待ち合わせプリンセス 後編

 執筆を初めて半年が過ぎた頃だろうか、僕のアカウントのフォロワーからツイッターを勧められる。正直SNSは炎上とかのイメージがあって避けていたんだけど、カクヨムでは作品を通さない個人的な交流が難しいので、そう言うのが出来るかもと期待してツイッターのアカウントも取得。さっそく自分のフォロワーを中心にフォローしていった。

 ツイッターでのカクヨム仲間との交流も楽しくて、以前ネットゲームで充実していた頃の事を僕は思い出すようになっていた。


 そんなある日、日課のようにツイッターを覗くと、僕の作品をよく読んでくれる読み専の人からDMが届いていた。もしやの期待を抱きながらメッセージを確認すると、その予想通り個人的に会いませんかと言うお誘いの内容だった。

 その人は僕にツイッターを勧めてくれた人でもあり、何だか昔からの知り合いだったみたいな安心感のある人で、正直こっちとしても、もし会えるなら会いたいと思ってはいた。


 ただ、昔の2人オフ会の件がどうしても頭をよぎってしまい、決断も慎重になってしまう。なので、もっと交流を深めてから会おうと言う感じの返事を返してしまう。

 悪い印象を与えてしまったかなと少し後悔していると、それでいいですと言う返信が。こうして一ヶ月くらいDMでの交流は続いたのだった。


 そうして、まだ会う事は出来ませんか? と言う相手側のメッセージをきっかけにして、ついに会う事に。それからはトントン拍子に話が決められていく。



 やがてその当日がやってきた。僕は自分の中で一番のおしゃれな服を着て、期待と不安を胸に抱きながら待ち合わせ場所へと向かう。そこは大型ショッピングモールの正面の入口前。10分前に現場に着いた僕は取り敢えず相手が先に着いている可能性も考えてあたりをキョロキョロと見渡す。

 けれど、該当しそうな人の姿は全く見当たらなかった。


 それから、まだ見ぬ画面の向こうのファンを僕は待ち続けた。待ち合わせ時間が来て、更に5分過ぎ、10分過ぎ……それでも相手は現れない。この時、ネットを使って連絡を取れば良かったのだけれど、頭の中がネガティブに支配されたいたためにその考えが全く浮かばなかった。

 勝手にすっぽかされたに違いないとひとり早合点した僕は、30分待った後に待ち合わせ場所を離れる事に。


 そのまま帰るのもつまらないと感じた僕は、そのままモール内を歩き始めた。そうして適当に中を物色していると見覚えのあるシルエットが突然目に入ってくる。

 その人物はモール内を歩く僕の姿を見つけると、突然機敏に動き始めた。そうしてまっすぐ僕の方に向かって歩いてくる。


 その人物は僕もよく知っている人……そう、姫様――夢ちゃん――だった。どうして彼女がここに? 混乱した僕は一歩も動く事が出来なかった。


「こら、姫を待たすとは何事じゃ」


 彼女は初めて会ったあの時と同じ笑顔で詰め寄ってくる。僕は意味が分からなくて鯉みたいにただ口をパクパクと動かすばかり。

 何も喋れないでいると、夢ちゃんはじいっと僕の顔を興味深そうに見つめてくる。何か喋らなくてはと、無理矢理に言葉を絞り出した。


「えっと……」

「もしかしてだけど、待ち合わせ場所を間違えていたとか?」

「え?」

「ほら、待ち合わせ場所、モールの入口前でとしか書かなかったし……。入り口ってあそこだけじゃなかったもんね」


 この言葉で僕は確信する。やっぱり今回誘ってくれたのも彼女だったんだって。

 ただ、正体が分かったところで新しい疑問も生まれてしまう。無意識の内に僕はそれを口に出していた。


「でも何で?」


 この質問で空気を読んだ彼女は黙って僕の腕を引っ張り、そのままモール内の喫茶店へ。注文は緊張したけど、何とかクリアして僕らは席に座る。

 そうして数秒間の沈黙を経た後、彼女から真相が語られた。


「実はね、あの後引っ越したんだ……」


 つまり、経緯としてはこうだ。あの2人オフ会自体が引っ越す彼女の最後の思い出作り。ゲーム内交流で住所が近い事が分かって、それならば会ってみたかったと言うものだったのだと。

 それで、引っ越した後にすぐゲームに復帰するつもりだったものの、色々忙しくて思うように話が進まなかったと言う事らしい。


「それでようやくゲームに復帰したら渡君いないんだもん、びっくりしちゃったよ」

「ごめん……。でも何でカクヨムに?」

「その後に私もゲーム辞めちゃってね。暇潰しにネットを見ている内に何となく。そうしたら注目の作品で名前を見つけたからもしかしてって思って」

「あ……」


 そう、カクヨムでも僕は名前をネットゲームの時と同じ名前にしていたんだ。僕にはポリシーがあって、どのサービスを利用する時も同じ名前にしている。彼女がカクヨムに辿り着いた時点でいつ気付かれてもおかしくなかったんだ。

 そこまで話をして、もう僕の疑問はほぼ氷解していた。


「流石に私も名前だけで判断するのはまずいかなって思って、一応作品を読んでみたんだ。そうしたら文章が渡君ぽかったから……」

「それでツイッターを勧めてきたんだ」

「うん、もうちょっとプライベートな事が分かればなって。すぐに確信が持てたよ」

「そっか……」


 文章からプロファイルングされるなんて。それってよっぽど気に入ってないと普通はそうはならないよね。僕の文章なんてそんなに特徴ないと思うし。何だかすごく見透かされているような気がした僕はカアーッと顔が耳まで熱くなる。


「でも、今日会いたくなった本当の理由はね……。また私、この街に戻ってきたんだ。だからだよ」

「え……」

「今からはもっと仲良くなろ」


 彼女はそう言って僕に最高の笑顔を見せてくれた。つまりそれは、そう言う事だよね? 勘違いとかじゃないよね? 

 それからはすれ違いがないようにお互いの連絡先を教えあって、今の所は毎日楽しく交流を続けている。例えば、ずっと読み専だった彼女に今度は僕から執筆を勧めてみたり。


 彼女は文才もあったみたいで、すぐに僕の作品の最高評価を上回ってしまった。一気にカクヨム内での力関係も転してしまった感じかな。

 ただ、それが全然嫌じゃなかった。やっぱり姫様は輝ける存在じゃないとね。


 今度、僕は姫様のナイトになっていいかどうか聞くつもり。正直かなり勇気はいるけど、きっとこれは乗り越えないといけない試練なんだ。画面越しじゃなくてはっきり彼女の前で告白するって決めている。心臓バクバクだけど、きっと悪い結果にはならない――はず。


 次は初めて僕らが会ったあの時と同じ、駅前での待ち合わせ。前の夜は寝坊しないように早めに床についたけど、色々考えてしまって全然眠れなかったよ。

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