2。ハリーホールシティの怪奇な小話-中-

『サイキック』

超能力者。能力は遺伝や突然変異として生まれ持ってくるが人間は自らの力を100%発揮することができない、大半が潜在する能力に気づかず一生を過ごすことが多い。超能力を得るのは奇跡的にその100%を引き出すことのできる優秀な人間かまたは脳の損傷によりエラーが起きた場合に意図せぬ形で発現されるかのどちらかである。



可笑しなお菓子屋『FUNNY&YUMMY!!』

色とりどりの宝石のようなキャンディも人気だが膨らますたびに色が変わるガムなんかもよく売れている。数ある商品の中でも特に『お天気コットンキャンディ』なんかは特に魅力的だ。通常の春のハレ味はレモン色と若草色のグラデーションでメレンゲの花が散りばめられている。口に入れた途端ミルクティーのような甘さが広がり鼻から花の香りが抜けていくのがロマンチックだ。もし貴方が失恋した日には梅雨のアメ味なんてどうだろう、色は濃いめのグレーで青や紫のキャンディーのカケラがキラキラと光っている。ブルーベリーのキュンとした酸味と甘さが特徴で口に含むと不思議と涙が溢れてくる、食べ終わった棒には「貴方の雨が明日に虹をかけますように」と書かれており、じわじわと体が温まってくる不思議な綿あめである。


この風変わりな数々のお菓子を求めた人々で今日も大盛況。しかし店員がキャンディメイカー1人のために騒がしく鳴り響く電話を中々取れないでいた。

電話のベルを止めろとばかりに鳴く大ガエル、バブルボン。キャンディメイカーは客に一旦断って乱暴に電話に出た。

「ハァイ!ハロー!可笑しなお菓子屋FUNNY&YUMMY!!」

「ついさっき会ったばかりなのにすまないなキャンディメイカー。」

腹の底に響くようなテノール。

「カルロス。私の商品に何かあったのかしラ?」

「いや、全く。ある一件の情報を提供するために電話した。子供による放火事件だ、拠点に被害を受けかけた。恐らく親からの虐待によるストレスでサイキックの能力が発現し無差別的で東の家周辺を徘徊している。子供相手といえど制御不能の能力なら我々は……」

「っ!!させるわけねェーだろ。……チッ、この件は私がどうにかしてヤる…………いや、今後子供たちに関わる案件全部アタシがヤルわ。」

キャンディメイカーの人相はまるで歪に変わっていた。ギョロっとした特徴的な目がさらに見開き、額に汗が浮かんだ。

「東の家っつーと、エデンの塔あたりカ?細かい情報があればこっちに回しナ。……今夜、片付ける。」

「ああ、わかった。こちらで調べ上げた情報をメールで送っておく。…悪い、借りができたな。」

「イーや、いいヨ。寧ろ好都合。ていうか、今後子供絡みの事件は任せて。子供たちはアタシが守ってみせる…」



街のギラつく灯りを見下すような三日月が上った夜。


最後に火災事件があったのはエデンの塔から2km離れたマフィア『異端者の冠』の拠点3つの内の東の家の目の前。花屋とその隣の家屋は無残に黒く崩れ落ちていた。

犯人がカイン・ティンターであることは目撃者の何人かには知れ渡っており、この10代の少年は背後に感じる恐怖でいつかの日のように街を逃げ回っていた。

キャンディメイカーはバブルボンを全速力で走らせた。バブルボンは下半身が店と繋がっているためこの速度で進むと店内は、まあ想像の通りであるのだがそれに構わず駆け抜けていく。

すると焦茶色の髪の少年が息を切らして走っているのが見えた。キャンディメイカーはスマートフォンに送られた資料を確認した。「カイン!!あの子だ……っ!」

大通りにバブルボンを放置して彼を呼ぶ。大きな化け物を前にして怯えさせないために。

「おーい!キミィー!!」

気づいた少年はキャンディメイカーの姿を確認するや否や速度を上げて入り組んだ路地に逃げ込むのは当然だった。カインは今や犯罪者であるだから。

子供は運動能力が高く小回りの効いた動きで細い道も難なく抜けていく。

「フフッ!だよネ〜!ゼェ…ゼェ……キッツ…!アタシもう20後半なんだってば……!」

金髪三つ編み赤色エプロンドレスの小柄な少女と思われた彼女は信じがたいがとっくの成人女性だった。ましてや彼女の華奢な体つきから体育会系とは思えない、速さと体力では大きな差が出た。

カインは途中で人のいない建物を見つけ身を潜めた。一軒家程の広さを持つアルミ缶やごちゃごちゃした機械、錆びた工具がある一定の纏まりをもって散らかっており、窓から少量の月明かりがさしている、ここは今は使われていない自動車倉庫だ。

外ではカインにとっては見知らぬ女、キャンディメイカーが自分を呼んでいる声がする。

「キミのことは知ってル!助けに来たのヨ!キミは力を抑えきれないだケなのよネ!?お願い!返事をしてェ!」

信じることは出来ない、もはや彼にとっては外の世界全てが脅威なのである。

と、その時突然窓ガラスが割れる音が響く。さっきの女だろうか?カインはその音に怯えるがあの言葉を信じたい自分もいた。そろりと顔を覗かせる。

「いやがったぜ!このガキ!!」

「ヘヘッ!別の女が追ってて見つけやすかったな!」

「!?」

知らない男だ。キャンディメイカーではない柄の悪く汚いナリの男でそれも1人ではない後から複数人が先ほどの声を聞きつけて集まってくる。

「お前が何したかも知ってんだよ!」

カインは慌てて逃げようとするもあっさりと服を掴まれてしまう。

「へぇーこんなガキが連続火災事件の犯人なんて信じられねぇぜ。」

「ッ!僕は!」

「黙れッ!お前は指名手配されてんだよ!何だっけェ?まず、田舎の森の家と、郊外の民家、そっから、ハリーホールまでやってきて国立博物館で一件、最後にこの近くの花屋か」

「悪いなボウズ、国立博物館の館主からよぉ…お前を捕まえたらたっぷりと報酬を貰うって約束してんだ。」

カインは力いっぱい抵抗している。腕を後ろ手に掴まれてうまく身動きできないが強く身をよじった際に足が男の脛を力いっぱいに蹴り上げた。

「グッ……この…ガキ……ッ!!」

「よせ、傷をつけるなと言われただろ。」

「クソ!!アイツも何考えてやがるんだ!」

…何かがおかしい。博物館の館主はこの一件でカインに賞金をかけている。だが傷をつけるなとはどういうことだろうか?被害を受けた者の言い分だとすると少々引っかかる。

「しょうがねぇだろありゃ生粋の変態だ。コイツの潰れた片目が欲しいだなんてよ……」

男の1人がカインの長い前髪を雑にかきあげる、そこにはエメラルドのような左目とあの日の火傷を受け惨たらしく焼け爛れた右目があった。

脛を蹴られた男はイラついた様子で言う

「目だけだろ!?他はどうでも良いんじゃねーのかァ?」

知らない男がカインを囲んでいる。

その十分な恐怖に少年は肩を震わせていると背後から声がした。

「カイン……カイン…………!」

女の声だが我々の知るキャンディメイカーの軽快な声ではない。

……泣いているのか怒っているのか恨みのこもった。酒にやけた声。


「母さん……っ!」

カインが今日一番と怯え、彼を抑える男たちは予想外の客に狼狽えた。

男たちが入ってきた扉からあの女の影が見えたときカインの記憶が超能力となって蘇る。

床から炎が立ち上り始めたのだ。

「おいっ!ガキの周りから火が!!」

「その手を離せっ!焼け死ぬぞ!」

「だがコイツには金がッ!!」

刹那、カインを掴んだ男の首が飛ぶ。

カインの母が飛びかかって斧で切りかかったからだ、そのまま素早くカインに掴みかかるり言った。

「なんで…!なんでお前が!!悪魔の力を得たのよ!!!」

「母さん!違う!これは僕の力だ!悪魔なんか知らない!」

カインを捕らえていた男たちは叫びながら蜘蛛の子を散らしたように逃げていった。一方で母親は我が子の肩に爪を減り込ませ、悲痛な親子の争いは続く。

「私が差し出したのに!供物として悪魔に捧げたのに!!」

「母さん…僕は…!ぐぅっ……!この力はずっと前からあったんだ!でも超能力なんて変な人間だと思われるのが嫌で……!言わなかったんだ!!」





「ヘェ〜そうゆうことネ。詳しく聞かせて貰ったワ。」


「「!?」」


割れた窓ガラスから月光を背後に立つ三つ編みの赤いエプロンドレス。


「ものスゴぉ〜ク行き違いをしていたみたい。母親は悪魔信者で、息子は先天性サイキック。隠してた能力がバレた時に悪魔の力と誤解してそのまま暴走かァ…悪魔は気まぐれだしネ、そう思うのも無理はないかも。……でもこのまま隠し続けてもいずれはエスカレートして息子自体を捧げるかもしれなかったかもネ?」

窓の枠を超えて炎の中へゆっくり歩いていく。炎はすでに建物は自動車のガソリンに引火し倉庫の中いっぱいに燃えていた。


「アタシはキャンディメイカー。表向きはお菓子屋さん、今は……

…子供達を助ける慈善家ヨン❤︎」


軽い口振りとは真逆に彼女の目は真っ直ぐに母親を睨みつけた。

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