第3話 僕の顔が、明らかに女性の顔立ちだった。

 天幕の中にはテーブルと椅子。そして草臥くたびれた寝床と思われる布。


「そこに座れ。」


 黙って座る。

 じっと見られる。


 ここまで連れて来てもらったのは有難いと思うけど、状況が全然分からない。

 何かを考えようと思うけど、さっきまでの血だらけの景色ばかり思い出して気持ち悪くなる。


 じっと見られたまま、時間ばかり過ぎる。

 何なんだ、この人は。


「あの、」


 何も言わないでじっと僕を見る。


「僕は、男ですから!」


 そんな事を言い出すのを予想していなかったのか、


「ブワッハッハッハッハ!!!!」


 大声で笑い出す無精髭のおっさん。


「な…何がおかしいんですか!」


「ハッハッハッハ!!お前、鏡を見た事あんのか?」


 そう言って手鏡を俺に投げて渡してくる。


「それぐらい!ありますよ!」


 とても小馬鹿にされていると思うと腹が立つから鏡を見る。

 中性的な雰囲気ではあるけど、明らかに女性の顔立ちだった。


 顎のライン辺りに切りそろえられた、おかっぱみたいな黒い髪。

 細めの眉。吊り上がり気味の大きな茶色い目。

 少しだけ高い鼻。血の気を失った少し薄い唇。


 僕じゃない。


「まぁ……穴として使ってやってもいいけどよ。」


 何言ってんだコイツ。最低だ。最悪だ。


「今日からお前の所属は此処ここだ。新人訓練っつー温いモンはねぇ。目の前の敵を殺せ。それだけだ。」


「あの、此処ここって―――」


「拾ってやったからには恩を返せ。」


「恩って……何ですか……」


 さっき穴って言ったし。嫌な予感しかしない。

 天幕の入り口がバサっと開いて、さっきの若い男が入ってくる。


「何だオメー、まだヤってねぇのか。それとも即出しか?」


 ゲラゲラと笑って最低な発言を連発する。

 僕の顎をグイっと掴んで見上げさせられる。


「気の強そうな女だな、おい。徹底的にブチ込んで、そのツラ歪む所を見てぇなぁ。たまんねぇなぁ。」


 最悪の発言。はぁ…僕が今まで生きて来た中で最悪の連中だ…。

 死んだはずだけど。


「補充はどうだ?」


「ダメだ。補充はねぇ。何処も徹底的にヤラれてんだからしょうがねぇ。」


「部隊長は居たか?」


「居る訳ねぇよ。またシケ込んでやがる。そのうちアイツ逃げんじゃねぇか?」


「ちょっと行ってくる。女に手ェ出すなよ。」


「……出すかよ。」


 そんなやり取りをして、無精髭のおっさんが出ていく。

 僕はこの男と二人っきりになってしまった。

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