第7話 邪神の使者と魔法初心者

「ちぇ、たくさん光った刃物の方が綺麗だと思ったのに〜」


 サリスに「眩しすぎる。それ以上カーテンを全開にするなら別の部屋で話そう」と言われたリューシュはしぶしぶカーテンを閉めながら口先を尖らせていじける。


 リューシュ、サリス、グレンデルの3人はテーブルを囲み本題に入る。


「で、お話ってなんだっけ〜!? 怪しい人物でしょ!? う〜ん、ここを少し北上した所にある『水源の森』が怪しいかも!! 怪しいね!!」

 サリスがテーブルの上に出した地図を「ここだっけ!? ここだよ!!」と指差した場所はカナルを二分する川の水源がある森だった。


「ここに怪しい奴らの本拠地があるとしたら、ちとマズくねぇか?」

 顎の下に手を当て思考するサリスは続ける。

「もし奴らがこの国にとっての脅威なら、この地域の水源が確保されるのはかなりまずい」


「確かに!! サリスくんの言う通りだね〜!! お水が無くなるのは大変だね!? 干からびちゃうね!」

「お風呂とかお洗濯出来なくなっちゃうね、大変」


 相変わらず騒ぎ立てるリューシュと少し的外れなグレンデルに呑気だなと1人ツッコミを入れつつ

「ただ、戦闘になったとして相手の戦力がわからん。迂闊に飛び込むわけにはいかんな・・・」

 と思案顔を浮かべるサリス。


「サリスくんなら何百人いても関係ないんじゃない〜?? 討伐隊の魔術師さん??」

 挑発的な笑みを浮かべリューシュがサリスに言う。

「やめろ。昔の話だ」

 ため息を大きくつきサリスは椅子から立ち上がる。


「仕方ない。行くかグレンデル。『水源の森』に」

「うん。ドクターが行くなら私も行く」


 グレンデルはリューシュにまた会おうねと言い豪邸から出るためフードを被る。それをリューシュが黙って見ているはずが無かった。


「ちょっと〜!!! この私に楽しそうなこと相談するだけして置いてくの!? 置いてかないよね!? すごく楽しそうだもんね!!」

 サリスにずいずいと駆け寄りながらほぼ本心で付いていく意思を見せる。

「はぁ、分かった。お前も来ていいぞ。戦力が多いほうがいい」

 サリスが言い終える前に

「今日の相棒は君と君と君と君だ〜!!!」

 と鼻歌混じりに部屋の壁から短剣を4本装備し始めるリューシュであった。



「じゃあ!! ランスルー。しばらくお家の番よろしくね!!」

 ランスルーと呼ばれた執事の青年は

「了解。お嬢さん」

 と、執事にしては軽い物言いでリューシュにかえした。


「森に向かうわけだから徒歩だよな・・・」

「足、疲れる前に解決できたらいいな」

「久々のお散歩だよ〜!!」

 元気なリューシュとは真反対の2人だった。




 3人が森に入ってから10分ほど経ったころ、森はかなり薄暗くなったきた。

「かなり暗くなってきたねドクター」

 杖をギュッと握りしめおずおずと歩くグレンデルを見やりサリスは灯りをつける。

『フレイ・ランタ』

 ーポゥと小さな炎がサリスの掌から出て3人を照らす。

「おぉ!!さすがサリスくんだねぇ!明るいよ〜!」

 手をパチパチと鳴らしながら1人盛り上がるリューシュはつづける。

「フレイ様は元気そうだったかい??最近会ってないんだよ〜!!」

「あぁ、元気そうだったよ。グレンデルにセクハラ紛いのことをさせるくらいにはな」

 つい先程の試練(フレイの一方的な要求)を思い出しながらサリスは笑う。

 グレンデルは思い出したのか少し頬を赤して「それ言わないで」とサリスに注意した。


「あの神様なかなかに構ってちゃんだからねぇ!! グレンデルちゃんが可愛そうだよ〜!! 私もー」

 と続きを言いかけたリューシュは今までに聞いたこともない声で叫んだ。


「伏せてっ!!!!」


 そう叫んびながらリューシュは刀身が湾曲した短刀を前方に降る。


 ヒュンッ!!と風切りの音が聞こえたかと思うと前方から飛んできた熱風とぶつかり風と熱の奔流を生み出す。


「敵襲か!!」

 サリスがそう叫ぶと答えが帰ってきたのは森の奥からだった。


「はい。敵襲なのですよ?そちらの白衣の御方。大正解でございます。警戒をするのも正解でございますね」

 姿を表した声の主は全身を黒の長いローブで包み分厚い本を持った男だった。


「何者かは知らないけど、攻撃したってことは私も切っていいんだよね!?切るよ!!」

 リューシュは緊張しつつもニヤリと笑い先程の湾曲した短刀を右手に、左手に刀身がまっすぐの少し長めの短刀を手にした。

 サリスも自前の片手剣を抜き臨戦態勢。

 グレンデルも現れた男に杖を向けて唇をギュッと閉める。


「すぐに臨戦態勢に入るのは素晴らしい!!隙がありませんね!私を切っても構いませんよ!」

 男は両手を広げ天を仰ぎ言い放った。

「私は終焉徒のスナイダー!!貴方達はどのような正解を私に見せてくれるんでしょうか!!!」


「終焉徒・・・?聞いたこと無いな」

 瞬時に魔力を高めたサリスは容赦なくスナイダーと名乗った男に魔法を放つ。

「リューシュ離れろ!『フレイ・ランス』!」

 スナイダーに向けた掌から炎の渦が現れ次第に細く、長い槍になる。炎の槍はスナイダーに向かって高速で迫る。

 リューシュは先程いた場所からグレンデルとサリスからは少し離れた場所に飛び退き「何度見てもすごいねぇ〜」と声を漏らす。


「これはこれは。いきなり大技を。しかし、これでは足りませんね」

 スナイダーが腕を薙ぎ払うように振ると

 ギュンッ!!という音と共に熱風が巻き起こる。熱風に煽られた炎の槍はスナイダーの足元の地面に突き刺さり消滅する。

「ドクター、あの人詠唱も無しに風を起こしたよ・・・?」

 グレンデルは自分の知らない現象が起こっている事に驚いている様子だ。

 サリスは片手剣を構え直し答える。


「あぁ、恐らくは邪神の恩恵の力だろう。邪神の恩恵は俺達が持っている属性主の恩恵の魔素に命令をして魔法を発動するタイプとは違って強制的に魔素を動かしてしまうんだ。命令をする必要が無いから詠唱も要らない。しかし邪神の恩恵を授かる事はこの世界の禁忌だ。あいつは禁忌に触れたってことさ」


「嗚呼っ!! 大正解ですよ!!! そう、私は邪神イフリート様より恩恵を授かりました!! 詠唱も必要ありません!! このようにねっ!」

 再びスナイダーが薙ぎ払う。先程とは明らかに威力が大きい熱風が二人を襲う。


「っち!まったくめんどくせぇ奴に会っちまったな!」

 サリスがグレンデルを庇うように熱風から守る。サリスは熱風をもろに受け吹き飛ばされてしまう。

「サリスくん!!!『ウイン・ソール』!」

 リューシュはすぐさま魔法を詠唱し吹き飛ばされているサリスへ跳躍し、空中で抱きかかえる。

「リューシュ!助かった」

 グレンデルを残しリューシュとサリスは後方に着地。



「おやおや、守るべき者。一番か弱そうな女の子を一人にするなんて。不正解、ですよ?」

 底冷えするような声と共にグレンデルに先程と同じ熱風が襲いかかる。


「グレンデルっ!!!!」







 目の前に立つ男がなぎ払った熱風がすぐそこまで来ている。肌を撫でる風は熱く肌をヒリヒリと焼く。私が持っている杖が暖かい光を放っている。

「これは…おじさんの魔石の光と同じ」

(さっきドクターが魔法の使い方教えてくれたっけ。確か詠唱の決まりは属性主の名前の後に創りたい形や特徴を言えばいいはず…今はおじさんの力を借りて何かを作らなきゃ…さっきスナイダーって人は私のことを守るべき者って言った。私だって自分で自分を守らないと…この風を守る盾。盾じゃダメだ。全部をはね返せれない。もっと大きな、壁。おじさん!力を貸して!!)



「ふ、『フレイ・ウォール』っ!!!!」









 サリスの叫びをかき消すように吹き荒れる高熱の風はグレンデルを包む。

「守るべき者が居るのであれば離れるべきではありませんでしたね。貴方が犯した不正解は取り返しのつかないものになりましたよ!」


 スナイダーは高笑いしながらサリスに言い放つ。

「グレンデル!」

 掛け出そうとしたサリスの腕をリューシュが掴み「落ち着いていいよ〜」と言い

「グレンデルちゃんの心音は途切れてないから大丈夫だよ〜?? 私には聞こえているから〜!!」

 グレンデルが居た所を見ると確かにグレンデルは無事に立っている。足元からは炎の壁が燃え上がっていた。


「嗚呼、嗚呼!! 大!正!解!です!! まさかまさか私の熱風を弾くとは!!! 貴女!いいですね!!」

 大興奮のスナイダーは頭を掻きむしり叫びを上げる。


「魔法、初めてだけどうまくいった・・・」

 初めての魔法を成功させたグレンデルはその場にヘタっと座り込む。


「グレンデルっ!」

 サリスは瞬時にグレンデルの元に戻り肩を貸す。

 スナイダーと二人の間にリューシュが立ちふさがる。

「さてさてスナイダーくん?? 君の攻撃方法は分かったよ!? ここからは私が相手だよ!?」


「いいでしょう!! その覚悟や良し!! お相手致しましょう!!」


「グレンデルちゃん、サリスくん!下がって!!」

 リューシュは三本目の短剣、一番短い短剣をスナイダーに向かって投げる。

 しかし狙いが逸れたのか木に突き刺さる。

「あらあら、手元が狂いましたかな?そこに私はいません。不正解ですよ?」

「あらら〜・・・へへ、力みすぎたなぁ??」

 リューシュはヘラヘラとしつつも殺意の篭った目はスナイダーを見据えていた。


「グレンデル。起きれるか?離れよう。ここにいてもリューシュの邪魔になるだけだ」

「うん。大丈夫。それよりも魔法見てくれた??」

「あぁ、見たぞ上出来だ」

 グレンデルを起き上がらせサリスはニコリと笑い少し離れた場所に引いた。グレンデルもそれに続く。

「おーい!リューシュ!やっちまえ!!」

 サリスがリューシュに合図を送る。


「りょーかいだよ!! サリスくん!?」

 合図を聞いた途端、リューシュの姿が消える。

「スナイダーくん?君なかなかカミサマに愛されてるみたいだけど!! 私ほどじゃないよね!? まだまだだよ!!」


 超高速で森を飛び、走り、或いは転がり。リューシュは目では追えない速度まで到達する。

 暗い森の中でシュンッ!シュンッ!とリューシュが移動する音だけが響く。


「どうだい!? 私のスピードは!?」

 両手に持った短剣でスナイダーの身体に一つ、また一つと斬撃を与える。

「ふふっ!侮っていましたね…これは私の不正解…!! 私、楽しくなってきましたよ!!」


 目で追えないなら、とスナイダーは四方八方に熱風を吹かせ続ける。しかし超高速で移動するリューシュには熱風など遅すぎた。

「そんな弱い風じゃ〜!! 私の髪の毛も焼くことはできないよ〜!?」

 戦闘は完全にリューシュのペースになっていた。


「すごい・・・ドクター、リューシュさんの攻撃見えないよ」

 離れて見ているグレンデルにもその姿を捉えることは叶わなかった。

「リューシュは風の属性主キャスター風神ウインの恩恵を持っているんだ。そしてリューシュの魔力は黄色。強化色だ。風の魔法は強化向きだから風の魔法を使う為に存在するような女性だよ。特に強力なのは」

 サリスが説明を終わるとリューシュが再び詠唱する。


「『ウイン・ソール』!! スナイダーくん!? もっとテンポ上げてくよ〜!?」

 さらに速度が上昇したリューシュはもう誰の手にも止められない斬撃の風と化していた。


「ウイン・ソールだ。自身のスピードど聴力を強化する。水を得た魚って奴だな」


 スナイダーは熱風を吹かすも体は次々斬られ血飛沫が熱風に乗っている。

「はぁ、はぁ、正解っ!正解っ!イフリート様の恩恵を得た私は正解でなければならない!! なのに何故!? 何故私はこんなにも追い詰められている!?」


「それは〜!! 君の考えが不正解だからだよ」

 スナイダーの耳元に突然現れたリューシュは先程投げた短剣を抜き、スナイダーの首元に突きつけそう言い放った。

 そして、止めを刺したのであった。


 首に風穴が空き、倒れたスナイダーはヒューヒューと、浅い呼吸をしながら

「私は、まだ、目的を終わらせてはいない…それはあなた達とて・・・同じ・・・こ、と」

 そう言い息絶えた。


「禁忌を犯した者はよく分かんないね〜…呆れたよ〜」

 短剣の血を払い納刀したリューシュはサリスたちの方へ向かって歩きだした。




 しかしそこにはサリスとグレンデルの姿はどこにも無かった。


「サリスくん?? グレンデルちゃん??」

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