2.
PM6:00.六本木放送の第五スタジオ。鞠矢貴希は今夜のラジオのゲストとして挨拶にきた青年を目の前にア然としていた。今日デビューするバンド『覚醒計画』のリーダーとボーカルの二人で、この局の番組を今日一日ジャックしているのだが、そのうちの一人が問題だ。
「あ…天城晴都(あまぎはると)って…あんただったんだ」
「俺は、今日この時を楽しみにしていましたよ。鞠矢“先輩”」
相変わらずの余裕の笑顔である。貴希の心臓が脈打つ。三月前、初めて彼に会った時から、この笑顔はどうにも苦手だ。おまけにこの男には貴希は弱みがある。事情が事情とはいえ自分は、この男の彼女に手をつけて(キスだけだが)しまったのだ。まぁこいつがその現場に居合わせたわけではないので、彼女が何も言ってなければ知らないだろう。彼女もあのときは泥酔状態だったし、多分記憶にもないだろうが。
しかし、こいつの目は怖い。世の中の何もかもすべてを知っているぞ、とでもいうような、物凄く楽しそうな目をしている。
「髪切ったんですね。前はさかもとりょーまみたいな頭だったのに」
貴希の言葉に、一瞬晴都の目が不愉快そうに見開かれる。おや、と感じて何か言い足そうとすると、横から小柄な少年が言葉を挟む。
「晴都さんはね、この髪型が気に入らないんですよ。昨日まであのままでデビューするって言ってきかなかったんだ」
「パーマなんて男がかけるもんじゃない」
憮然として呟くその言葉が晴都らしいといえばあまりにもらしくて、貴希は噴きだしてしまった。晴都もまた弱ったなといった笑顔に戻り、横にいた少年の肩を叩いた。
「こいつ、鞠矢貴希の崇拝者なんだ。可愛がってくれな」
ボーカルの星野ヒロタカです、自己紹介しペコリと頭を下げる彼には無邪気で人懐こいムードがある。年は貴希より一つ下の19歳。
「初々しいなあ。新人ってのはこうじゃなきゃね」
「いや、目上にはどう接するべきかを心得てるだけじゃないか?」
「どーいう知り合いなんですか! あなたたちは」
口許は笑ってるのに目だけが凍っている。なんとも奇妙な二人にヒロタカが呆れて言う。
「そんなことより、晴都さん、時間でしょ? 待ち合わせの」
「あ、そか。じゃ三時間空きなもんで、外出してきまーす。後でよろしく」
二人の会話に、貴希はふと背筋の悪寒を感じた。
「ちょいちょい、まっさかその待ち合わせの相手って」
「そ、風合碧、みぃだよ」
立ち上がる晴都。座高が低いので気づかなかったが、やはり背が高い。貴希は心臓の底
「碧さんも、鞠矢さんの大ファンなんだよ。喜ぶだろーな、ハハ」
間違いない、こいつら、あのチビ猫をここへ連れてくるつもりだ…。
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