叶 良辰さんからのお題
アレが触手になったんだけど、そのせいで色々しんどい その1
俺は今幸せを実感している。最高にハイってやつだ。まず、今日が俺の17歳の誕生日と言う事。ハッピーバースディ俺。
でもそれだけじゃない。17歳になった記念に勇気を出して片思いだった女子に告白して、見事にOKを貰ったのだっ! 恋人いない歴17年よさらば!
そんな訳で、今の俺は見るもの全てがバラ色に見える。世界は精神状態次第で天国にも地獄にも見えるって言うのは本当だったんだなぁ。
初彼女の京香ちゃんと話すのは本当に楽しいし、幸せな気分だし、明日も話すし、休みの日には初デートだってしちゃうようひょー。
もうね、その後も色々と妄想が捗っちゃって大変だよ本当。
そんなハッピーフルゲージ状態を維持しつつ、心の中でスキップしながら俺は帰宅する。軽快なリズムを口ずさみながら自室に戻り、俺の帰りを待っていたペットのイソギンチャク、ギンタに話しかけた。
「ただいま、ギンタ。今日の京香ちゃんもサイコーに可愛かったよ! 特にあの笑顔、もうね、溶けちゃうね。それにあの声、どんな萌声優の声よりもサイコー。それからさ、えぇと……」
俺はイソギンチャク相手に彼女のいいところを100個は羅列してのろけ続けた。その内きっとこの部屋にも来る事になるんだろうな。水槽の中のギンタを見て京香ちゃんは何て言うかなぁ。
今日ちょっと話題にした時は興味を持った感じだったけど、理解してくれるかなぁ。一緒に盛り上がってくれるといいんだけど。
それで、イソギンチャクの話で盛り上がった後は……そのままうへへ。この時、俺のニヤケ顔をギンタは何食わぬ顔で眺めていた。
し、思春期の男子の妄想はこれくらい当然だから! ま、イソギンチャクが軽蔑の眼差しで見るって事はないからいいけど。
ゆらゆら動かしている触手を見ていると、またいけない妄想を……いかんいかん。
俺はずっと話を聞いてもらったお礼に、専用フードを水槽に投入する。ふふ、京香ちゃんも可愛いけど、ギンタも可愛いなあ。
その夜、俺は夢を見た。大抵の夢は今まで見た事がある夢のどれかに似ているものなのだけど、その夢は初めて見るタイプのもの。
どんな夢かと言うと――自分の指が触手になってしまうと言うものだ。夢らしい荒唐無稽な設定の癖に、どこか変にリアルな感じもする。
しかも夢の中の俺はその指の触手を使いこなして、敵の触手人間達と壮絶なバトルを繰り広げていた。何だこりゃ。
夢の映像はそこで途切れ、気が付くと朝になっていた。
目覚めた俺はすぐに右手の違和感に気付く。確認すると指の長さがおかしい。さっき見た夢みたいに指がグイーっと長く、しかも触手みたいな感じになっていたのだ。その長さ、目測で50センチくらい。それに、タコの足のように自由自在にグネグネ動くぞ。……じゃない、どうしてこうなった……。
しかも、指が触手になった副作用なのか、髪の毛がごっそりと抜けて落ちていた。こっちもヤバイ。
一体何でこうなってしまったんだ、誰か説明してくれー!
混乱しつつも、まずは現状確認。えぇと、まず、触手になっているのは右手だけ。左手は変わってない。よしよし。後は髪の毛か、ものすごい抜けてる。
季節の変わり目の犬の毛くらい抜けてる。多分、おかしくなったのはこのくらいだろう。なるほど、うんうん。
「ちょっといつまで寝てるの! 朝御飯出来てるよ!」
やばい! 混乱している内に母親が起こしに来た! このままじゃ部屋のドアを開けられてしまう!
「起きてるよ! すぐに行くから!」
「早く来るのよ! 遅刻しないように!」
母親来襲のピンチは大声で返事を返した事で回避された。まぁ毎朝の光景だからここまでは問題ない。とは言え、いつまでも自室に籠城と言う訳にも行かない。
早くこの触手を何とかしないと。
と言う訳で、俺は自分の右手をじっと見つめた。この触手指、どうも長さが一定ではないらしい。今は起きた時よりも大分短くなっている。どうすれば長さが変わるのか、その原因さえ分かれば指の長さを元に戻せるかも知れない。
まずは力を込めてみる。これは効果がなかった。次に念を強く込めてみる。これも効果がなかった。
後は何も思いつかなかったものの、ふと目にした雑誌の表紙の推しアイドルの写真を見た時に突然指が伸び始める。そこで指の伸びる条件に気がついた。それは、興奮。
どうやら、いやらしい事を考えると伸びるらしい。何だこれ、変に生々しいぞ。
こうして条件も分かったので、必死に心を落ち着かせて平常心に務めると、予想通り指を縮める事に成功する。完全に長さが戻ったのを確認して、俺は急いで支度をして朝食をとり、そして家を出た。
母親からは部屋を出るのが遅いだとか焦ってご飯を食べるなだとか散々言われたけど、まぁ、いつもの事なので普通にスルーする。
無事に登校出来たところで、新たな問題が発生した。そう、今の季節が夏だと言う事だ。夏と言う事は夏服、夏服と言う事は薄着。ヤバイ。
ウチの高校が男子校なら何の問題もないのだけれど、残念な事に共学だ。つまり、教室には女子がいる。薄着の女子を見て興奮しない男子はいない。
いつもなら有難う夏服なのに、今の俺はヤバイ。透けブラなんて見てしまったら一気に指と髪の毛が大変な事になってしまう。どうやって興奮せずに過ごせばいいんだ。ああ、天国が一気に地獄になってしまった……。
神様、俺、何か悪い事をしましたか……?
興奮しないようにするために俺が取ったたったひとつの冴えたやり方、それは休み時間を全て寝て過ごすと言うものだ。悟り系じゃあるまいし、薄着女子を見たら自動的に興奮する以上、視覚情報をシャットダウンするしかない。何とかこれでやる過ごせる……はず。
この方法で一日をやり過ごそうとしたところで、ひとつ大きな懸念が発生した。それは、昨日晴れて彼女になった京香ちゃんの事だ。休み時間に全ての接触を断つと言う事は、当然彼女とも話せないと言う事。
うう……これは試練すぎる。変に誤解される可能性だってある。
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