思い出の女神を探して ~新幹線で西へ~ 中編
ネルの鋭い視線に思わず返事はカミカミになる。早速感覚を研ぎ澄ますふりをしながら大阪グルメを堪能。やっぱり大阪と言えば粉もんと言う事で、たこ焼きやらお好み焼きやら……。
それまでも散々食べていたのもあって、すぐにお腹は一杯になってしまった。
「うんまうんま」
「遊びはもういいだろ! ちゃんと探せよ」
「えっ……。はい」
まだ行きたいところはたくさんあったのに、どうにもそれを許してくれそうにない雰囲気だ。せめて大阪城には行きたかったのに。
その視線に耐えきれず、俺はまぶたを閉じて意識を集中する。女神の気配は段々と濃くなってはいたものの、まだ距離は遠そうだった。
「うん、この近くじゃないな……」
「じゃあさっさと移動!」
「分かってるよ……」
その後も新幹線を使って岡山、広島と女神を探す旅は続く。どの地域も美味しいグルメがあったものの、怒ったネルが爪を出していつでも攻撃可能状態だったためにろくな観光は出来なかった。
ああ、なんて窮屈な旅なんだ。俺、こっち方面に来る事滅多にないのに……。
そうして結局本州を離れ、博多駅にまで来てしまった。うーん、この調子で行くと沖縄まで行ってしまうのだろうか。沖縄に行くには……海路かな? それとも――。
取り敢えずお土産として名物の『博多通りもん』を買っていると、白黒ハチワレが俺の服の袖を引っ張った。
「真面目に探してんのか?」
「えっ、信用してない?」
「当然だろ! 散々食べて飲んで観光して!」
「ネルも楽しんでた癖に」
あんまり理不尽に怒られるので、つい俺もツッコミを入れてしまう。それはネルの機嫌を損ねるのに十分すぎるものだった。
「俺は! 自分で探せないから! お前に頼るしかないんだぞ!」
「あ、うん」
「こうしている間にも……、我が女神は! 女神はぁっ!」
「わ、分かったよ。もっと真剣にやってみるから」
怒りながら最後に泣くと言う器用な芸を見せられてしまって、流石の俺も困惑してしまう。仕方がないので今度は真剣に女神の気配をトレースしてみた。
まぶたを閉じて集中して、微かに感じる気配の方角を見極めて――。
「あ、あれ? 気配が……、薄くなってた」
「どう言う事だ?」
「多分これ、通りすぎてる」
「なん……だと?」
どうやら観光に夢中になってしまったせいで、気配のピーク的なやつを感じ取っていたのにスルーしてしまっていたようだ。
この事実に、ネルは顎が外れんばかりにポカーンと大きく口を開いている。猫なのに器用なヤツめ。
「とにかく一旦戻ろう。一番気配の強かったところに戻って、今度こそちゃんと感じ取るから!」
「頼むぞ!」
と言う訳で、俺達は上りの新幹線に乗ってその場所へと向かう。買った博多通りもんはその車内で食べてしまった。流石世界一売れているおまんじゅう。むっちゃ美味い。新幹線は博多駅から広島駅へと進み、やがて岡山駅に辿り着く。
「ここだ、岡山!」
「よし、降りるぞ」
新幹線を降りた俺達はもう一度気配を探る。女神の気配を辿ると、その方角は瀬戸内海方面へと向かっていた。
「……もしかしたら四国かも知れない。いや、多分四国だ。間違いない」
「本当だな? 今度は四国観光だーとか言わないよな?」
「今度こそちゃんと信用してくれよぉ……」
一度信頼を裏切ってしまったために、ネルからの視線は痛い。ただし、女神を助けたいと言う思いは同じと言う事で、何とか機嫌を直す事に成功する。
岡山から四国へは特急電車で移動。途中の瀬戸大橋から見る景色も中々にいいものだった。車窓からの景色に興奮している内に無事香川に到着。
さて、ここでもう一度気配を探ろう。
高松駅で降りた俺達は――もう微かな気配を辿る必要もなかった。女神が近くすぎて、空気の色でその方角が分かるほどだったのだ。その色は淡いピンクで、さらにとても癒やされる香りつき。こんな気配を漂わせる事が出来るのは女神しかいない。
間違いない、女神は高松市の何処かにいる!
まぁ、大体の居場所が分かった事だしと、俺はうどん屋さんを探す事にした。やっぱり香川に着いたらうどんは食べなくちゃ嘘でしょ。
と言う訳で、一応女神を探す体で真剣な顔をして、気配の濃い方に足を進めながら美味しそうなうどん屋さんを目指す。
香川はうどん屋さんが多い。一説にはコンビニよりもたくさんあるのだとか。事前に全く調べていなかったので、気配の方角とうどん屋さんを同時に確認しながら黙々と俺達は歩いていく。
「おい、マジでこっちなんだよな?」
「お前、ここまで近付いてまだ感じ取れないのかよ」
「わ、悪かったな!」
疑うネルをからかいながら、気配が濃くてしかも美味しそうなうどん屋さんに到着する。まさかとは思うけど……。
その悪い予感は、うどん屋さんに入ってすぐに現実化した。
「えっ?」
そのうどん屋さんの店内に、女神と魔王が並んで席について仲良くうどんをすすっていたのだ。ちょ、シュール過ぎるだろこれ。ちなみに釜玉うどんを食べてたよ、女神。
ただ、ここで騒いでもお店に迷惑がかかるので、驚いてポカーンと口を開けている白黒ハチワレに確認を取る。あ、当然だけど他の人には人間の子供に見えてるからね、うん。
「アレ、本物で合ってる?」
「我が女神、間違いない……」
「いやそっちじゃなくて……」
女神推しの猫にはその隣で平然とうどんを食べている魔王の姿は目に入っていない御様子。周りの人が全く平然としている事から、女神も魔王も魔法的なアレで他の人には普通の人のように見えているのだろう。
逆に、挙動不審な俺達の方が不審者に見えてしまっている気がする。
「お客さん、注文は?」
「え、えーと、温かいぶっかけで」
「そっちの子は?」
「お、同じなので」
俺達は注文したうどんを手に、女神達が食事中のテーブルへと向かう。
「ここ、いいですか?」
「あ、はい」
こうして、何だかあっさりと俺達は問題の2人と同じ席に座る事が出来た。ネルの正面には女神、俺の正面には魔王。
女神の姿は本当に女神としか言えない美しさでプロポーションも抜群ですごくいい匂いがして――正直ネルと席を変わって欲しいくらいだ。
けど、今から戦う相手から逃げる訳にも行かないので、敢えて俺は魔王に向き合う。
魔王は女神とは対象的に、ごっつい体格に所々に骸骨をあしらったいかつい鎧、それっぽいマント、ダメ押しに頭には悪趣味なデザインの王冠まで被っている。
ここまで分かりやすい魔王もいないよ今どき。
「私がどうかしましたか?」
「え、えっと……」
魔法で偽装出来ていると思いこんでいる魔王が、まるで一般人のような反応をする。お店で戦う訳にもいかないので、こっちも食事中は敢えて普通の対応をする事に……。
「ここのお店、初めてなんですけど、お、美味しいですね」
「ええ、私も初めてなんですけど、美味しいです。やっぱりうどんは香川ですよね」
「「あ、あははは……」」
愛想笑いがシンクロしてしまった。こいつ、魔王の癖に一般人のふりをするのがうまいぞ。
相手はバレていないと思っているので美味しそうに食べているみたいだけど、こっちはもう何の味もしないよ。うどんのコシコシした食感だけを感じ取ってるよ。
隣の猫も女神に見とれてぼうっとして心ここにあらずみたいだし、何だこれ。
先に席についていたのもあって、女神魔王コンビの方が先にうどんを食べ終えて席を立つ。間近で見る限り、そこまで女神も嫌がってないみたいにも見えたけど、アレかな? 洗脳的なやつでマインドコントロールをされているとかなのかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます