第1話 知らない手術室で

 意識が水底から浮かび上がってくる感覚。

 薬品の匂い・・・誰かが歩いている音・・・

「・・・・・・?」

「目が覚めたかい?」

 手術室のような部屋の奥から声が聞こえ、小瓶を持った白衣、黒髪、丸メガネの男が姿を現した。

「・・・っ!」

 私はとっさに誰?と声を上げようとしたが声が出ないことに気付く。

「随分と長い間寝ていたんだ。発声魔素がうまく活性化できていないのだろう。これを飲むといい」

 男はそう言うと液体の入った小瓶を差し出してきた。

「そんな怪訝な目で私を見ないでくれよ・・・怪しいものじゃない。魔素活性剤だ」

 私は少し怪しみながら小瓶を受け取り液体を飲み干した。


 なんで怪しいのに飲んだって?だって喉が渇いていたんだもん。


 液体を飲むと喉の奥がじんわり温かくなる。

「声、出せそうかい?」

「だ・・せる」

「そうか良かった」

 男は病気が完治した患者を見るような笑顔だった。

「さあ、声も出るようになったことだし自己紹介と行こうか。私の名前はサリス。この村で医者をやっている者だ。ヤブ医者だがね。気軽にドクターと呼んでくれ。歳は24。さぁ、君の番」

「グレンデル、、グレンデル・クシル。歳は16。・・・・・・・」

 続きを言おうとしてグレンデルは困惑した。これ以上考えるだけで頭が痛くなって意識が遠のく。

「随分と味気ない自己紹介だね~。特技とか好きなタイプとか言わないのかい??・・・グレンデル?」

 サリスが異変に気付き声を荒げる。

「待ってろ!」

 彼は部屋の奥にある机から一本の杖を出し、グレンデルに向け何か呟く。

「魔素よ我が呼びかけに答えよ」

 すると杖の先が紫色に光り部屋を照らす。

「少しお前の体内魔素を見せてもらうぞ。・・・・・・・!」

 少しの間杖を掲げていたサリスが驚きの表情を浮かべる。

「結晶濃度が明らかに薄い・・・まさかお前、記憶がないのか!?」


 グレンデルは怯えた表情を浮かべ、サリスに向かって言う

「ドクター・・・私・・何にも覚えてないの・・・」

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