5.

 晴都が、始発で部屋に戻ったのは今朝の5:30.それから約半日晴都はとにかく眠り続けた。碧はヒロタカに借りたベッドに座り、ずっとその寝顔を見ていた。

 飽きないなぁと思う。無防備な寝顔。このひとは何て深い意味を持った顔をしているのかしらと思う。きれいな品の良い額の形とか、意志の強そうな顎の顎の形とか。いつも厳しい表情をして、鋭く人を射抜く瞳。あの凛とした顔をこういうひとつひとつがつくっているんだな、と思う。

 碧の目に、今朝の晴都の厳しい目が蘇る。

「ひきとめられるわけ、ないだろうが たとえ、本当はひきとめたくても。お前のチャンスに、俺、口出しできる立場じゃない」

 晴都らしくない本音の言葉。

「あたし、子供過ぎるから。このままじゃ、いつまでも晴都に追いつけないかもしれない。いつか飽きられてしまうかもって不安なの。もっと広い世界を知ってもっといろんな恋をして、ひとの心がよくわかる優しくて強い女性になって、…晴都と同じ高さで歩けるくらい大人になってから、あなたにたどり着きたい」

「それまで、俺に待ってろって言いたいのか?」

 晴都の問いに、碧は苦しくなるくらい何度も首を横に振った。

「自分の未来に確信持てるほどあたし、自分を知らないから」

「たどり着く先は俺じゃないかもしれないってことか? 俺はこのままお前を失うかもしれないんだな」

 そう言って、晴都の顔は今まで見たことが無い悲しい表情になった。

 キスが激しくなったなぁ。乱暴に抱き寄せられて、碧はそんなことを思った。晴都が上京する前は、碧がねだると、面倒そうに、その実照れくさがって、一瞬触れるだけのキスだったのに。いつからこんな切ないくらい長い時間、唇を重ねるようになったのか。そんな晴都らしくない変化に、今まで気づかなかった自分に碧は驚いた。まさか現在進行形で心が離れていこうとしてるのは、あたしの方だったなんて。

「碧、どうした?」

 眠っていた晴都が目を覚まして、碧の顔を覗きこんでいる。碧は我に帰って、泣いている自分に気づいた。

「意地張ってないで、こっち来いよ」

 晴都は優しく笑って碧の腕をぐいと引いた。日焼けした方が目に入り、碧の心臓がずきんと踊る。…こんなに愛しいのに。

「ごめんなさい。もう出かけなきゃ」

 予約した新幹線に間に合わすにはもう出発しなくてはならない。碧はそっと手を引いた。立ち上がろうとしたその肩に、大粒の水滴、ひとつ、ふたつ。

「え?」

天井を見上げて、碧は唖然とした。

「晴都、起きて!! この部屋ってば雨が降ってる!」

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