無口な探偵さんの猫探し 後編
「じゃあ私は行くね。おじさんはここでいいから」
彼女はそう言うと、この怪しげなビルに単独で突入する。探偵もすぐに後を追おうとはしたものの、情報の通りならビルの中には通常の武器が通用しない魔物の巣窟。
探偵が今までに身につけた技術が役に立たない可能性もあり、迂闊に行動に移せないでいた。
その頃、妖怪ブローカーの所持するビルに潜入したみちるは、物陰に隠れながら少しずつ探す猫又が捕獲されているエリアを目指していた。
このアポなしの侵入者に対し、ビルの中にいた従業員達もすぐに反応し、彼女を排除しようと動き出す。
まるでアクション映画のように次々とサングラスでスーツ姿の同じ格好をした手練の男達がやってくる。そんなお約束な相手にみちるは身につけた仙術を駆使してちぎっては投げ、ちぎっては投げの大乱闘。
大の男達が束になってさえ、その快進撃を止める事は敵わなかった。
そうして彼女はビル内を隈なく調べ尽くし、ついに最上階にまで辿り着く。入り口に控えていた用心棒2人を軽く片付けた彼女は、ドアを思いっきり蹴ってその先へと転がり込んだ。
そこで目に入ってきたのは数多くの捕獲された妖怪達とその前に立ちふさがる妖怪ハンターの男。そう、ブローカー自身が凄腕のハンターだったのだ。
みちるは男の背後に並ぶ檻の中から自分の探している猫又を探す。すると、すぐに彼女にとって見覚えのあるシルエットが目に飛び込んでくる。
猫又もまた彼女の姿を目にして涙目になっていた。探していた相手が見つかり、みちるは握りこぶしに力を込める。
「やっと……見つけた」
猫又を救うためには目の前のハンターを倒さなければならない。とは言え、今まで倒したただの男達とはやはり格が違うようだ。
彼は対妖怪用の武器をすでに複数装備している。腰には御札ホルダーと妖怪用の弾を込めた銃、右手には退魔効果が込められた長い棒。
この完全武装した状態で、怒りに打ち震えるみちるを挑発する。
「ふふ、意外と遅かったじゃあないか」
「弟を返して!」
「これは高く売れるんだよ」
その言葉を聞いたみちるは激高してその本性を表した。彼女もまた猫又だったのだ。妖怪状態になったみちるは人間体の数倍の身軽さでハンターに迫る。それはまさしく目にも止まらないスピードだった。
「バカめ!」
近付いたら発動する罠が仕掛けてあったのか、みちるが襲いかかろうとした瞬間に大爆発が起こる。この想定外の出来事にうまく対処が出来ず、みちるは傷を負いながら距離を取った。額から流れる血を手の甲で拭ってそれをぺろりと舐める。
妖怪状態になったみちるは、獣耳と尻尾を出して四つん這い状態で相手を威嚇する。
「お前も捕まえて売りさばいてやろう。勿論弟とは別の金持ちのペットとしてなあ!」
ハンターはそう言うと、すぐに妖怪用の銃弾が装填された銃でみちるを撃ち抜く。経験豊富なベテランハンターなだけあって、早打ちの技術も相当なもの。わずか数秒で彼女の両手両足は正確に撃ち抜かれ、自慢の機動力は封じられてしまった。
怒りの形相でにらみつけはするものの、復讐者にそれを成し遂げる力は残されていない。
「俺もそれなりに修羅場をくぐってるんだ。甘かったな」
勝利を確信したハンターはゆっくりとみちるに近付く。最後に完全に自由を束縛する妖怪用の首輪をつければ、彼女もハンターのコレクションになる。
その首輪をつけようとしゃがみかけたその瞬間だった。この時、どこからか飛んできた銃弾がハンターの額を貫通し、そのままバタリと倒れてしまう。
悪徳妖怪ハンターは、そのたった一発の銃弾で絶命していた。
その後、みちるは妖怪ならではの回復力で四肢に撃ち込まれた銃弾をはじき出して自由を取り戻し、ハンターに捕らえられていた妖怪達を開放する。彼女の弟もこうして無事に姉と再会する事が出来た。
妖怪達は元いた闇の世界に戻り、みちる達姉弟もまたその世界の住人として彼らと共に姿を消したのだった。
数日後、探偵の事務所に元気になったみちるが現れた。今度は背後からではなく、ちゃんとドアをノックして普通に登場する。
「あの時は助けてくれて有難う。運気を上げる約束だったよね」
彼女はそう言うと、小さな青い宝石を探偵に手渡した。それをどうしていいか分からず、取り合えす彼は宝石を上着のポケットに無造作に入れる。
「その石はね、お守り。運気もそうだけど、きっと危険からも守ってくれるから」
報酬を渡したみちるはペコリと頭を下げ、事務所を去っていった。その後の彼女の消息を知る者は誰もいない。
きっと妖怪の世界で家族や仲間と仲良く暮らしているのだろう。
この妖怪からのプレセントが探偵にどんな影響を及ぼしたのかは分からない。ただ、その後も彼は失敗知らずの男として今も伝説を作り続けている。
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