転生者って意外に多いみたいです

「さて⋯⋯お主ら二人が何故儂に呼ばれたか。心当たりはあるかの?」


 私の髪が黒くなったり魔銃を出したと思ったら鎌だったりなどの珍事件があったあの後、私ともう一人の少女はネゲブ校長に教会に残るように言われてしまった。他の皆は今日は授業はないから多分寮に行ったか食堂にでも行ったか⋯⋯。ああ、私もそっちに加わりたかった。


 ところで、私の隣に居るこの女の子⋯⋯髪の毛がピンク色ってことは、たぶんあの双子幼女が言っていたヒロインちゃんなんだと思う。


 つまり、私と同じ転生者。出来ればじっくりお話したいところだけれど⋯⋯ネゲブ校長に呼び止められている今はそれが叶わない。


 さて、心当たりはあるかと問われたわけだけれど、真っ先に思い浮かぶのは私たちが転生者だという共通点だ。あとは何だろう。ネゲブ校長の好みとか? まあ、それはたぶん違う。私とヒロインちゃんとでは体型とか雰囲気とかかなり違うし。


 ここは素直に首を横に振っておく。隣でヒロインちゃんも首がもげそうなくらいブンブンと勢いよく首を振っていた。


「まあ、いきなりこんなことを言われてもピンとはこないじゃろうな。それでは、先程儂が教えた通りに魔銃を出してみてくれ。そうすれば、儂が言いたいことが分かるはずじゃ」


 あー、成程ね。私の魔銃が鎌だったみたく、ヒロインちゃんもたぶん特殊な形の魔銃なんだ。


「「装填レディ!!」」


 胸に手を当て、2人揃って魔銃顕現のワードを発すると、私の手には先程と同じく身長よりも大きな鎌が現れた。


「どっひゃあ!? な、なんなんその鎌!! え、リリィってゲームでこんな変な魔銃持っとったっけ⋯⋯?」


 隣で目を丸くするヒロインちゃんの手には、先端にハートの飾りがついた何ともラブリーな感じのステッキが握られていた。いや、あなたも人のこと言えなくない? 完全に世界観違うじゃん。


 そして、このヒロインちゃん⋯⋯何故か、私の名前を知っている。まだ自己紹介とかもしていないはずなのに。そして、『ゲーム』という言葉。うーん、凄く気になる。彼女、なんだか私の知らないことを知っていそうだ。


「ねえ、ピンクちゃん。少し聞きたいことがあるのですが⋯⋯」


「おっと、リリィ君。同級生とお話するのは構わぬが、それは後にしておいてくれ。とりあえず今は、儂の話を聞いてくれぬか?」


 ヒロインちゃんに早速尋ねてみようとしたところ、ネゲブ校長に邪魔されてしまった。ちぇっ。


「見て分かる通り、お主達の魔銃は他の生徒達と比べて特殊な形をしておる。『変異型』と呼ばれるこのタイプの魔銃の持ち主は⋯⋯『転生者』の証拠じゃ。この儂のようにの」


 衝撃的なカミングアウトをさらっとやってのけたネゲブ校長に、私もヒロインちゃんも思わず息を呑み、校長を見つめる。そんな私たちにネゲブ校長は悪戯っぽく笑みを浮かべると、ノーモーションで取り出した杖でトンっと地面をついた。


「ふふ、どうやらかなり驚いておるようじゃの。安心せい。お主らが転生者だということを知っておるのはこの学園内では儂1人だけじゃ」


「⋯⋯私たちに、何をさせるつもりなのですか?」


 未だ事態についていけずにプチパニック状態になっているヒロインちゃんに対して、私はまだ多少冷静さを保っていられた。それはたぶん、さっきあの双子幼女みたいなトンデモ存在に会っていたせいだと思う。


 私は、ネゲブ校長の真意を探るべく、じっとその瞳を見つめる。私たちが転生者と知った上でこうして呼び止めた以上、彼には何かしらの目的があるはずと思ったのだ。


「そう警戒するでない。儂はただ、お主らの助けになりたいだけじゃ。この地に転生して100年あまり⋯⋯最早前世のことなどほとんど覚えてはおらぬ。じゃが、そんな儂だからこそ転生者の特殊性とその苦労についてはよく知っておるつもりじゃ」


 顎髭を撫でながら笑うネゲブ校長の言葉に、嘘があるようには思えなかった。それに、嘘をついて得をするとも思いにくい。とりあえず、その触ったら気持ちよさそうなお髭に免じて信じてみることにしよう。


「分かりました。じゃあ早速アドバイスください。このヘンテコ魔銃ってどう使えばいいんです? あと私の髪と目の色ってなんで変わっちゃったんですか? 教えて、ネゲブおじーちゃん!!」


「い、いきなりグイグイくるのう⋯⋯。あとなんかお主、さっきとキャラ変わっておらぬか?」


「転生者ってバレてるならキャラ作る必要もありませんし。こっちの方が素なんで気にしないでください」


「もうさっきから色々ありすぎて頭の中がスパゲッティ状態や⋯⋯。リリィ、ゲームとキャラ変わり過ぎやろ⋯⋯」


 うーん、ヒロインちゃんの独り言に関しても問いただしたいことは多々あるんだけれど、とりあえず今はネゲブ校長優先だよね! そして、スパゲッティ状態ってどういう状態なんだ。こんがらがってるってことなのか? 例え独特過ぎるわ。


「まず、魔銃の使い方に関してじゃが⋯⋯これについては、儂よりも教師に相応しい人物がいるから、彼女に聞いてみるのがいいじゃろう。リリィ君もよく知っている人物のはずじゃ」


「え、私も知っている人って誰ですか? このヘンテコ魔銃の使い方を教えてくれるってことは、転生者ってことですよね?」


「うむ。まあ、彼女は自分のことを話すことはあまりしない人じゃからのう⋯⋯。エンフィールド家の使用人の1人といえば、心当たりがあるのではないか?」


「えっ」


 いや、全く心当たりないんですけれど。サイレは⋯⋯たぶん違うと思う。魔族と人間のハーフの彼女は、そもそも魔銃がなくてもある程度魔術が使えるみたいだし。そうなると⋯⋯あ、1人だけ心当たりいるわ。


「まあ、思い当たる人が1人います。⋯⋯でも、あの人教師とかできますか?」


「儂が知る転生者の中でも最も魔銃の扱いに長けた人物じゃ。心配はないじゃろう」


 いや、そういう点で心配しているんじゃないんだけれどなぁ。まあいいや。とりあえず後でサイレに頼んで連絡入れておこう。


「そして、次は確かその髪と目のことについてじゃったかのう?」


「そうですよ。え、まさかもう忘れたんですか? やっぱり100年も生きてたら頭がぼけて⋯⋯」


「お主、ちょっと辛辣すぎではないか?」


 いやいや、これくらい軽いジョークですって。サイレやトカレフ君なら全身ビクンビクンさせて喜んでくれるんだけれどなぁ。お爺ちゃん反応悪いよ?


「お、オッホン。話を戻すぞ? その髪と瞳は、転生者とは実は関係ない。その現象は、『魔力染め』と呼ばれるものでな? 体内に持つ魔力が多い者が魔銃を手に入れた時、稀に起こる現象なのじゃ」


「え、じゃあ元に戻すのは⋯⋯」


「1度魔力で染められた髪や瞳の色が戻ることはない。残念ながらのう」


 Noooooooo!!! マジか!? 私一生この黒髪黒目のままなの? え、ヤバい凄く死にたい今すぐ死にたい。そうだ、浄土に逝こう。


「ちなみに、自分の魔銃で自分を傷つけることは不可能じゃ」


 鎌の刃部分を衝動的に腹に突き立てた私を見て、ネゲブ校長が冷静に指摘する。うん、知ってた。そしてヒロインちゃん、危険人物を見るような目で私を見るの止めてくれない? そんな目で見られたら後でお話する時にちょっと仕返ししたくなっちゃうじゃん。


「な、なんか凄い背中がぞわっとしたんやけれど⋯⋯」


 気のせいじゃないかなあ?


「他に聞きたいことは何かないかのう? シャルル君は、何かないかのう?」


「え、うちですか!? そ、そうやなぁ⋯⋯あの、校長先生にというか、お二人に聞きたいことがあるんやけれど⋯⋯。『ハートを撃ち抜いて』ってタイトルに聞き覚えはありません?」


「儂は、聞き覚えはないのう。リリィ君はどうじゃ?」


「私も聞いたことはないですねぇ」


「そ、そうですか⋯⋯」


「「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」」


 ヒロインちゃんが黙ったことで、気まずい沈黙が三人の間を走る。⋯⋯いやいや、ちょっと待って。


「そこで黙るのはなしでしょ。その『ハートを撃ち抜いて』ってのが何なのか、教えてよピンクちゃん」


「おお、教える!! 教えるから首に鎌の刃押しつけるの止めてぇぇぇぇ!!?」


 さあ、ヒロインちゃん。あなたがあの双子幼女からなんで『ヒロイン』とか呼ばれていたのか、ぜーんぶ教えて貰うからね。こっちは髪のことで気が立ってるんだからさ。


 ところでこの鎌、なかなか使い勝手がいいね。気に入りました。




 




 

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