第4話 杖は飾り物ではない
サリスが炎神フレイに会いに行くと言ってからグレンデルが理解するまで少し時間がかかった。
「・・・炎神フレイ??どうして神さまに会いに行くの?」
「さっき話したろ??
「もしかして魔法、覚えさせてくれるの!?」
グレンデルの目が少し輝く。心なしか、と言うか絶対に魔法車に乗っている時より明るい表情をしている。
その微笑ましい表情をみてサリスは驚きつつ呟く。
「予想以上に食いついてくれて俺は嬉しいよグレンデル」
「ドクター、早く行こ神さま会いに行こ」
「魔法、好きなんだなお前・・・」
「フレイが居る神殿まではメインストリートを通らないと行けないんだよなぁ・・・」
サリスはため息をつく
「ドクター、人たくさん居るからはぐれないでね」
「まったく、お前はバザールに気を取られないようにな」
「大丈夫」
グレンデルはそう言ってサリスの白衣の袖口を掴む。
(記憶を無くした状態で人混みを歩くのは少々酷なことをしたかもな)
サリスは長いフード付きのマントをグレンデルに差し出す。
「これ羽織っとくか?少しは人目を気にせず歩けると思うんだが」
グレンデルは驚き、しかし安心したように受け取る。
「ドクター、ありがとう」
「あぁ、それとグレンデル、少し見に行きたい店があるんだ。付いてきてくれるか?」
「うん、分かった行く」
「魔道具・デーヴィ??」
首をかしげながらグレンデルは裏路地の怪しげな店の看板を読み上げる。
「あぁ、魔道具を扱う店だ。俺の行きつけ」
サリスはそう言うとドアを開ける。
「デーヴィのおっさん生きてるか~?」
「何じゃい、何じゃい、相変わらず不躾な挨拶じゃのヤブ医者が」
刀剣、盾や杖、弓矢などが壁一面に所狭しと並んでいる薄暗い店内の奥から、ハゲ頭で顔は皺だらけ、長いボロボロのローブを着た老人が杖をつきつつ現れる。
「おいおい、グレンデル。このおっさんが怪しいからってフード被って俺に隠れることないんじゃないか?」
「一言余計な坊主じゃのお前は!で、何の用じゃお前が来るとろくな事が無いわい・・・」
デーヴィはやれやれと歩み寄り
「そこの女の子じゃろ」
「察しのいいおっさんだな~ホント」
「私・・・?おじいちゃんに用事??」
「お前丸腰だろ・・・お前用の杖貰いに来たんだよ」
「杖、私の杖?」
「なるほどの。そこの女の子、グレンデルの杖を作ればいいのじゃな」
「助かる。魔素負荷の耐性が高いヤツな」
「ん?そんなに強そうな子には見えんがの?」
「人は見かけにはよらないものさ。早く用意してくれ。これからフレイに会いに行くんだ」
「フレイ様に?神を待たすのもバチが当たりそうじゃ。少し待っとれ」
デーヴィはブツブツと言いながら奥の物置に消えた。
グレンデルはふぅ、と一息つき、怖い人?とサリスに聞く。
サリスは首を横に振りつつ
「あのおっさんは悪いやつじゃないよただ小難しいだけさ。俺達の味方だよ」
しばらくふたりが喋っていると
「やっと見つけたわい。この前ここら辺じゃ見かけない姿の者が来てな、こんな杖を置いていきよったわい。これでどうじゃ?」
禍々しい形をした先端が二股に分かれた黒の杖をデーヴィは差し出す。
サリスは少し引いている。
「いや、それは受け取れない。おっさんが作ったのにしてくれ。」
デーヴィは目をキョトンとさせ笑う
「かっかっかっ、珍しいの!ワシのことを大きく見とるお前を見るのは、じゃあ、そこに飾ってある杖なんてどうじゃ?昔創ったワシの傑作じゃよ。軽くて丈夫、女の子でも持てるぞ?」
デーヴィが指を指した方にあったのは銀でできた短めの杖だった。
細部にまで拘られた装飾と持ち手が握りやすいようにグリップまで付いている。
「綺麗・・・こんなの私が使ってもいいの?」
グレンデルが遠慮がちに聞くとデーヴィは高らかに笑い
「かっかっかっ、杖は飾り物でなく武器だからの、それにグレンデルは可愛いからのお主に似合って杖も喜ぶわい」
グレンデルは少し照れたように微笑みフードを取る。
「おじいちゃん、ありがとう。大切にするね?」
「うむ。大切にしてやってくれ。ワシの傑作じゃからの」
サリスは随分あっけない取り引きを目の当たりにした。
「ありがとうおっさん。礼はまた今度させてもらうよ」
「ええんじゃよ。やっと持ち主が見つかってワシも安心じゃ」
二人は店を出る。
「じゃあまた」
「ばいばい、おじいちゃん」
二人の背中を見送りデーヴィは
「達者での」
と一言返した。
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