魔銃士学校に入学しました

 はいどーも。リリィ・エンフィールド、12歳です。正確にはまだ誕生日を迎えていないので11歳なんだけれど、細かいことは気にしない。


 重要なのは、私が今日から魔銃士学校に通うことになったということだ。


「ねえサイレ、この制服、少しサイズが小さくないかしら?」


 先日注文して届いたばかりの制服を、サイレに着せて貰う。このくらい本当は自分1人で着られるんだけれど、サイレは私をお世話するのが好きだから、今日も今日とて私はじっと動かずサイレの着せ替え人形だ。


「そうですか? 先日サイズを測ったばかりなので問題ないとは思っていたのですが⋯⋯」


「うーん、何だか胸の辺りがちょっと苦しい気がするわ」


「⋯⋯⋯⋯」


 サイレの目線が私の胸に刺さる。そこには、我ながらなかなかに見事に育ったと誇れる2つの立派なお山がぷるんと自己主張していた。


 いやー、あれから見事にダイエットには成功して無事スリムボディを手に入れたわけだけれど、なんか胸の脂肪はそのまま残ったんだよね。おかげで12歳とは思えないおっぱいを手に入れた。なお、現在進行形で成長中だ。


 ちなみに、サイレは相変わらず凹凸の少ないスレンダーボディである。私に胸のサイズを抜かれた時はガチ凹みしてたなぁ。あの時のサイレの絶望した表情は正直かなり可愛かった。だから時々こうしてわざと胸が成長したことをアピールしたりする。


 とはいえ、あんまり苛めすぎるのも可愛そうだからここら辺で止めておこう。煽りすぎると暗殺者の目になって私の胸を揉んでくるからね。


「冗談よ。問題ないサイズだわ。⋯⋯だからそんなに胸を凝視するのは止めてくれない?」


「⋯⋯お嬢様は最近ますます可愛げがなくなりましたよね」


「それは褒め言葉と受け取っておくわ」


 いつの間にか背丈もサイレに追いついている。こうして会話する時にサイレと視線が合うのに慣れたのはつい最近だ。


「ねえ、サイレ。これからもよろしくね」


「勿論です」


 魔銃士学校についてくるのは、サイレ1人だ。学校は王都に位置しているため、毎日家から通うにはちょっぴり遠い。学校には寮が設置されているのでそれを利用する予定である。⋯⋯お父様は最後まで反対していたけれどね。いい加減過保護も卒業して欲しい。


 着替えも終わったところで、サイレと一緒に廊下を歩く。今日でこの我が家ともしばらくお別れかと思うと、少し変な感じだ。


 玄関ホールに着くと、そこには屋敷の使用人、そしてお父様とお母様、弟のベクターまで勢揃いで私たちを待っていた。


「リリィ姉様!!」


「ベクター!!」


 私の姿を見るなり目に涙を浮かべて走り寄ってきた可愛い弟を、私はしっかりと両手を広げて受け止める。


 ベクターもすっかり大きくなった。赤ちゃんの頃から顔が整っているのは分かっていたけれど、成長してますますその魅力が増した。中性的な容姿は女の子かと見間違う程だ。実際以前私の小さい頃の服を着せた時は似合いすぎて悶絶した。


「行かないでリリィ姉様ぁ⋯⋯!! ボク、姉様が居ないと寂しくて死んじゃいそうだよぉ」


「私もベクターと離れるなんて今にも死にたい気分ですわ」


 私の胸に顔を埋めて泣くベクターの頭を優しく撫でながら、心の中でそっと謝る。


―ごめんなさいベクター。私、死にたいのはこの世に産まれた時からなのよ。ただ、今はまだ死ぬ訳にはいかないの。


 しかし困った。ベクターが私から離れる様子がない。抱きついたまま胸に頬ずりまでしてくる始末だ。この子、赤ちゃんの頃の名残か柔らかいモノが凄く好きなんだよね。


「ベクター、リリィが困っているでしょう? こっちに来なさい」


「⋯⋯分かりました、お母様」


 お母様に注意されて素直に言うことを聞くベクター、マジ天使。ちょっぴり拗ねた表情もまた可愛いわ~。帰ったらまたいっぱい抱きしめてあげるからね!!


「リリィ!! もう行ってしまうのかい? もう少しゆっくりしててもいいんじゃないか?」


 お父様はこの期に及んでまだ私が魔銃士学校に行ってしまうのが寂しいらしい。今にも泣きそうな情けない顔をしていて、折角のイケメンが台無しだ。


 ⋯⋯まあ、私も寂しくないかと言ったら嘘になるけれど。


 お父様にお母様、そしてベクター。さらにはセバスチャンやペペロニといった使用人達。彼らとしばらく会えなくなることはちょっぴり寂しい。だって、『リリィ』になってからずっと一緒に過ごしてきた大事な家族だから。


「それでは皆、行って参ります!!」


 だから、笑顔で手を振る。普段ならはしたないって注意されるかもしれないけれど、今日ばかりは誰もそんなことは言わなかった。


「「行ってらっしゃい!!」」


 皆の見送りの言葉を背に、私とサイレは馬車に乗り込む。


「それじゃあリロード、学校までよろしくね」


「うっす」


 庭師のリロードは今日は馬車の御者だ。この人割と何でも出来るんだよな。相変わらず「うっす」としか喋らないけれど。


 リロードが手元でナイフを弄ると、膝に置いてあった木の枝がたちまち鞭に変化する。その鞭を操り、リロードは馬車を走らせた。


 いや、「走らせた」は正確には正しくない。この世界で馬車に使われる馬には羽根が生えている。ふわりと身体が宙に浮く感覚と共に、視点も変化する。見送りに来ていた皆があっという間に小さくなった。


「うわぁ⋯⋯!!」


 以前にもこの馬車には乗ったことがあったが、やっぱりとても興奮する。こんな高いところから落ちたら即死だろうなぁ⋯⋯!! まあ、二度目の飛び降り自殺は勘弁したいところだ。


 サイレと2人で外の景色を見ながら楽しくお喋りしていたら、いつの間にかかなり時間が経っていたらしい。


「うっす」


 ずっと無言だったリロードが急に口を開いた。何事かと思って前を向くと、そこには目的地である魔銃士学校が見えた。どんな感じなのかは投影魔術で既に見せられていたけれど、実物を生で見るのとはやっぱり違う。学校とか言っておきながらまるでお城のようだ。


 周りを見ると、同じような馬車がいくつも見える。その中でも少し煌びやかで豪華な馬車は、王子の乗っているものだろう。デザインに見覚えがある。


 たくさんの馬車が一斉に舞い降りる光景は、なかなかに壮観だった。やがて、私たちが乗った馬車も学校の敷地内に無事着陸する。


 その時だった。全ての馬車が敷地内に降りたタイミングを見計らったかのように、トン! と杖で地面を叩くような音が辺り一面に響いた。


 咄嗟に、私は馬車から身を乗り出す。音が聞こえてきた方角は正直分からなかったけれど、何となく上を向かなければならない気がした。その予感は正しかったらしく、空からゆっくりと豊かな白い髭を生やした老人が降りてくるのが見えた。


「やあ、新入生諸君。よくぞこの学び舎の門を⋯⋯いや、門は越えておらぬな。まあ、細かいことはええじゃろ。よくぞ来てくれた!! この魔銃士学校の校長、ネゲブ・ロングレンジが君たちを歓迎しよう!!」


 ふわり、と地面に降り立ったネゲブ校長が、杖で地面を叩く。すると、その瞬間地面に赤い絨毯がしかれた。絨毯で出来た道は、真っ直ぐに教会のような建物の入り口まで続いている。


 え、何これ。あれ魔銃じゃなくて杖だよね? 思いっきり魔法使った感じだけれど、魔銃以外で魔法って使えないんじゃなかったっけ?


 ネゲブ校長による鮮烈な歓迎を受けたせいで若干思考が混乱気味だけれど、こんな道を用意されたってことはあの教会っぽい建物に入れってことだろう。現に、私以外の入学生とおぼしき子供たちはおそるおそるといった様子ながらもネゲブ校長の後をついて行っている。


 私も、彼らに遅れまいと馬車から降り、絨毯の上を進むことにした。その時、再びネゲブ校長の声が聞こえた。


「今からお主達が向かう場所は、『魂の教会』。この教会の入り口を通り抜けたその瞬間、お主達はその魂の輝きに見合った自分だけの魔銃を手にすることが出来る!! これが我が校の入学式であり、洗礼でもあるのじゃ」


 流石魔銃士学校、入学早々魔銃を手に入れることが出来るとは驚いた。この学校のことについては事前に色々調べてたけれど、どうやって魔銃を手に入れるかとかは本には書かれてなかった。たぶん、入学すれば誰でも分かるようなことだからあえて書いてなかったんだろう。


 私より前に居る子の中には、既に教会の中に入っている子もいる。うーん、あの入り口どうなってるんだろう。なんか光の幕みたいなモノで覆われていて中の様子がよく見えない。魔銃を手に入れて喜ぶ声とかも聞こえないから、結界魔法でも張られているのかな?


 私と同じように今日ここに来ているはずの王子やトカレフ君の姿も探したかったけれど、何故か視線が前面に固定されたような感じで動かせないから断念した。はいはい、大人しく進んで魔銃をゲットすればいいんですね?




 そしてとうとう、私が教会の入り口で洗礼を受ける時が来た。先が全く見えない場所に入るのは少し躊躇いがあるが、勇気を出して一歩踏み出す。







「―むむむ、何だか妙な奴がやって来たのです」


「歪です、歪過ぎてなんで普通に生活できているか謎なのです」


 身体が光の幕に覆われたと認識した直後、私の目の前に現れたのは、淡々とした口調で話す双子らしき幼女2人だった。1人は全体的に黒っぽい感じで、もう1人は全体的に白っぽい。何か髪の色とか衣装とかその辺が。


 そして何故か私はその見知らぬ白黒の幼女にディスられているっぽい。何だこの状況。魔銃はどうしたのさ。


「えっと⋯⋯貴女達はだれ? 魔銃はどうなったの?」


「私の名前は『よい』。破壊を司る闇の神。ヨーちゃんと呼んでくれなのです」


「私の名前は『あかつき』。再生を司る光の神。アーちゃんと呼んでほしいのです」


「「2人合わせて『ヨア』。わっつよあねーむ? うぃーあー『ヨア』!! この教会に入る者の魂を見極め、魔銃を授ける双子の神なのです!!」」



 あ、はい。そうですか。⋯⋯で、早く魔銃授けてくれませんか?




 

 








 


 

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