星村直樹さんからのお題

隠れ里の何でも屋さん その1

 はぁ……、今日も暇だなぁ。


 聖エルヴェクト公国の外れにある森の中には、普通の人が入れない隠れ里がある。そこでは魔物達と亜人種達がひっそりと、けれど仲良く暮らしていた。

 里に人が入り込む事はごく稀で、更には村に住み着いている人間はただ1人。その唯一の人間の住民こそが私の雇い主である何でも屋の店長、ハヤト。


 彼がこの里にやってきて、もう20年は経つのだろうか。最初は唯一の人間として中々馴染めずに、様々な職業を転々として続かずにいたらしい。その内誰もがあきらめて村を出るだろうと思っていたら、彼、今度は1人で何でも屋をやり始めた。その仕事を通して里の住人のどんな無理難題も聞いている内に絆も深まり、そうして受け入れられていったのだとか。

 どうして店長がこの村に来たのか、そう言う肝心な事は何も分からない。聞いてもいつもはぐらかされるし。


 実は私、5年前に森で迷っていたところを彼に助けられて、何とか恩返しをしたくて、それで無理やり従業員にしてもらったんだ。

 何でも屋とは言っても、普段の仕事は本当に些細なもの。人手不足の農作業を手伝ったり、探し物を探したり、引越の手伝いをしたり。たまに旅をする村人の護衛なんかの依頼もあるけど、危険なものはほとんどないかな。


 そんな感じで、この隠れ里は本当に平和そのもの。それはこの里が人間とほぼ関わっていないからなのかもね。


 その日もまた、そんな呑気な雰囲気から始まった。


「店長、どうか助けて欲しいホ!」

「うん、どうしたんだ? そんな慌てて」

「大事にしていたお宝がなくなったんだホ!」

「何だって? そりゃあ大変だ!」


 今日お店に相談に現れたのは森の番人の大きなフクロウ。キラキラ光る物が好きで、珍しい宝石とかを溜め込んでいたのがなくなってしまったらしい。

 店長はフムフムとうなずいて、必要な情報を紙に書き留めていく。こう言う失せ物探しもよくある依頼。発見率はそんなに高くないんだけどね。

 家の中に置いてあるのが分からなくなっただけならそうでもないんだけど、盗まれてしまっていたら大抵はもうお手上げだから。


「よし、大体分かった。俺に任せろ!」

「よろしくお願いするホ!」


 依頼が受理されて、フクロウは満面の笑みで店から飛び去っていく。店長はフクロウから聞き取った情報を書き留めた紙を丸めてポケットに入れると、1人で外に出ていった。

 この時、個人的な用事で席を外していた私は、戻った時にすぐに店長が見当たらないのに気付いて急いで飛び出した。


「店長~!」


 すぐに出たのが良かったのか、店長はまだ私の目の届く距離にいた。私の声に気付いたのか、彼はすぐに振り向く。


「お、アイラ、済まないけど留守番頼むわ」

「勝手に仕事を決めないでください!」

「いやだって店長だし俺」


 店長は全く悪気のない顔でニヤリと笑う。この人の悪い所は何でも安請け合いしてしまうところだ。そこがいいところでもあるのだけれど。

 彼が1人で何でも屋をしていた頃は、儲けにならない事ばかりを儲けにならない報酬で請け負っていて、ほぼその日暮らしに近い暮らしだったそうだ。その惨状を見て、呆れた私が仕事を管理するようになったんだよね。


 私が仕事をきっちり選ぶようになってからは何でも屋も何とか軌道に乗るようになって、多少の余裕も生まれてきた。それでも、油断すると私がいない間に儲けにならない仕事を取ってきちゃうので困っているのだ。

 今回のフクロウの依頼もまた、そう言う系じゃないかと私は訝しんでいる。


「大体、私がトイレに行ってる間に」

「しゃーねーじゃねーか」

「そもそもあのフクロウの依頼って……」

「ああ、留守にしている間に大事なお宝がなくなっていたんだと」


 ここまで話を聞いた私は、ひとつ思い当たるフシがあった。


「それって妖精の仕業なんじゃないんですか?」

「かもなあ」

「でもこの森の妖精にそんなのいませんよ」

「まぁな」


 私の話を、店長は分かっているんだか分かっていないんだか適当に相槌を打って聞き流している。その態度に業を煮やした私は結論を叩きつけた。


「多分流れ者の妖精の仕業ですよ。もう見つかりませんって!」

「ま、やるだけやってみるさ」


 妖精と言えばいたずら好きで有名で、綺麗な物や宝石が大好きなのもいる。それにこの里には旅の妖精がよく訪れる。そんな妖精は気ままに滞在して気ままに里を出ていってしまうのが常。里を出た妖精の足取りを探すのはほぼ不可能。店長もその事は知っているはずなのに、依頼を受けてしまったのだ。

 私はそんないい加減な彼に怒りをぶつける。


「どうせ見つからなかったらお代はいらないって言ったんでしょ! 私、タダ働きはゴメンです!」

「だって成果も得られないのに金は取れねーだろ。嫌なら辞めていいんだぜ」


 店長は私が文句を言うとすぐに辞めさせる方向に話を持っていく。きっと1人で仕事をしていた頃の気ままさを取り戻したいのだろう。

 けど、それがどれほど私を心配させるか彼は知らないんだ。なので、ここでキッパリと宣言する。


「私は辞めませんから!」

「お、おう……」

「こうなったら絶対に見つけますからね!」


 こうして、私達2人はこの依頼を必ず成功させるために行動を開始する。まずは犯人を旅の妖精と仮定して、その線で捜索を開始した。


 取り敢えず、隠れ里の周辺の森を丹念に歩いて妖精がいた形跡を探す。私もエルフの端くれだから多少は森に詳しい。見慣れない妖精のいた雰囲気があればすぐに感じ取れる。

 ……はずなのだけど、中々そんな妖精がいた気配は見つからなかった。店長も一緒になって探してくれてはいるんだけど、ずうっと締まりのない顔のまま。


 ある程度森の中を探し歩いた私達は、今度は森の中を流れる川に注目する。川沿いに妖精が飛んでいった形跡がないかと歩いてみるものの、それらしき手がかりは結局何も見つからなかった。

 これは、捜索方法を変えてみた方がいいのかも知れない。


 私達は妖精には妖精をと言う事で、森に住む地元妖精達に話を聞いてみる事にした。多くの妖精達は里ではなく、その周りの森に住んでいる。その方が性に合っているらしい。

 妖精達の住むエリアに向かうと早速第一妖精を発見、すぐに聞き込みを開始する。


「オラ盗みなんてしないだよ」

「いや疑ってるんじゃないんです。最近見慣れない妖精を見ませんでしたか?」

「うーん。見たような見なかったような……」


 この妖精からははっきりとした情報は得られなかった。その後で他の妖精達にも話を聞いてみるものの、流れ者の妖精の話題の具体的な手がかりは見つからず、1日目はこうして新規情報なしのほぼ無駄足に終わってしまう。


「ここまで調べて証拠が見つからないと言う事は俺達、何か思い違いをしていたのかも知れないぞ」

「えっ? それはどう言う……」

「明日は考え方を変えて、もう一度最初からやってみよう」


 里に戻った店長は、そう言うと何でも屋二階の自宅に帰ってく。仕方なく私も家に帰る事にした。アイディアを話した時の彼の顔がやけに自信満々だったから、それに期待する事にして。



 翌日、フクロウのお宝探しは2日目に突入する。さあて、店長のお手並み拝見と行きますか。


「他に被害がないか聞いてまわろう」

「えっ?」

「多分、他にも被害は出ているぞ」

「なるほど、そこから犯人像を絞り込むんですね!」


 と言う訳で、私達は里の住人達に何か大切な物がなくなっていないか、聞き込みを開始する事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る