第123話
今日はとてもびっくりした。
全国総体で名瀬高の選手として出場していた一年生の女の子が突然現れたと思ったら、その子が永瀬くんと知り合いだったなんて。
相馬凛。
私と同じくらいの身長で、爛漫とした笑顔を振り撒くその子は、永瀬くんとの再会によっぽど感激していたのか、時折涙を見せていた。
私なんか眼中にないみたいに、親しげに永瀬くんと話している相馬さんを見ていると、なぜだか胸の中にもやもやした感情が湧いてきた。
それに、満更でもなさそうな表情で応じる永瀬くんに対しても……。
久し振りに友達に会ったら誰だってあんな風になる。
自分にそう言い聞かせながら二人の話を聴いていた。
そうしたら相馬さんが永瀬くんに自分の成長を見せると言って、ドリブルテクニックと3Pシュートを披露した。
総体に出たときもプレーを見てたから、上手なのはわかっていた。
けど目の前でその動きを見せられると、改めて自分との差を突きつけられた。
相馬さんは永瀬くんに出会ってから六年間ずっと努力してきた。
片や私はまだ初めて四ヶ月とちょっと。
差があるのは当然で、私だってそれはわかっていた。
わかっていたのに。
永瀬くんが相馬さんを褒めた瞬間、悔しさや情けなさ、もどかしさなんかが入り混じったような、わけのわからない感情が胸の中に渦巻いてきた。
その感情にあてられてしまったのか、一対一を申し込まれたとき、永瀬くんが止めようとするのを振り切ってOKしていた。
勝つ算段なんてなかった。
ただ、なぜだかあのまま引き下がるわけにはいかないと思ったんだ。
結果は惨敗。
ムキになって無様にすがりついて、最後には思うようにいかなくて悪態までついてしまった。
みっともない、情けない自分が恥ずかしくて、顔から火が出るかと思った。
でもそんな私の手をとって、相馬さんは目を輝かせながら褒めてくれた。
正直私の何がそんなに気に入ったのかわからなかった。
ただ、相馬さんは純粋にバスケで勝負してくれて、勝敗とか敵とか、そういう概念を越えて私を認めてくれたのに、私は自分勝手な感情でムキになっていた。
そのことに気づいて、私は「あぁ、負けたな」って思った。
バスケだけじゃなくて、それ以外のことも。
相馬さんが帰ってから永瀬くんと話して驚いた。
相馬さんと永瀬くんは、たった一度だけ一緒にバスケをしたというだけの関係らしい。
それなのに、昔からの幼馴染みに再会したみたいに喜んで、まるで昔と同じような感覚で話していた。
そう考えるとまた苛立ってきた。
出会ってからの時間が大切なら私だって……。
ううん、違う。
相馬さんと永瀬くんとの繋がりは、私のそれなんかよりもよっぽど強固なものなんだ。
二人は確かに六年前、同じ時を過ごして、それから相馬さんは永瀬くんのことを想い続けてきた。
私にとってそれはとても純粋で美しいものに写った。
そのことが余計に私の心をちくちくと刺す。
だって私は、真実を隠して一方的に永瀬くんを利用している、ひどい人間だから……。
というか、どうして相馬さんや永瀬くんに対してこんなにも色んな感情が湧き出てくるんだろう。
些細なことでイラついて、ムカついて……。
そんな感情を抱くことはお門違いだってわかっているのに。
なんだか私が私じゃないみたい。
胸のもやもやが消えない。
今日は早く寝よう。
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