3.

「なーに? そのあたまぁ」

 ホームに降り立った碧の第一声。笑ってしまったのはおかしかったからじゃない。びっくりしたからだ。ホームに滑り込む列車のガラス越しに見た晴都の、初めて見る新しい髪型が、あんまりにも似合っていたから。

「事務所の方針。…あんまりじろじろ見るなよ。みっともないから」

「似合ってる、似合ってるぅ!!」

 久しぶりの再会で、碧はすっかり舞い上がっているようだ。声がいつも以上に甲高い。晴都が唇に人差し指をあててみせると、さっと我に帰り、それでも目を細めたまま、白く息を弾ませて言った。

「『覚醒計画』デビューおめでとう、晴都」

 碧はバッグからさっき名古屋駅近くで買ったばかりのCDを出した。

「ジャケットの写真はまだ髪長いのよね」

 髪の話題が続くのが嫌で、晴都はCDを碧の手から取った。

「自分で買わなくたって、みぃにはタダでプレゼントするのに」

「だって、夢だったのよ。覚醒計画のCDをレコード屋さんの棚で探し出して、レジに持っていって、ちゃんとお金払って買うの」

 碧は、また晴都の手からCDを取り返し、大事そうに抱き締めて微笑む。

「夢が叶ってよかったな。歌詞カードにサインぐらいさせろよ」

 晴都は碧の髪をくしゃっと撫でると、彼女の大きな荷物を片手に歩き出した。

「これから六本木放送でもう一仕事あるんだ、着いてくるだろ?」

「うん!」

 空いている右手を晴都が差し出す。碧は加速する鼓動を感じながら、早足で着いていく。

 ホームから見える夜空には星がほとんど無いが、七色に輝くネオンが胸に染み通ってくる。晴都の少し冷たい掌。碧は目のくらみそうな幸せを感じていた。

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