第52話:試験当日
試験日当日。
俺とゼノアは一般側。クレアが貴族側から試験を受けることになった。
ゼノアに関してはフィリップさんから手配してくれたので、筆記だけとなった。
よもや高校入試に続いて二回目になるとは……
「アキトさんにゼノアさん、お互い頑張りましょうね!」
「そうだな」
「うむ」
わざわざ家まで来てそう言ったクレアは、王家の紋章が入った馬車で先に向かった。
俺達も誘われたのだが、王族と同じ馬車に乗るのは目立ってしまうので断った。
今回行く学院だが、近くにフィアくらいの子供が行く学校がある。なので送り迎えの心配は必要なくなった。
フィアの入学手続きはフィリップさんが手配してくれた。学校に試験はない。今回フィアは王城で預かってもらっている。
ほんと、フィリップさんには感謝しないとな。
心の中でお礼を言っておく。
「さて、行くか」
「そうじゃのう」
学院までの道のりはそう遠くはない。歩いて二十分くらいだろう。
何事もなく学院に到着し、二人して受付に向かう。
「結構いるな」
「じゃのう」
そこらの高校入試よりも、物凄い人数が集まっていた。これは倍率が凄いんだろうな。
そんなことを呑気に考えていると順番が回ってきた。
「次の方。……はい。確認しました。アキトさんは第一試験会場ですね。こちらは──っ!? 飛び級ですか!?」
ゼノアが提示した用紙を見てそう声を上げた女性。
だがすぐに大声を出していたことに気づき「す、すみません。同じ第一会場へどうぞ」と言って顔を赤らめていた。
俺とゼノアは言われた会場へ向かう。
そこには試験官がおり集まると話し出した。
「よし、いるな。今からこの先にある的へと一人一人魔法を放ってもらう。どんな魔法でもよい。あの的を壊す勢いでやってくれ」
そう説明をすると試験官は壁へと移動し名前を言った。
順番からみて俺とゼノアの順番はまだまだだろう。
どんな魔法を放つか見ていると、詠唱を始めた。
詠唱か、俺は恥ずかしくて止めたからな。
「古より宿いし烈火の炎、我が敵に業火の炎を! ──ファイヤーボール!」
「全てを吹き飛ばす暴風の刃、我が敵を薙ぎ払え! ──エアカッター!」
「全てを砕く大地の塊、我が敵を穿ちたまえ! ──ロックボール!」
それぞれの詠唱を聞いていた俺は顔を青くした。
だって、あのまま無詠唱のスキルが無かったら俺もあの仲間入りだったのだから……
しかも全員放った後ドヤ顔をキメていた。
隣にいるゼノアを見ると欠伸をして目を擦っていた。
相変わらず可愛い。
そんなことを思っていると俺の出番がやってきた。
「次はアキトだ。どんなんでもいいからな。取り敢えず的を壊してみろ」
「壊す、か……」
何にしようか考えるも、あの鉄製っぽい的を壊せる威力ならいいのだろう。
「んじゃ──」
俺は五十センチ台の炎の塊を手の平に作り出す。
「なっ! 無詠唱だと!?」
試験官の声を無視して続ける。
「これを圧縮して」
すると、ピンポン玉程にまで小さくなった。
「──ほれ」
そう言ってその炎の塊を指で弾いた。真っ直ぐに的へと向かい──直撃。
ボワァッという音を立てて的が融解した。
俺が放ったのは大きく出したファイヤーボールを圧縮しただけである。
「ま、的が……」
試験官はそれどころではないようだ。他の人達も驚きで固まっている。
後ろで待機している試験者から声が聞こえる。
「む、無詠唱……」
「なんだよ今の魔法……」
そんな声が聞こえてきた。
「おーい。もういいか?」
呆けている試験官に声をかける。
「え? あ、ああ……す、凄いな。その歳で無詠唱とは……えっと、次は──ゼノアさんって飛び級ですか……」
そう言って紙に何かを書き終わった試験官は、俺の次であるゼノアへと促した。
「試験官とやら、アレに魔法を放てばいいのじゃな?」
「ああ、その通りだ」
「ふむ。ならこれでいいかのう」
そう言って手の平を的に掲げたゼノア。
瞬間、的に黒い小さな塊が現れた。その塊は徐々に大きくなっていき的を飲み込んで──消えた。
消えた後に残ったは、クレーターのようにごっそりとくり抜かれたような地面だけであった。
「ふむ。こんなもんでいいじゃろ?」
「上出来じゃないか? いつもだったら吹き飛ばしてただろ」
「そんなことは無いのじゃ」
残るは俺とゼノアのそんな会話だけであった。
何故か注目を浴びている俺とゼノアだが、次は筆記試験だ。
計算も小学生くらいの内容だったから大丈夫なのだが、問題は魔法に関しての筆記だけだった。
試験が始まって数分。
計算問題は解き終わった。残るは魔法に関してだけだ。結果、勉強した甲斐があったのか、すぐに書き終える事ができた。思ったより簡単だった。
そんなこんなで試験が終わりゼノアに聞いてみると。
「妾も問題無かったのじゃ」
ふむ。大丈夫そうで何よりだ。
こうして王城に戻った俺とゼノア。先に戻っていたクレアと、王城に預けていたフィアが駆け寄ってきた。
「どうでしたか? って大丈夫ですもんね」
「ああ。完璧だった。多分筆記も問題ないと思う」
「妾もじゃ」
「二人とも流石です……私、勉強について何も教えられませんでしたし。逆に教えてもらう立場になってましたもんね……」
シュンと落ち込むクレア。
「そう落ち込むなよ。クレアだって勉強頑張ってたじゃないか」
「じゃのう」
「フィアも大人しくしてたか?」
「うん! メイドさんにお菓子いっぱい貰った!」
そう言ってフィアは、俺に両手一杯にあるお菓子を見せつけた。どれも紙に包まれているが、それでも甘い匂いが漂ってきた、
「美味そうな匂いだな。美味かったか?」
「うん! お兄ちゃんとゼノアお姉ちゃんにもあげる!」
「ありがとう」
「ありがとうなのじゃ」
俺とゼノアはフィアの頭をなでなでしてると、フィリップさんがやってきた。
「アキト殿にゼノア殿、試験はどうだったかな?」
「完璧だ」
「妾もじゃ」
「それは頼もしいな。クレアも大丈夫だっと聞いて安心した。どれ、少しみんなでお茶でもして話すか。妻のレイナとアスト、ルナもおる。どうじゃ?」
断るわけないだろう。
「お言葉に甘えますか」
「妾もお菓子が食べたいしの」
「決まりじゃな」
それから夕飯までご馳走になった俺とゼノア、フィアは家に帰るのだった。
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