一心同体、2人は1つ!
「あ、おはようリリィさん」
「おはよう、シャルルさん」
少し遅れてやって来たシャルルちゃんと挨拶を交わす。うん、この濃い面子の中でシャルルちゃんは唯一の癒やしだね。転生者かつゲームのヒロインにしては個性が薄い気もするけれど、ある意味主人公って一番没個性的な存在なのかもしれない。
そんなシャルルちゃんは、私に挨拶をした後でここにいる面子(王子・騎士団長の息子etc)の豪華さに萎縮している様子だった。そして、またしてもジェリコちゃんを見て顔を青くしている。
「シャルルさん、大丈夫? また顔が青いみたいだけれど⋯⋯」
「へ、平気やけん、気にせんといて。それよりも、うち、ネゲブ校長からリリィさんに伝言受け取っとるんよ」
「伝言?」
普通に方言が出ちゃってる時点で動揺しているのは間違いないんだけれど、本人が特に何も言わないなら追究しないでおこう。それよりも伝言だ。校長からとなると、どうしても転生者関係のことが連想される。
「⋯⋯もしかして、転生者関係のこと?」
「あ、違う違う。私たち用の特別な先生を呼んだから、炎の塔2階の講堂に来て欲しいって」
え、それって私たちのこの『変異型』の魔銃の使い方を教えてくれるって人のことだよね? うーん、私の予想してる人だと教師に向かないと思うんだけれど、ホントに大丈夫なのだろうか。
不安は残るけれど、折角教えてくれるというのならば行かない理由はない。シャルルちゃんと一緒に指定された場所へ向かうことを他の皆に告げると、ジェリコちゃんは悔しそうな顔で「早速特別扱いというわけですのね。負けませんわよ!」と勝手に燃え上がっていた。いや、ネゲブ校長の特別指導とかそういうのじゃないから。
魔銃士学校は国で唯一の魔銃士を育成するための学校ということもあって、無駄に広い。具体的にどれくらい広いかというと、敷地内の馬車移動が許可されているくらいだ。
ただ、今回指定された炎の塔はさっき集まった広場からそこまで離れておらず、徒歩でも行ける距離だったので歩いて行くことにした。その間、先程少し気になったことをシャルルちゃんに尋ねてみる。
「ねえ、昨日からなんでジェリコちゃん見て顔青くしてるの? もしかして、ゲームと何か関係あったりする?」
「うん、実はね⋯⋯。あの子、ゲーム中盤のイベントでヒロインが対峙しなきゃならない中ボスキャラなんよ」
「え」
シャルルちゃん曰く、『ハートを撃ち抜いて』の中盤のメインイベントに、『コルト王子暗殺事件』があるらしい。ゲーム内でコルト王子に差し向けられる刺客は全て学校内の同級生。その刺客の中でも最後に立ちはだかり、散々プレイヤーを苦しめる中ボスキャラこそ、シャルル・ウェルロッドなのだそうだ。
「でも、シャルルちゃんがコルト王子の暗殺を企むような子には思えないけれど」
「⋯⋯実は、コルト王子暗殺事件の裏側には、めちゃくちゃヤバい黒幕がおるんよ」
「⋯⋯その話、後で詳しく聞かせてね」
思った以上に長い話になりそうだったので、この件は一旦保留することにした。既に炎の塔には到着している。待たせてしまっては悪いだろう。
まあ終わった後でじっくり説明して貰うけれどね! なんだよ「王子暗殺事件」って。暗殺するなら私にしてくれ。
さあ、ようやく指定された場所についた。私の予想が正しければ、ここに居るのは⋯⋯。
「うっす」
「⋯⋯やっぱり、貴方が教師ですのね。リロード」
そして、そこに居たのは案の定、我がエンフィールド家の庭師兼馬車の御者、リロードだった。室内だというのに相変わらず帽子を深々と被り、顔はよく見えない。
そもそも、私はリロードが「うっす」以外の言葉を話したことを聞いたことがない。もしかしたら、今日はそれ以外の言葉を聞けるのだろうか。期待と共にリロードを見つめると、彼はちょうど帽子を脱いでいるところだった。
帽子を脱いだリロードを見て、隣のシャルルがぽかーんと大きく口を開けている。恐らく、私も同じような顔をしているんだろう。
帽子の中から出てきたのは、絶世の美女だった。虹色の長い髪をしゃらんと肩に垂らし、その髪と同じ色の瞳はキラキラと宝石のように輝いている。その顔は、私がこれまで見たどんな人物よりも整っていて、完成された芸術品のようであった。
⋯⋯彼女が口を開く、その時までは。
「キャハハハハハーー!! ドロリー様、降・臨☆ お久しぶりのシャバの空気は美味いぜぇーーー!!」
ギザギザ状の歯を剥き出しにして豪快に笑う彼女は、呆ける私たち2人を置き去りにして、フルスロットルで喋りまくる。
「俺様の旦那様の愛は嬉しいけれど、やっぱり表に出たときの開放感は最っ高だよなぁー! つーかこの服あっつい!!」
そう言って纏っている服を強引に引き破ると、そこからは暴力的に大きな2つのメロンがどーんと飛び出す。私たちの目も思わず飛び出る。サラシを巻いてなおこの破壊力⋯⋯だと?
「ん? お前ら、なぁにそこで間抜け面してんのさ。折角このドロリー様が出てやったんだから、もっと敬い崇め奉れよなぁ!? あ、お嬢様って旦那様の雇い主だったっけ!? ヤベ、敬語使うべき? 敬い崇め奉れください!!」
⋯⋯どこからつっこんでいくべきだろうか。とりあえず、最初に確認しておかないとならないことがある。
「⋯⋯えっと、貴女は誰? リロードなの?」
「え、もしかしてお嬢様はお馬鹿でいらっしゃるんですかぁ? さっきから何度も言ってるじゃねえか! 俺様は『ドロリー』!! 『リロード』は俺様と一心同体、2人で1つの最愛の旦那様だ!!」
「えーっと⋯⋯つまり、二重人格みたいな感じ?」
「まー似たようなもんだな! 旦那様の魂が入っていた身体に俺様の魂が無理矢理異世界からお邪魔した結果、2人は決して離れることのない永遠の絆で結ばれましたとさ~! うわ、自分で言うと照れるな~これ!! キャーッ!!」
「え、身体がリロードってことは、リロードは元々女の子⋯⋯?」
「んな細けぇことどうでもいーだろが。旦那様は確かに女だし、ちょー美人だけれどさ、中身は誰よりもかっこよくて優しい『男』なんだ。まあ、ちょっとシャイなところがあるせいでこうして誰かと話すときは俺様が出てくる必要があるわけなんだけれど! それもまたキュート! ん~、ラブリーだぜ!!」
いや、「うっす」しか喋らないっていうのはシャイの一言で片付けていい問題なのか?
さっきから圧倒されまくりですっかり忘れていたけれど、ドロリーが魔銃の使い方について教えてくれるってことで合ってるのかな。⋯⋯なんだかリロードとは別の意味で不安だ。
「あの、そろそろ魔銃の使い方について教えて貰いたいのですけれど⋯⋯」
「んあ? あー、そういえばそんなこと髭もじゃが言ってたな。正直めんどいけれど、普段旦那様がお世話になってるしな。ちゃちゃっと教えてあげるぜ」
ドロリーは私たちに魔銃を出すように指示を出し、それに従って私たちはそれぞれ魔銃を顕現させた。
「ひゅう!! 鎌にステッキとか、なかなかイカす魔銃じゃんか。まー、俺様たちの魔銃には負けるけどな!!」
ドロリーが出したのは、小ぶりなナイフだった。リロードが同じナイフを使っているところを見た記憶がある。一心同体だと魔銃も共有されるんだろうか。
「『変異型』っていっても、魔銃は魔銃なんだ。仕組みは変わらねぇ。ただ、『変異型』の魔銃には引き金がない。その代わり、特定の動きがトリガーとなって弾丸が撃ち出される仕組みになってんのさ。⋯⋯ほれ!」
ドロリーがナイフを振ると、その先端から小さな弾丸が撃ち出されるのが見えた。その弾丸は先程ドロリーが自分で破った服の残骸へと当たり、たちまち元の服が復元される。
「俺様の魔弾は、『創造』の魔術の力を持ってるんだ。素材さえあれば、一瞬でどんなモノでもできあがり! ただ完成形の具体的なイメージが必要だから、俺様はそんな得意じゃねーんだよな~。ま、この服とかなら旦那様が着ている奴だから覚えてるけれどさ!」
「私たちも、これを振れば弾丸が撃ち出されるんですかね?」
「いや、トリガーは人によって違うみてーだからなぁ。たとえば、ネゲブの髭もじゃとかは杖で地面を突くことがトリガーになっているみたいだしな。とりあえず色々やって探してみろ! ついでに俺様の『創造』みたいな自分の『適正魔法』が何かってのも把握しとけ!」
私とシャルルちゃんは、言われたとおり色々な動きを試してみることにした。
まずは鎌を振ってみる⋯⋯不発。次に、柄の部分で地面を突く⋯⋯不発。今度は、思い切って刃の部分を地面に突き刺してみる。⋯⋯お?
なんだかぐいっと刃が動く感覚があったので、鎌の刃の部分を地面に刺したまま、柄を引っ張ってみた。
すると、鎌の先端部からドン! とかなり大きな弾丸が撃ち出された。いや、弾丸ってかこれもう砲弾レベルだ。砲弾を撃ちだした反動で身体が吹き飛びそうになるけれど、刃を地面に刺していたおかげでなんとか踏ん張ることができた。
そして、発射された砲弾はブラックホールのごとく周りの空気を吸い込みながら直進していき、呆然と見送る中、講堂の壁にぽっかりと大きな穴を空けてから消失した。
「うおおお!? お嬢様すげー!! なんか分かんないけれどめっちゃ威力高いじゃん!!」
「あ、あわわわわ」
ドロリーさんは興奮状態、シャルルちゃんは隣で腰を抜かしてしまっている。⋯⋯後でスカート履き替えた方がいいかもね。
ところで私の魔銃、扱いにかなり困りそうなんですけれど。撃ち出すのに時間かかる上に、威力が高すぎるし。これ、どんな魔力込められたらこんなことになるんだ?
死にたがり令嬢は処刑をお望みです @akahashinobu
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