第132話
永瀬くんから拒絶の言葉を言い放たれたとき、私はショックでしばらくその場から動けなくなってしまった。
自分の心が鉛球になってしまったのかと錯覚するほど、重く、暗く落ちていき、涙で目が潤んで視界がぼやける。
どれだけ立ち尽くしていたかはわからないけど、突然放心状態から戻った私は、揺れる心を必死に整えながら急いでその場から離れた。
このままここにいればまた永瀬くんと鉢合わせてしまう。
永瀬くんが今の私の顔を見たら、きっとそれまで以上に私のことを疎ましく思うだろう。
私がアリーナに戻ると幸いにも皆自分たちの練習に集中していた。
顔を見られないようにしながら私物を回収して、何事もないように皆に挨拶をして帰った。
いつもならもっと残って自主練習をしているのに、こんなに早く切り上げるのはいつぶりだろうか。
もちろん更衣室に入るときも出るときも、永瀬くんに会わないように慎重に行動した。
うちに帰ってからも、寝るまでの間ずっと永瀬くんのことを考えてた。
なぜ、永瀬くんがあんなにもつらそうな顔をしていたのか。
長い時間をかけて考えれば、さすがに私なりの答えが浮かび上がってくる。
今まで永瀬くんに頼りすぎていたのかもしれない。
永瀬くんはいつだって優しく丁寧に、色んなことを教えてくれるから、それが嬉しくて、楽しくて、いつの間にかそれが当たり前のことのように思っていたのかも。
でも永瀬くんにとってそれは、本当はとても負担だったんだ。
私はそれに気づけなかった……。
――俺を、そんな期待のこもった目で見ないでくれ。正直しんどいんだよ……!
絞り出すような声で永瀬くんはそう言った。
永瀬くんは知らない。
私がどうして永瀬くんのことをこんなにも信頼して、期待して、尊敬しているのか。
永瀬くんからしたら、理由もわからずそんな感情をずっと向けられ続けて、プレッシャーを感じて当然だ。
それなのに私は、隠し事をしたままずっと永瀬くんに甘えていた。
この隠し事は、別に打ち明ける必要はないと思っていた。
でもこんなことになった以上、話した方がいい……いや、話さなければならないのかもしれない。
私がどうして永瀬くんに特別な感情を抱いているのかということを――。
だけどそれは今すぐじゃダメだ。
それだけじゃ結局、永瀬くんに甘えっぱなしの、私の図々しい性根は変わらない。
変わっていかなくちゃ。
自分に何が必要なのか、どういう努力をしていかなければならないのか、もっと考えていかなくちゃ。
永瀬くんに負担をかけないように。
決めた。
明日からもう、永瀬くんに頼るのはやめよう。
私は初心者だから、どのみち他の人に頼らなくちゃいけないのは変わらないけど、永瀬くんだけに頼るんじゃなくて、先輩たちに自分からどんどん教えてもらいに行こう。
そうすれば、永瀬くんはまた笑ってくれるかな……。
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