第171話
昼休み、人気のない空き教室に山下さんを呼び出して、単刀直入に尋ねた。
「山下さんが嫌がらせを受けているのを見たってヤツがいるんだけど、なんか心当たりある?」
それまで明るく笑っていた山下さんが、突然真顔になって黙り込んだ。
みるみる顔色が悪くなっていく。
修の疑惑は当たっていたみたいだ。
俺はできるだけ優しい言葉を選んで、もし何かあったなら話してほしい、山下さんの力になりたいと申し出た。
すると山下さんは、表情を歪めて何かを考えているような素振りを見せた。
そして数十秒経ったあと、ふっと顔に笑みを戻して、いじめについて話してくれた。
昨日悪口を書かれた大量の紙切れが机に入っていた。
それが最初だったらしい。
そして今朝、上履きがなくなっていた。
さらに今に至るまでに、文房具がなくなっていたり、ロッカーが汚されていたりといった嫌がらせもあったみたいだ。
「今までそんなことされた経験なかったから、さすがにびっくりしちゃったよ~。暇な人もいるもんだね」
まるで気にしていないように笑いながら話す山下さんを、俺は痛々しく思いながら見つめていた。
必死に笑みを作ってごまかそうとしているけど、それは明らかに虚勢だ。
山下さんのことは中学から知ってるけど、誰にでも優しくて、明るくて、こんな下らないいじめを受けていい人じゃない。
こんなふうに傷ついた笑顔をさせていいわけがない。
「平田くん、このことは誰にも言わないで。先生にも、私の友達にも。心配かけたくないし、それに問題を大きくしたくないんだ。無視してればきっとすぐ収まるだろうし」
俺はもちろん反論した。
だけど、山下さんは首を横に振って言った。
もうこのことは忘れてくれていい、と。
そんなのは本心じゃない。
じゃあなんでいじめのことを俺に話したんだ?
関わってほしくないなら、いじめなんかないと否定すればよかった。
話したのは、助けてほしいと思ったからじゃないのか?
「いじめた側ってけっこう重い処分が下るって聞くし、それもなんか……可哀想、だよ。だから、このまま何もなかったみたいに収まるのがベストだと思う」
その言葉に俺は驚きを隠せなかった。
山下さんは自分がいじめを受けているのに、それを行っている犯人たちの心配をしている。
山下さんは本当に優しくて、いい子だ。
だけどそんなのは間違っている。
「心配してくれてありがとう。でも、本当に大丈夫だから」
山下さんは聞く耳持たず、強引に話を切り上げて去っていった。
一人になった俺は奥歯を噛み締めて決意を新たにする。
山下さんに拒絶されてしまったけど、俺の心は変わっていない。
ふざけるな。
いじめなんていう、人として最低で下衆な行為をしたやつが、裁かれることもなくのうのうと生きていくなんてこと、絶対に許されないんだ。
犯人の好きにはさせない。
俺はもう失敗しない。
必ず犯人を見つけ出して、相応しい報いを受けさせてやる。
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