両親がいい人過ぎて死にたい

「リリィ!! 目覚めたって本当かい!?」


 何とかして処刑されようという人生設計を建てたところで部屋に飛び込んできたのは、ちょび髭が素敵なナイスガイだ。しかもかなり良い声。声優さんにもなれそうなレベル。


 そしてこのナイスガイ、記憶によれば私の父だ。名前はスコープ・エンフィールド。エンフィールド家の現当主である。


「はい、お父様。先程目が覚めましたわ。ご心配をおかけして、申し訳ございません」


「ど、どうしたんだいリリィ。そんな急に大人みたいな言葉遣いをするなんて⋯⋯」


 ありゃま。お嬢様っぽい喋り方をしようとしたら逆に違和感を抱かれてしまった。ううむ、流石に娘の中身が自殺願望のある異世界人に変わったとなれば激怒して殺されてしまうかもしれない。


 いや、それ問題ないしむしろ歓迎じゃん。この口調で通そう。


「どうしましたかお父様。リリィは至っていつも通りですよ?」


「いや、リリィはそんな風に話したことは⋯⋯。それに、何だか目も死んだ魚みたいになっているし。は!? やっぱりまだどこか悪いのかい!?」


 死んだ魚みたいな目で悪かったな。たぶんこれは一生治らないから受け入れるか早く殺してくれ。一度自殺した人間の目なんて死んだ魚みたいになるもんなんだよ。


 それから、お父様は部屋を飛び出し、医者っぽい人を連れてきて再び戻って来た。そして今度はその隣にお母様もいる。お母様の名前はモナ・エンフィールド。少し吊り目がちな瞳は見る人によっては悪女みたいな印象を与えるかもしれないけれど、やはりこちらもかなりの美人だ。


「まあ! 本当にリリィが死んだ魚みたいな目をしているわ!? あんなに明るかったリリィが、何てこと⋯⋯!!」


 そして、お母様もお父様に負けず劣らず私のことが大好きな良い人のようで、変な魂が入った結果目を腐らせた私を見て卒倒してしまった。⋯⋯おい、そんなに酷いのか私の目。流石にショックだぞ。もう今すぐにでも死にたい。


 お母様が倒れたことで患者が2名に増えてしまったが、医者っぽい人は動揺することなく淡々と私の診察を進めていく。流石プロだ。それに比べて隣で慌てまくってるお父様、貴方この家の当主ですよね?


「ぱっと見た感じ外傷は見当たりませんね。頭に少したんこぶが出来ているくらいでしょうか。しかし、この目は確かに異常です。内部の魔力回路に障害が出ている可能性があります。スコープ様、『魔銃マガン』の使用許可をお願いします」


「あ、ああ、分かった。それでリリィが治るなら何でもしてくれっ⋯⋯!!」


 私の目、お医者様から見てもかなりヤバいのか。やはりもう死んでいいのでは?


 ところで、『魔力回路』とか『魔銃』とか聞き覚えのない単語が出てきたな。ここはファンタジー的な世界なのかな?


 そんな私の心の疑問に応えるかのように、お医者様は白衣のポケットから銃のような物体を取り出した。そしてそれを私の心臓に突きつけて、カチリと引き金を引いた。


 お医者様が私の心の声を聞いて殺してくれたのかと思ったが、期待した痛みが胸に広がることは無く、その代わりに橙色の妙な文字が刻印された銃弾が胸に突き刺さり、生暖かい感覚が全身に広がる。


「⋯⋯『鑑定』の魔力を込めた弾丸を撃ってみましたが、やはり詳しい症状は分かりません。多少精神が摩耗しているようですが、それ以外は至って健康体です。これ以上の診察をするとなると、王宮専属の鑑定魔銃士と治癒魔銃士の力が必要になるかと思われます」


「王宮専属となると、王族以外は予約しなければ治療も受けられず、その予約も数年は待たねばならないではないか⋯⋯!! そんなに待てるはずがない!! ペペロニ、本当にお前では無理なのか!?」


「⋯⋯スコープ様にこのようなことを申し上げるのは心苦しいですが、私の力ではこれが限界です。私の専門は『鑑定』より『治癒』の方ですので、原因が分からないことにはどうにも⋯⋯。しかしながら、身体は至って健康体であることは確かです。王宮専属の鑑定魔銃士に診てもらうまでは、しばらくこのままでも大丈夫かとは思います。もちろん、カウンセリングなどはするつもりですが」


「当然だ!! クソッ!! 私にもう少し地位と権力があれば、リリィをすぐに診てもらえるというのに⋯⋯!!」


 あのー。何やら大人の男2人で盛り上がっているところ悪いんですけれど、当人の私が全然話についていけていないのですが。記憶を辿ってもリリィちゃん魔銃とかその辺りの知識は全然無いし。まあ4歳だからあんまり知識が無いのも当然なのかな?


 まあ、話についていけなくても分かることは多少ある。一応前世でファンタジー小説とかは読んだことあったしね。


 ⋯⋯ところで、私の前世の名前ってなんだろうか。前世でファンタジー小説を読んでいたこととか、あっちの一般常識とかは覚えているのに、そこら辺の記憶がほとんど無い。家族の名前とか住んでいた場所とかも全く覚えていないのは一体どういうことなんだろうか。


 そして、私の記憶に最も焼き付いている、私が自殺した瞬間の出来事。この記憶のせいでリリィちゃんの目が死んだ魚のようになっちゃったんだとは思うけれど、何故私が自殺したのか、その理由も全く思い出せない。


 まあ、思い出す必要性は特に感じないから、別に問題ないかなとは思う。どうせ早いこと死ぬつもりだし、変なことで頭悩ませるのは馬鹿らしい。


 私は、自分が死ぬことだけを考えて楽しく気楽に生きていたいのです!! どやぁ⋯⋯!! あ、なんかちょっと恥ずかしい。死のう。

 


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