第2話 ある汽車での出来事

 また、汽車の旅が始まったな。


 窓の向こうに見える雑木林を見て、ジーン・ストレイトスはそう思った。


 もはや聞き慣れた音が狭い車内でよく響く。木製で作られた座椅子が並ぶ社内の片隅で、ジーン・ストレイトスは旅の始まりを受け止めていた。顔を上げれば見慣れつつある座席の並び。


「失礼。よろしいですか?」


 声をかけられたのはその時であった。顔を上げると、若い男性の姿が写った。

 顔を覗き込み、こちらの様子を伺っている。


「ああ、どうぞどうぞ。席は誰にでも座る権利がありますから」


 スーツが似合う背丈の高い相手に、ジーンは笑顔を持って出迎えた。

 すると、その男性が会釈とともにジーンの前に腰を下ろした。


「これからどこに?」


 気がいいのだろう。男性が質問をしてきた。

 気分がよかったジーンは笑みを浮かべ。


「職場ですよ。とても慣れ親しんだ仕事でね。休暇が終わって、これから戻るところなんです」


 そう――自身の内情を語った。

 それくらい、久々の休暇でリフレッシュできたのである。


「そうですか。では、また大変ですね。その荷物を見る限り、向こうに何日もいるのでしょう?」


 足元にあるトランクのことだろう。荷物を指摘されてジーンは目を丸くした。


「ええ。でもやりがいのある仕事ですよ」


 そう答え、苦笑を浮かべる。すると向かい側の男性がニコニコと笑みを見せ。


「そうですか。なら実に残念だ。そんなあなたを、眠らせないといけないとは」


 それは耳を疑う言葉であった。


 その言葉に戸惑う間もなく、男性の顔がぐいっと近づいた。


 いいや、それだけではない。ジーンは唇に大きな感触を覚えた。布で唇を覆っているような、そんな感触だ。もちろんその通りで、ジーンの顔の半分は男性の手で塞がれている。しかも最悪なことに、だんだんと意識が遠のいていくではないか。


「殺しはしない。だが、眠ってもらう」


 それが、ジーン・ストレイトスが聞いた――最後の言葉だった。

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