転生先がファンタジー過ぎて死にたい
今私はセバスチャンの膝の上に座っている。あ、セバスチャンっていうのはうちの執事の名前ね。執事でセバスチャンとかテンプレ過ぎやろとか思うけれど実際そんな名前なのだ。
事情を知らない人から見たら金髪美少女(目は死んでいる)がちょび髭おじさんの膝の上に座っているって何だかアレな光景だけれど、やっていることは至って健全。私は今、セバスチャンに本を読んで貰っているのです。文字が読めないから仕方ないよね。
それで、なんで急に本なんか読もうと思ったのかっていうと、私があまりにもこの世界に対する知識が無さ過ぎると思ったから。
最終目標は無事処刑されるか何らかの形で死ぬことだけれど、だからといって知らないことを知らないままで放置するのは気持ち悪い。どうせならすっきりした気分で死にたいと思うのは全人類共通の願いだと私は思う。
本当は、誰にもバレないようにこっそり調べたかったんだけれど、あの診察を受けた日以来、私の周りには常に監視の目が付くようになってしまった。
まあ、娘の目が突然死んで、その上お医者様にもその原因が分からないと匙を投げられたんだから両親が過保護になる気持ちも分からないではない。
ただ、流石に娘の寝ている時ですら監視させるのはやり過ぎだと思う。夜中こっそり部屋から抜け出そうとしたら屋根裏から黒装束纏った監視役の人が飛び降りて来た時には、思わずおしっこ漏らしちゃったからね。
そういうわけで、再び粗相をしないためにも、素直に両親に本を読みたいと訴えたところ、普通に許可されました。よくよく考えれば普段から1人娘には甘い両親、ちょっとおかしなワガママくらい聞いてくれるはずでした。無駄に黒歴史を作る必要なかったな。死にたい。
死にたくなったところで話を戻そう。私がセバスチャンに最初に読んでくれとねだったのは、お父様とお医者様の話の中で散々出てきた、『
4歳の女の子が興味を示すには分厚い上に難解な内容の本に、セバスチャンも不思議そうな顔をしていたけれど、上目遣いでじっと見つめたら慌てて読んでくれた。これが美少女パワーか。それとも死んだ魚みたいな目で見つめられるのがキツかったのか。⋯⋯たぶん後者だな。
ページ数がかなり多いだけに、セバスチャンに概要を教えて貰うだけでもそこそこ時間がかかった。とはいえ、私のおやつ時間とセバスチャンの足の感覚を犠牲にして、私は魔銃に対するざっくりとした知識を得ることが出来たのだった。
魔銃っていうのは、簡単に言えば魔法を使うための杖のようなモノだ。お医者様が私を診察した時に言ってた『魔力回路』? とかいうところから魔力を引き出して、魔法として出力するための装置が魔銃ってわけ。
魔銃を使った魔法の行使の仕方は大きく分けて2種類あって、1つがお医者様が私にやってたやり方。魔法の力が込められた銃弾を魔銃に装填して撃ち出すことで魔法を使う方法だ。
この方法の優れた点は、魔力の込められた銃弾と魔銃さえあれば、誰でも気軽に魔法が使えるってところだね。ただ、誰でもって言っても魔銃を使えるのは『魔銃士学校』に入学した生徒だけだから、正確には誰でもってわけじゃないけれど。
さらに言うと魔銃士学校に入学出来るのは、『体内の魔力回路に一定以上の魔力を保有している者』って条件もあるから、その時点で平民はほぼアウト。平民で魔力をたくさん持っている人ってかなりレアらしい。
そして、貴族は魔力の保有量が多いので、12歳の誕生日を迎える年にはほぼ全員がこの魔銃士学校に入学するらしい。だから、貴族なら基本的に魔銃は持っている。
しかし、ここでまたしても例外が発生する。この1つ目の方法には欠点があって、それは魔力を込めた銃弾ってのが凄く高いってことだ。それ故に、貧乏貴族だと銃弾を買えないってことがそこそこある。
魔力を込める為には行使したい魔法に合わせた属性を持った宝石じゃないと駄目らしく、例えば火魔法を使うにはその媒体にルビー、水魔法ならサファイアが必要⋯⋯って、そりゃあ高いわけだよ。
それならば、貧乏貴族は魔銃を使えないのかと言うとそんなことはなく、それが魔銃で魔法を使う2つ目の方法の話に繋がるってわけだ。
さて、その方法について説明するためには、『適正魔法』とやらについても説明する必要がある。『魔』の付く用語多すぎて頭こんがらがってきたけれど、4歳の柔らか脳味噌と前世の微かな記憶を駆使して何とか理解しましたとも、ええ。
適正魔法っていうのは、その人にとって最も親和性の高い魔法のことだ。そして、この適正魔法に関してのみ、銃弾がなくとも自分の魔力を消費することで魔銃からその魔法を放つことが出来る。
ちなみに、この時魔銃から放たれる魔法も銃弾の形をしているみたいだけれど、魔力を込めた銃弾と区別するために、こっちは『
あと、適正魔法を知れるのも魔銃を手に入れるのと同じタイミング、魔銃士学校への入学時だ。分かりやすいね。
まとめると、自分の魔力を使わずとも、魔力を込めた銃弾と魔銃さえあればどんな魔法でも使えるのが1つ目の方法で、適正魔法しか使えないけれど自分の魔力さえあればじゃんじゃん使えるのが2つ目の方法ってことだね。
魔銃が使われる以前は、体内の魔力から魔法を使うのはかなり難解な呪文と魔方陣が必要だったみたいで、引き金を引くだけで簡単に魔法が使える魔銃の発明は、それまでの生活を大きく変化させたらしい。
そんな世紀の大発明を成し遂げた人物こそ、後に大陸を治め巨大な1つの国を建国した初代国王『チャールトン・ピースメイカー』。そして、チャールトン王が愛用した魔銃、『スコーピオン』にちなみ、『魔銃大国スコーピオン』が誕生した。
⋯⋯とまあ、そんな感じでこの本は締められていた。
「り、リリィお嬢様、そろそろよろしいでしょうか? そろそろ足が⋯⋯」
おっと、どうやらセバスチャンの足もちょうど限界を迎えたらしい。私がぴょんっとセバスチャンの膝の上から飛び降りると、セバスチャンはほっと息をついた。
「ありがとう、セバスチャン。大変勉強になりましたわ」
「いえいえ、このセバスチャン、お嬢様のためならいつでも膝をお貸ししましょうぞ。ところでお嬢様、本当にこのような難しい本、理解出来たのでございますか?」
「まあ、ところどころ分からないところはあったけれど、だいたいは理解出来たと思うわ」
「その歳で魔銃の仕組みを理解なさるとは⋯⋯お嬢様は間違いなく天才でございますな!!」
「とりあえず私、この世界で生きていける自信がないわね。死にたい理由がまた1つ増えて、とてもためになったわ」
「ん?」
だって考えてみてほしい。魔法もなんもない世界に産まれた私が、いきなり『魔』の付く単語ばかり溢れるファンタジーな世界に来てしまったのだ。
もうね、何の拷問かと。ファンタジーな世界は小説の中だけで十分なのだ。どうせ魔法があるんだから変なモンスターがうじゃうじゃいたりするんでしょ? そんな世界でどう安心安全な生活を送れるというのだろうか。これはもうすぐにでも死ぬしかない。
「そんなわけでセバスチャン、私を殺してくださいます?」
「ちょっと何言ってるか分からないですね」
セバスチャンに頼んでみたけれど、きっぱり断られてしまった。うーん、やっぱり身内の使用人には期待出来そうにないな。
侯爵令嬢の私を簡単に処刑できるような身分の高い人、ウェルカム!! 早く私をこのファンタジーな世界からあの世に送ってください!!
そんな私の心からの願いが叶ったのは、これから約2年後のことであった。
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