死にたがり令嬢は処刑をお望みです

@akahashinobu

プロローグ

―夢を見ていた。


 夢の中で私は、靴も履かずにどこかの建物の屋上に立っていた。⋯⋯いや、靴はフェンスの向こう側に置いてある。それならば夢の中の私は、靴を脱いでフェンスを乗り越えたのか。


 その時初めて私は、夢の中の自分が何をしようとしているのかを悟った。しかし、気付いたところで止めることも出来ず、私はまるで階段を飛び降りるような気軽さで、屋上から宙に身を投げた。


 身体全体に感じる空気抵抗、そして浮遊感。幼い頃ジェットコースターに乗った感覚を思い出す。ただ、感じるスリルはジェットコースターの比ではない。


「はは⋯⋯ははははは!!」


 いつしか、私は笑っていた。何故笑っているかは分からない。そもそも、何故夢の中の私は自殺することを選んだのか、それすら分からない。


 ただ、1つだけ分かることがある。これは、夢でも何でもなく、実際に私が体験したことだということだ。


 何故そう言い切れるのかというと、1つは、この光景に見覚えがあり、また風の抵抗や地面に激突した時の痛みもはっきりと覚えていること。そしてもう1つは⋯⋯。


「⋯⋯おい、私はなんで生きているんだ」


 目覚めたばかりの私がむくっとベッドから体を起こすと、視界の片隅に過度な装飾が施された鏡が見えた。そこに映るのは、記憶の中にある私の顔とはかけ離れた、均整の取れた顔立ちの美少女。年齢は、3~4歳ほどだろうか。


 そんな美少女が、死んだ魚のような目でぼそっと妙な独り言をこぼす様子は、我ながらかなり奇妙だとは思う。しかし、ここはちょっと私に不満を言わせてはくれないか。


「なんで⋯⋯折角死ねたと思ったのに美少女に転生なんてしちゃったんだよぉ!!」


 はい、ラノベとかでお馴染みの転生パターンですね。だって何となく記憶が混じった感じもあるし、色々と生前の私じゃあり得ない光景が見えるし。もうね、はっきり言ってゴミかと。


「なんで私なんかを選んじゃったかなぁ」


 前世で何か良いことをしたとかなら分かるけれど、神様もなんで自殺した私なんかを転生させちゃったかなぁ⋯⋯。そもそも神様なんかがいるかどうかも分からないけれど。嗚呼、早く死にたい。飛び降りはかなり痛かったので今度は別の方法で。服毒自殺なんていいんじゃなかろうか。


 転生したと悟ったばかりで早速次の自殺の方法を考えていたところ、背後でガシャーン! と食器のようなモノを落とした音が聞こえた。思わず振り返ると、そこにはいかにもといった感じのメイドさんが、私を見て震えていた。


「お、お嬢様が⋯⋯リリィお嬢様がお目覚めになられましたぁぁーー!!!」


 そう叫び、メイドさんは部屋から飛び出して行ってしまった。うーん、これは何やら厄介なことになる予感。とりあえず、現状を把握するためにも一旦今の”私”の記憶を整理してみようか。


 さて、今世の私⋯⋯どうやら、かなりのお嬢様のようです。まあ、それは今着ている寝間着とか部屋に置いてある家具とかからも何となく分かることだけれどね。


 年齢は予想した通り4歳。名前は、リリィ・エンフィールド。この国では割と由緒あるエンフィールド侯爵家の1人娘だ。


 私の記憶が混じる前のリリィちゃんは、貴族のお嬢様にも関わらずかなりのお転婆だったようで、数日前に木登りして遊んでいたところ、手を滑らせて地面に頭から激突。意識を失い、生死の境を彷徨っていたところ、私の魂がこの子の体に入り、何とか一命を取り留めたようである。


⋯⋯いや、貴族のお嬢様にそんなことさせるなよと。おかげで私が転生することになっちゃったじゃねえか。いや、途中から魂だけが入ったわけだし転生とは少し違うのか? まあ細かいことはいいや。


 問題なのは、この環境じゃ自殺するのがかなり難しそうってことだよね。記憶を辿る限りこの身体は両親からかなり愛されてたっぽいし、木登りとかを許してたのも甘やかされてたせいだと思う。ただ、今回の件で確実に過保護になるだろうし、危ないことは絶対止められるよな。使用人もかなり多い感じだし、目を盗んでっていうのも難しそう。


 そうなると⋯⋯私が死ぬためには、誰かに処刑されるのが一番手っ取り早いのでは無いだろうか。生前読んだラノベでは、よく悪い貴族が処刑されたりしていた。うん、やっぱり処刑が一番良い方法な気がする。


 というわけで、リリィ・フィールド4歳。将来処刑されることを目標に生きることを決めました。頑張るぞ。えい、えい、おー。


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