開していた。
「ここで待て」
アカツキはそう言うと一人進み出る。
「ツッチー将軍! 俺です! アカツキです!」
すると隊列が割れ、騎馬が一騎馳せてきた。
片手に槍を提げ、猫を模した鎧兜を身に纏っている。
「アカツキ!」
「ツッチー将軍、捕虜約二百名と共に戻って参りました」
「おおっ!」
ツッチー将軍は下馬するとアカツキを抱き締めた。
「よくやった。本当によくやったぞ、アカツキ!」
そのままツッチー将軍は上機嫌で話を続けようとしたが、アカツキが遮った。
「実はツッチー将軍、アムル・ソンリッサからの親書を持参した使者を連れて参りました」
「親書?」
「はい。国王陛下に向けてのものです」
「ふむ……。とりあえず、こういう場合は使者殿を丁重に扱わねばな。と言っても馬車など無いし……うーむ」
「馬で結構です」
「そうか。よし」
程なくして上等な馬が二頭連れられてきた。
「オーク城まで少し距離があるが、お前は先に使者殿を太守殿に会わせてやってくれ。捕虜だった者達は俺達が率いて行くゆえ」
「分かりました」
ヴィルヘルムが、リムリアと共にやってきた。
ツッチー将軍は丁寧に一礼した。
「フレルアン王国が将、ツッチーでござる」
「ご丁寧に痛み入ります。アムル・ソンリッサの使いの者、ヴィルヘルムと申します」
両者は対面した。
アカツキは少々冷や冷やした。が、異国の将、二人は笑い合っていた。
「まずはオーク城へお寄られませ。我らが太守、バルバトス・ノヴァーが貴殿を歓迎するでしょう」
「分かりました。馬をお借りします」
ヴィルヘルムは馬上の人となった。
「アカツキ将軍、早く早く」
リムリアがアカツキの馬に跨っていた。
女の身で城まで歩ませるわけにもいかんか。
アカツキはその後ろに跨った。
「では、ツッチー将軍!」
「おう、ではな、アカツキ!」
アカツキが先に馬を走らせ、ヴィルヘルムが並走した。
二
「良い武将だったな。ブロッソを思い出す」
馬を走らせながらヴィルヘルムが言った。
「確かに似たようなところはあるかもしれん」
アカツキは応じた。
「なぁ、アカツキ、俺はお前の世界が好きになりそうだ。しっかり修好の使者の役目務めさせてもらうからな」
「ああ、頼んだ。俺達は神々の遊戯の駒では無い。分かり合えるんだ」
「そうだな。だが、神が黙っているかどうか……」
ヴィルヘルムが心配そうに言ったので、アカツキはその肩を叩いた。
「神だろうが、邪魔する者は俺が剣に誓って排除する」
「俺もだ。お前の一番弟子だもんな」
「いや、残念だが、ヴィルヘルム、お前は三番目だ」
「そうなのか?」
「ああ、オーク城へ行けばその辺りも分かってくるだろう」
「俺の兄弟子達はどんな者なのか楽しみだ。だろう、リムリア?」
話を振られ、リムリアは微笑んでアカツキを見上げた。
「ラルフ準将軍とグレイ準将軍、いれば良いね、アカツキ将軍」
「そうだな」
「その二人が俺の兄弟子か?」
「そうなるな」
城の影が見えてきた。
そして開け放たれた門扉の前に二人の番兵が立ち槍を合わせて進路を塞いだ。
「アカツキだ。通させてもらえないか?」
「アカツキ将軍、無事の御帰還おめでとうございます。しかし、そちらに居るのは……」
「その通り、魔族だ。名をヴィルヘルムという。よろしく」
ヴィルヘルムが馬から下り握手を求めると兵士達はより一層警戒してきた。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。ヴィルヘルム様は使者として来たんだから」
リムリアが馬から下り言った。アカツキも下馬した。
「通してくれ」
「いや、いくら将軍の御命令と言えど、魔族を城に招き入れるのは……」
まぁ、仕方の無いことだ。
「じゃあ、太守殿にこのことを伝えてきてくれ。馬を使うと良い」
アカツキが言うと兵士の片側、年配の方が恐縮しきった様子で馬に跨り城下へ消えて行った。
少し待ったが、迎えが現れた。
「アカツキ!」
春もまだ冷えるというのに上半身裸の上に剣を背負っている。同僚、ファルクスが現れた。
「お前、今度こそ戻ったんだな!?」
アカツキは頷いた。
「よし! これでアムル・ソンリッサを攻めることができる!」
「お前は聴いてなかったのか?」
「何をだ? というか、誰だこいつ?」
ファルクスはヴィルヘルムをしげしげと見詰めた。
「アムル・ソンリッサの使者ヴィルヘルムと申す」
ヴィルヘルムが冷静な態度で名乗る。
するとファルクスは背中の剣に手を掛けた。
「どういうことだアカツキ!?」
アカツキは溜息を吐きたい気分だった。
何でよりによってファルクスが迎えに来るのだろうか。
面倒だが、一から説明しようとした時だった。
馬を飛ばして兵に囲まれ待ちに待った男が現れた。
「アカツキ将軍、御苦労だった。そして使者殿ようこそ、我が城へ」
老将にして太守、英雄バルバトス・ノヴァーは、若者のように溌溂とした生気漲る表情を浮かべ、聴くものを勇気づける魅力溢れる声でそう言った。
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