6.オートマトン(2)
夜9時。
窓の外では、高層ビル群をバックに都会の夜景が輝く。
アルファレオニスの会議スペースには、すでに退社してしまった佐々木優理を除くメンバー3人が集まっていた。
「もう今日は疲れましたよ。こんな時間に緊急会議って、いったい何なんですか?」
加賀瑞樹は、大きなあくびをしながら尋ねた。
オフィスの中に自分の寝泊りする部屋を借りているので、いくら眠くても会議に出ないわけにはいかない。
通勤にかかる時間は5秒。普段アルバイトに出勤するのは楽だが、こういう時にサボることは難しい。
職住近接しすぎるのも考えものだ。
山下拓がリビングから持ってきたノートパソコンにケーブルをつなぐ。すると、会議室前方につり下がったスクリーンに動画が映し出された。
よく見ると、先ほど畑の中でオートマトンと戦っている時の映像だった。
加賀瑞樹も山下拓も映っている。
「いつの間に撮ってたんですか?」
加賀瑞樹が驚きの声を上げる。
「小生がドローンを遠隔操作して空撮してたんだよ」
伊達裕之が得意そうに答えた。
シーンが切り替わり、今度は加賀瑞樹が座り込みおびえているタイミングが映し出された。
気恥ずかしさで耳が熱くなる。
「からかうのは止めてくださいよ」加賀瑞樹は口をとがらした。
「いや、このシーンが重要なんだ」
山下拓が力強く言い放ち、スクリーンを指差す。
「この時のオートマトンを見てくれ。オレが一番でかいやつを破壊したにもかわらず、小型のやつらは動き続けている。普通は、オートマトン本体の核となる『コアブロック』を破壊すれば、そいつから分裂した子供のオートマトンも同時に崩壊する。だが今回は、崩壊せずに加賀を襲い続けた」
「拓ちゃん、これは厄介だね」
伊達裕之が苦い顔をする。
「え、どういうことですか?」
加賀瑞樹は理解が追い付かず、補足を求めた。
山下拓が真剣な表情で説明する。
「本体だと思ってオレが壊した大型のオートマトンは、実は本体じゃなくて、子供だったってことだ。つまり、コアブロックを持った、もっと強力なオートマトンが別にいる」
加賀瑞樹はゴクリと唾を飲み込んだ。
あれだけ大きかったのに、それでも本体じゃなかったなんて。
もっと巨大なオートマトンがいるというのか。
すると、伊達裕之は黒縁の眼鏡の位置を手で直しながら言った。
「さっき倒した
「デルタ?」
もうすっかり加賀瑞樹の眠気が吹き飛んでいた。
「うん。デルタだと簡単には発見できないし、ガンマより桁違いに強いし、厄介なことだらけ」
人工衛星の写真からガンマを発見するアプリなら、同じようにデルタだって見つけられるはずでは。
加賀瑞樹は、山下拓から教えてもらったアプリの仕組みを思い出し、疑問を口にした。
「ガンマよりも、すぐにアプリで見つけられそうな気がするんですけど」
伊達裕之は申し訳なさそうな顔をすると、「小生の人工衛星アプリは、ガンマみたいに大型なオートマトンならすぐ見つけられるんだけど、デルタはサイズが小さいし、人工衛星から撮影した画像で判別できないから使えないんだ」と残念そうに答えた。
「というわけで、明日、オレと優理の2人がかりでデルタの駆除に向かう」
山下拓の強く低い声が響く。
「今回は危険だから、加賀は来るな」
「はーい」
加賀瑞樹は心の中で『言われなくてもそうします』と返事した。今日戦った小さなオートマトンでも怖かったのだから、デルタと戦うなんて無理に決まっている。
「加賀っちは今日頑張ったし、明日は休暇でいいよ。ゆっくり休んで」
伊達裕之が優しい言葉をかけてくれたが、元々、明日は定休日のはず。
そういえば、以前サークルの先輩が、ベンチャー企業はブラック企業が多いという話をしていたような。
加賀瑞樹の脳裏に『ブラック』という文字がよぎった。
山下拓が伊達裕之に視線をやると、「ダテヒロ、申し訳ないけど、さっき送った画像データを使って明日の朝までにデルタの居場所を絞り込んでくれないか」と頼んだ。
「了解。任せといて」
伊達裕之は眼鏡越しにウインクする。
「したら、会議はここまで」
山下拓の宣言で緊急会議は閉会した。
☆
会議の後、加賀瑞樹は住まわせてもらっている自分の部屋に戻ると、ポケットに入れていたスマホが震えた。
加賀瑞樹には普段、連絡を取り合うような友達はいない。むしろ、友達と呼べるような関係の人間はいないと自覚している。
となると、こんな時間に連絡してくるのは、ひとりしかいない。
ごそごそとポケットからスマホを取り出す。手に取って画面を見ると、SNSのメッセージだった。差出人は、やはり小泉玲奈。
しかし、そのメッセージには、不吉な文字が並んでいた。
「『
画面に表示された文字に、加賀瑞樹は小さく呟いた。
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