演劇少女は夢を綴る

空木

プロローグ

もう何度この言葉を見たのだろうか。

某メールが告げた「不合格」の文字にすべてが嫌になって連絡ツールを放り投げソファーに脱力する。出てくるのはひたすらにため息だけだ。この文字は何度みても気落ちする。


「才能ないのは知ってるんだけどさ。」


ぽつりとこぼした言葉は事実であり現実である。仕方がない。志しなかばに散る人間の多い世界だとわかっていて夢を見てこの世界に足を踏み入れたのだ。

どこのプロダクションにも所属すらしていない私がそうそうオーディションに合格するわけでもないし、情報が少ない。わかってはいるが虚しいものがある。

とにかくは切り替えねばと、真っ白なオーディション用紙を再び広げ「来栖 亜里沙(クルスアリサ)」と記入した。


この夢の欠片を手にしたのはまだまだ子供だった自分が笑っていたときだ。それこそアニメも漫画も好きでもっぱら同級生と「ごっこ」遊びに夢中になっていた。所詮ままごとの延長戦のようなものだと思うが、そんな時、大好きな先生が自分の夢を追いかけ教師をやめた。純粋に驚いたのだがオペラ歌手になりたいとその道を歩みだし、翌年にはドレスを纏い小さいながらも公民館のヒトの目のある場所で歌っていた。あぁ、凄いなと子供ながらに思ったものだ。

諦めなければ自分のなりたいものになれるのだと、そう思った。そのうち、楽器を片手にパフォーマンスをするようになり、いつからか、楽器ではなく自分の体を媒体に「演じる」ということに憧れを持つようになったのだ。その憧れに流されるようにコスプレを始め友人関係の幅も広がり、カメラを手にするようになったのだが、やはり映すものがヒト個人ではなく「風景の中に生きるキャラクター」だったのは自分の中で役者に成りたいという思いが捨てられて無かったからだろう。

高校を卒業してすぐプロダクションには入ったもののまさかのその直後、恋人に「男と絡むならやめろ」と言われ素直に頷いた自分が酷く愚かだと思う。

いや、実際に本当に馬鹿げているし、その当時、その恋人を取らなければよかったと何度も思ったものだった。夢を応援してくれない恋人が自分を幸せにしてくれるはずがないとすぐに気が付けなかった私はきっと盲目だったのだ。よくいうことわざである。

けれどそれはすべてが過去の話。バイトに明け暮れ、数年がたち、同級たちが再び人生の折り目とも言える就活を迎えているなか、始めるならば今しかないと、その門を再び叩く。


そうして、私は「今」を生きる女優になろうと息を吸うのだ。

嘘を付かず、その場所で生き、見てくれる全ての観客を魅了する。そんな女優に。



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演劇少女は夢を綴る 空木 @Utsuki_M

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