第2話 剣戟1
お題
三人の男に囲まれる剣戟シーンを書け。
ただし、囲まれる男は丸腰で土産物を持っている
時間は午前一時ごろ
草木も眠る丑三つ時。
一人の青年が小田原提灯をぶら下げて暗い夜の道を歩いていた。
男は大工で、今日は無事竣工式が終わり、みんなで飲んで騒いだ後だった。
お土産に少々ばかりのするめを頂いてのんびりと帰るところだった。
「うぅ……やっぱお泊りした方が良かったか? 」
最近は物騒になり、辻斬りが出るとも噂されている。
足早に帰ろうとしたその時だった。
これから向かう先に一人の男が突っ立っていた。
(うん? )
怪しい気配を感じる男。
道を変えようとくるりと回れ右してから右の路地に入ろうとすると、そちらにも人影があった。
(まさか……)
慌てて左の路地に方向転換しようとするとそちらにも人影が。
(……囲まれた! )
両側の路地から出てきた男たちは自分が今来た道を遮り、そしてこれから向かう先にはもう一人の男が居る。
(……まずい……)
焦る男に取り囲もうとする男たち。
すると最初の人影の男が声を上げた。
「お……おおおお……おかかかねねねぇぇ……だだだ出せぇぇぇぇ……」
(……………………うん? )
思いのほか弱弱しい声に我に返る男。
よく見ると前に居る男は刀を持っている。
持ってはいるのだが……
(胸押さえてねぇか? )
苦しそうに胸を押さえており、息も絶え絶えといった様子だ。
盗賊と言うよりは明日食う米をむしり取られている側だろう。
「早く出さねぇかぁ! 」
右側から大きな叫び声が聞こえる。
(こっちが本命か! )
慌てて右側に警戒する!
右側の男は大柄でいかにも賊といった風体だった。
堂々たる体躯に太い手足。
男よりも二回りも大きく、片腕だけで倒されそうなほど強い!
しかも先ほどの男よりも立派な刀を持っており、誰がどう見ても強い!
ただ、一つだけ問題があるとすれば……
(……なんで酒屋の看板に向かって叫んでるんだ? )
軒下にある酒屋の看板に向かった怒鳴りまくる男。
男の足は明らかに千鳥足で目の焦点も合ってない。
(完全に酔ってんな……)
二人は問題ないとすれば最後の一人が問題だろう。
男がそっちの方を見てみた。
(ぷるぷるぷるぷる……)
体をくの字に曲げているおじいさんで刀を杖みたいについており、歩くのもやっとの状態だった。
「……かね出せ……」
弱弱しくか細い声が聞こえた。
完全に地面に向かって言っているのですごく聞き取りづらい。
(えーと……)
どう対応しようか逆に迷う大工の男。
すると最初の男が刀を振り上げた!
「かかかかねぇぇぇぇ!!! 」
いきり立って刀を振り上げる男!
だが、すぐにその姿勢のまま止まってしまう。
「うぐ!……ごぉ!……」
苦しそうに刀を放り捨てて胸を押さえる男!
「ぐっ!……」
バタッ!
最後に一声上げるとそのまま倒れて動かなくなる。
(えええぇ……)
呆然とする男。
すると、大男の方がいきり立つ!
「貴様ぁ! よくもやりやがったな! 」
「いや、僕は何もしてない……」
「問答無用! 」
そう言って大男は刀を抜いて攻撃を仕掛けた!
スパァン!
大男の腕が良かったのか、刀が良かったのか、すっぱりと斜めに斬れた!
大男は快哉を叫ぶ!
「見たか! 素直に金を出さんからだ! 」
げはげは笑う大男の後ろで呆然と見ている大工の男。
(俺はこっちなんだけど……)
大男が斬ったのは全く関係ない柳の木だった。
斜めに斬れた柳はそのまま大男の上へと覆いかぶさってくる!
「おのれ! 往生際の悪い! 」
そう言って柳の木と格闘を始める大男。
それを可哀そうな人を見る目で見ている大工の男。
すると、くの字に曲がった老人が急に声を上げた。
「わしは何しにここに来たんじゃ? 」
「強盗しに来たんじゃないですか? 」
言わなくてもいいのについつい言ってしまう大工の男。
すると老人がかっと目を見開いて言った!
「そうじゃった! さあ、早く金をだせぇ! 」
そう言って老人は刀を抜いた!
……体がくの字に曲がったまま。
「きぇぇぇぇぇぇぇ!!! 」
ぶぶぶぶぶっ!
くの字の姿勢のまま刀を振り回してまっすぐに進む老人。
何故か進むたびに屁が出ている。
(……ひょっとして屁の推進力で走ってるのか? )
老人のわりに斬新な技術を用いて走るのはいいのだが、くの字姿勢で前が見えておらず、まっすぐに柳と格闘している大男の所へ向かう。
「きぇぇぇぇぇぇぇ!!! 」
「おのれぇ! まだ立ち向かうかぁ! 」
刀をやたらめったら振り回す老人と柳と格闘する大男。
一見、戦っているように見えるのだが双方とも全然別の所に向かって刀を振り下ろしているので戦いにもなっていない。
その様子を少しだけ呆然と見て大工の男は決断した。
(帰ろ。お土産のおするめでもう一杯やろう)
そう決断して帰り道を急いだ。
「きぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! 」
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 」
後に残された男たちがどうなったのかは誰も知らなかった。
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